カッピングのやり方|プロの評価方法と自宅でできる手順

カッピングのやり方|プロの評価方法と自宅でできる手順

コーヒー業界で豆の品質を判定する際、抽出器具の違いによるブレを排除した評価手法が必要になる。カッピングはこの課題に対する標準的な解答として、生産国から消費国まで世界中で実施されている。スペシャルティコーヒー市場の拡大とともに、産地や焙煎度の違いを正確に言語化する技術への関心は高まり続けている。

目次

カッピングとは何か

カッピング(Coffee cupping)は、コーヒー豆を同一条件で抽出し、味覚と嗅覚の両面から客観的に評価する標準手法である[2]。ドリッパーやエスプレッソマシンといった抽出器具を使わず、カップに粉と湯を直接注いで浸漬抽出するため、器具の操作技術による差が生じにくい。プロの評価者は「Q Grader」と呼ばれる国際資格を持ち、産地での買付けや品質管理の現場で日常的にカッピングを行う[2]

この手法が広まった背景には、スペシャルティコーヒーの台頭がある。1974年にErna Knutsenが「特別な微気候で育った最高品質の豆」を指す用語として”Specialty coffee”を提唱して以降[3]、産地ごとの風味特性を正確に伝える必要性が高まった。1982年に設立されたSpecialty Coffee Association of America(SCAA)は、40か国以上の生産者・焙煎業者・輸入業者を結びつけ[4]、カッピングプロトコルの標準化を推進した。

ある焙煎士の視点

焙煎後24時間以内の豆をカッピングすると、ガス抜けが不十分で本来の風味が見えにくい。私は中煎りなら焙煎後3〜5日、深煎りなら5〜7日置いてから評価している。この待機時間を無視すると、酸味が過剰に立つか、逆にフラットな印象になりやすい。

カッピングとドリップの違い

ドリップ抽出では湯の注ぎ方や粉の蒸らし時間が味に直結するが、カッピングは粉を湯に浸すだけなので再現性が高い。複数の豆を同時に比較する際、ドリップでは1杯ずつ淹れる間に温度や集中力が変化してしまう。カッピングなら5〜10種類の豆を並べて一斉に抽出し、短時間で相対評価できる。

スペシャルティコーヒーとカッピングの関係

スペシャルティコーヒーは単一農園や単一品種の豆を指すことが多く[3]、産地のテロワール(風土)が風味に反映される。この微細な差を捉えるには、抽出条件を完全に揃えた評価が不可欠である。SCAが定めるスコアシートでは、80点以上の豆がスペシャルティグレードと認定される。カッピングはこのスコアリングの土台となる手法であり、生産者への適正な対価を決める根拠にもなる。

SCAカッピングプロトコル

Specialty Coffee Association(SCAはSCAAとヨーロッパの団体が2017年に統合した組織)が定めるプロトコルは、世界中で再現可能な評価基準を提供する。以下の表に主要なパラメータをまとめた。

項目標準値備考
コーヒー粉量8.25 gカップ容量150 mLあたり
湯温93°C注湯時点での温度
粉湯比1:18.18粉8.25 gに対し湯150 mL
浸漬時間4分ブレイク後の待機時間を含む
挽き目中挽き〜中粗挽き粒度は70〜75%が20メッシュ通過

粉量と湯量の比率は重量ベースで計算する。容量カップ(mL)ではなくスケールでグラム単位で量ることで、豆の密度差による誤差を防ぐ。湯温は沸騰直後の100°Cではなく、93°C前後に冷ましてから注ぐ。これは過抽出による雑味を避けるためである。

ある淹れ手の視点

国内のハンドドリップ愛好家は90〜92°Cを好む傾向があるが、カッピングでは93°Cが標準だ。この微妙な温度差が、酸味の立ち方や甘味の感じ方に影響する。自宅で試す際は温度計を使い、まず標準値で評価してから好みに応じて調整するとよい。

粉の挽き方と粒度管理

カッピング用の挽き目は、ペーパードリップの中挽きよりやや粗い。粒度が細すぎると微粉が多くなり、液面に浮く粉(クラスト)が厚くなりすぎる。逆に粗すぎると抽出不足で風味が薄くなる。業務用ではグラインダーの校正を定期的に行い、粒度分布を一定に保つ。

抽出時間と温度管理

湯を注いでから4分間は粉を攪拌せず、液面に浮いたクラストをそのまま維持する。この間に粉から成分が湯に溶け出す。4分経過後にスプーンでクラストを破る「ブレイク」を行い、香りを評価する。その後さらに8〜10分待ち、液温が70°C前後まで下がったところでスラープ(すすり飲み)を開始する。

カッピングの手順

カッピングは大きく分けて4つのフェーズで進行する。各フェーズで評価する要素が異なるため、段階ごとに集中するポイントを切り替える必要がある。

ドライフレグランスとクラスト形成

1. カップに挽いたコーヒー粉8.25 gを入れる

2. 鼻を近づけ、乾いた粉の香り(ドライフレグランス)を評価する

3. 93°Cの湯150 mLを粉全体に行き渡るよう注ぐ

4. 粉が液面に浮いてクラストを形成する。この状態で4分間待つ

ドライフレグランスは焙煎直後の豆ほど強く香る。ナッツ、フルーツ、花などの香りの種類を記録する。湯を注ぐと粉が膨らみ、液面に厚い層を作る。この層が香気成分を閉じ込めるため、ブレイクまで香りは穏やかである。

ブレイクとクラストブレイキング

4分経過後、スプーンの背でクラストを3回かき分ける。この瞬間に大量の香気成分が放出されるため、鼻をカップに近づけて深く吸い込む。これを「クラストブレイク」と呼び、フレグランス(湯を注いだ後の香り)を評価する最も重要な瞬間である[2]。ブレイク時の香りは豆の品質を端的に示し、欠点豆(カビ臭、発酵臭)の有無もここで判別できる。

スキミングと液面清掃

ブレイク後、液面に残った粉や泡をスプーンで掬い取る。この作業を「スキミング」と呼ぶ。粉が口に入ると食感が邪魔になり、風味の評価が難しくなるため、丁寧に除去する。スキミングが終わったら8〜10分待ち、液温を70°C前後まで下げる。

スラープと風味評価

液温が下がったら、スプーンで液体をすくい、空気と一緒に勢いよく口に吸い込む。これを「スラープ」と呼ぶ[2]。空気と混ぜることで液体が舌全体に広がり、酸味・甘味・苦味・ボディ(質感)を同時に感じ取れる。1回のスラープで評価しきれない場合は、複数回繰り返す。液温が下がるにつれて風味の印象は変化するため、70°C、60°C、50°Cと段階的に評価するのが理想である。

ある焙煎士の視点

スラープの音が大きすぎると周囲に迷惑だが、音が小さいと空気が足りず風味が広がらない。私は「シュルシュル」と2回に分けて吸い込むことで、適度なエアレーションと静音性を両立させている。

カッピングの評価項目

SCAのスコアシートは10項目で構成され、各項目を10点満点で採点する。合計100点のうち80点以上がスペシャルティグレードの基準となる。以下に主要な評価項目を示す。

評価項目英語表記評価内容
フレグランス/アロマFragrance/Aroma乾いた粉とブレイク時の香り
フレーバーFlavor口に含んだときの味と香りの一体感
後味Aftertaste飲み込んだ後の余韻の長さと質
酸味Acidity酸の明るさ、質、強度
ボディBody液体の重さ、粘性、舌触り
バランスBalance各要素の調和
甘味Sweetness砂糖様の甘さではなく、果実的な甘味
クリーンカップClean Cup雑味や欠点の有無
均一性Uniformity複数カップ間での味のばらつき
総合評価Overall評価者の主観的な好み

フレーバーと後味

フレーバーは味覚と嗅覚の複合的な印象を指す。チョコレート、ベリー、柑橘といった具体的な風味を言語化する。後味(Aftertaste)は飲み込んだ後に口腔内に残る余韻であり、長く心地よい余韻は高評価につながる[2]。逆に、渋みや苦味が残る場合は減点対象となる。

酸味とボディ

酸味(Acidity)は単に酸っぱいかどうかではなく、酸の質と明るさを評価する。リンゴ酸やクエン酸のような爽やかな酸は高評価であり、酢酸のような刺激的な酸は欠点とみなされる。ボディ(Body)は液体の重さや粘性を指し、「軽い」「中程度」「重い」といった表現で記録する[2]。エスプレッソ向けの深煎り豆は重いボディを持ち、浅煎りの単一農園豆は軽いボディになりやすい。

甘味とバランス

甘味(Sweetness)は砂糖を加えた甘さではなく、豆自体が持つ果実的な甘味を指す。完熟した果実から取り出された豆ほど甘味が強い。バランス(Balance)は、酸味・甘味・苦味・ボディが互いに調和しているかを評価する。一つの要素が突出しすぎると減点される。

ある淹れ手の視点

国内では酸味を敬遠する消費者が多いが、カッピングでは酸味の質が重視される。明るく爽やかな酸は豆の鮮度とテロワールを示す指標であり、スペシャルティコーヒーの魅力の核心である。自宅でカッピングを試すと、普段のドリップで感じていた「酸っぱさ」が実は豆の欠点ではなく、抽出温度や時間の問題だったと気づくことが多い。

自宅でできる簡易カッピング

業務用のカッピングセットがなくても、基本的な器具で簡易版を実施できる。特別な資格や高価な機材は不要であり、複数の豆を比較する習慣をつけるだけで味覚の解像度は大きく向上する。

必要な器具と代用品

  • カップ: 容量150〜200 mLの陶器製マグカップ(耐熱ガラスでも可)
  • スプーン: カレー用の深めのスプーン(金属製が望ましい)
  • スケール: 0.1 g単位で計量できるキッチンスケール
  • 温度計: 先端が細く、液体に差し込める棒状温度計
  • グラインダー: 手挽きでも電動でも可。中挽き〜中粗挽きに設定

業務用のカッピングボウルは口径が広く、液面積が大きいため香りが立ちやすい。自宅では口径8〜10 cmのマグカップで代用できる。スプーンは陶器製だと香りが移りやすいため、金属製が推奨される。

簡易プロトコル

1. 豆を2〜3種類用意し、それぞれ8 gずつ中挽きにする

2. 各カップに粉を入れ、ドライフレグランスを嗅ぐ

3. 93°Cの湯を150 mL注ぎ、4分待つ

4. スプーンでクラストを3回かき分け、香りを評価する

5. 液面の粉をスプーンで掬い取る

6. 8分待ち、液温が70°C前後になったらスラープする

7. 各豆の印象をノートに記録する

記録は箇条書きでよい。「豆A: ベリー系の香り、酸味が明るい、後味が短い」といった簡潔なメモを残すだけで、次回以降の比較基準になる。同じ豆を1週間後に再評価すると、鮮度による風味変化も体感できる。

記録と振り返り

カッピングノートには日付・豆の産地・焙煎度・挽き目・湯温を必ず記載する。評価項目はSCAの10項目を全て書く必要はなく、最初は「香り」「酸味」「甘味」「後味」の4項目に絞ってもよい。数か月分のノートを見返すと、自分の好みの傾向(酸味が強い豆を好む、重いボディを好む等)が可視化される。この言語化された好みは、豆を購入する際の判断基準となる。

カッピングを活かした豆選び

カッピングで得た知見は、日常のコーヒー選びに直結する。自分の好みを「酸味が明るく、ボディが軽い」といった具体的な言葉で説明できるようになれば、ロースターや店員とのコミュニケーションが円滑になる。

好みの言語化と購入基準

「美味しいコーヒーが飲みたい」という漠然とした要望では、店員も推薦しづらい。「前回買ったエチオピア イルガチェフェの花のような香りが好きだったので、似た傾向の豆を探している」と伝えれば、ケニアやコスタリカの浅煎り豆を提案してもらえる。カッピングで培った語彙は、こうした具体的なリクエストを可能にする。

産地と精製方法の選択

カッピングを繰り返すと、産地ごとの風味傾向が見えてくる。エチオピア産はフローラルで明るい酸味を持ち、ブラジル産はナッツ系で重いボディを持つことが多い。精製方法(ナチュラル/ウォッシュト/ハニープロセス)も風味に大きく影響する。ナチュラル精製は果実感が強く、ウォッシュトはクリーンで酸味が際立つ。自分の好みに合う産地と精製方法の組み合わせを見つけることが、豆選びの近道である。

焙煎度と抽出方法の最適化

カッピングは中煎り程度の焙煎度で行うことが多いが、同じ豆を浅煎り・中煎り・深煎りで比較すると、焙煎度による風味変化を体系的に理解できる。浅煎りは酸味と香りが際立ち、深煎りは苦味とボディが強調される。自分が普段使う抽出方法(ドリップ/エスプレッソ/フレンチプレス)に合わせて、最適な焙煎度を選ぶ判断材料になる。

ある焙煎士の視点

カッピングで高評価だった豆が、ドリップでは期待外れに感じることがある。これは抽出方法による成分の溶出バランスの違いが原因だ。カッピングは全成分を均等に抽出するが、ドリップは湯の通り道や蒸らし時間で味が変わる。カッピングで好みを見つけたら、次はその豆を自分の抽出方法で淹れ、レシピを微調整する段階に進むとよい。

結論

カッピングは抽出器具の差を排除し、豆本来の風味を客観的に評価する標準手法である。SCAが定める粉量8.25 g、湯温93°C、浸漬時間4分というプロトコルに従えば、世界中どこでも再現可能な評価ができる[2]。ドライフレグランス、ブレイク、スラープという段階的な手順を踏むことで、香り・味・後味を多角的に捉えられる。評価項目はフレーバー、酸味、ボディ、甘味、バランスなど10項目に分かれ、80点以上の豆がスペシャルティグレードと認定される[3]

自宅での簡易カッピングは、マグカップとスプーンがあれば始められる。複数の豆を同時に比較し、ノートに記録する習慣をつけることで、自分の好みを言語化できる。この言語化された好みは、豆を購入する際の具体的な基準となり、ロースターや店員とのコミュニケーションを円滑にする。産地ごとの風味傾向や精製方法の違いを体系的に理解すれば、毎回の豆選びが試行錯誤ではなく、論理的な選択になる。

私自身、カッピングを習慣化してから、豆の個性を「なんとなく美味しい」ではなく「クエン酸系の明るい酸味と、ジャスミンに似た香り」といった具体的な言葉で説明できるようになった。読者の皆さんも、まずは2種類の豆を並べてカッピングを試してほしい。その比較体験が、コーヒーの風味を読み解く第一歩になる。

参考文献

  1. コーヒー
    https://ja.wikipedia.org/wiki/コーヒー
  2. Coffee cupping
    https://en.wikipedia.org/wiki/Coffee_cupping
  3. Specialty coffee
    https://en.wikipedia.org/wiki/Specialty_coffee
  4. Specialty Coffee Association of America
    https://en.wikipedia.org/wiki/Specialty_Coffee_Association_of_America
  5. Coffee bean
    https://en.wikipedia.org/wiki/Coffee_bean

この記事を書いた人

コーヒーを「なんとなく美味しい」で済ませない、Coffee Pick Lab。豆の品種から抽出収率まで、つい数字で語ってしまうコーヒーメディアです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料と再現性を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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