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コーヒーのカビ毒オクラトキシンAに基準値はあるのか|EUは焙煎豆とインスタントだけ、生豆には無い

コーヒーのカビ毒オクラトキシンAに基準値はあるのか|EUは焙煎豆とインスタントだけ、生豆には無い

コーヒーのカビ毒オクラトキシンAの基準値は、EUが焙煎豆と可溶性コーヒー(インスタントコーヒー)に数値を置いているだけで、生豆にはEU・Codex・日本のいずれも基準値を置いていない[1][2][4]。「無い」と書く範囲は、確かめた文書と版を比較表の下に記した。以下、機関はEU→Codex→日本、段階は生豆→焙煎豆→インスタントコーヒーの順に記録する。

この記事の結論
  • コーヒーのカビ毒オクラトキシンAに基準値を置くのは、EU・Codex・日本のうちEUだけである。
  • EUの統合版(2026年8月19日時点)は焙煎コーヒー豆3,0µg/kg、可溶性コーヒー5,0µg/kgとする。
  • 生豆に基準値が無いという記録は確かめた版の範囲のもので、EUは統合版の日付、Codexは改正年を見る。
目次

オクラトキシンAとは何の話か

産生する菌と汚染が報告される食品

オクラトキシンAは数種の菌によって産生されるかび毒で、穀類、コーヒー、ココア、ビール、ワイン等様々な食品で汚染が報告されている[5]。この物質そのものの性質や毒性の機序には立ち入らず、各機関が置いている基準値の有無と数値だけを扱う。

この記事が扱わない範囲

耐容摂取量やばく露量の評価、健康への影響の判断は本記事の対象外である。そうした評価は食品安全委員会の専門調査会が扱っており[6]、本記事は基準値という制度上の事実を記録することに限定する。数値の出典と版を明示し、確認の手順を示すことを優先する。

深掘りメモ|OTAという略称

食品安全委員会の資料は、評価対象物質を「オクラトキシンA(OTA)」と書いている[5]。出典の中でOTAと出てきたら、同じ物質を指している。

EUの基準値:焙煎豆とインスタントコーヒーにある数値

規則(EU)2023/915 附属書Iの該当項目

EUの基準値は規則(EU)2023/915(統合版、2026年8月19日時点)の附属書I「1.2 オクラトキシンA」に置かれている[1]。該当する項目は二つある。1.2.14「焙煎コーヒー豆及び挽いた焙煎コーヒー(1.2.15に記載の製品を除く)」の最大基準値は3,0(3.0と同じ意味、単位はμg/kg)である[1]。1.2.15「可溶性コーヒー(インスタントコーヒー)」の最大基準値は5,0(5.0と同じ意味、単位はμg/kg)である[1]。

生豆の行は無い

この統合版の附属書Iに、生豆に対応する行は無い。統合版の全文を通しても、green coffee、unroasted、raw coffee の語は出てこない[1]。1.2.14と1.2.15はいずれも「焙煎」または「可溶性」という加工後の状態を指す項目である[1]。段階で言えば、焙煎豆とインスタントコーヒーには数値があり、生豆には数値が無いという構造になっている。

コーヒー代用品に使う乾燥根は別の品目

同じ附属書Iの1.2.7は、ハーブの浸出液又はコーヒー代用品に用いるマシュマロウの根、タンポポの根、オレンジの花(いずれも乾燥)について20としている[1]。coffee の語は出てくるが、これはコーヒー代用品の原料についての行で、コーヒー豆とは別の品目である。

深掘りメモ|EUの数値表記

原文はコンマ区切りの小数表記(3,0/5,0)を採る。初出時にドット表記(3.0/5.0)と同じ数値であることを添えたうえで、以降は原文の表記をそのまま引く。単位はいずれもμg/kgである[1]。

Codexの基準値:コーヒーは実施規範の対象

一般規格CXS 193-1995の表にある数値

Codex(国際食品規格委員会)の一般規格CXS 193-1995(1995年採択、2025年最終改正の版)には、オクラトキシンAの最大基準値の表が置かれている[2]。品目は小麦、大麦、ライ麦が各5、とうがらし・パプリカ・ナツメグが20である(単位はµg/kg)[2]。この表にコーヒーの行は無い。農林水産省のページ(令和4年3月14日更新)は、コーデックス委員会が最大基準値を設定した対象を小麦、大麦及びライ麦とし、香辛料については最大基準値の検討が行われていると書いている[4]。とうがらし・パプリカ・ナツメグの20は、2025年最終改正の版の表に入っている[2]。

コーヒーには実施規範がある

最大基準値の表にコーヒーが無い一方で、CXS 193-1995のオクラトキシンAの項には、関連する実施規範として「コーヒーのオクラトキシンA汚染の防止及び低減に関する実施規範(CXC 69-2009)」が挙がっている[2]。一般規格の全文で coffee の語が出るのは、この実施規範の名称としてだけである[2]。この実施規範は数値の上限を定めるものではなく、収穫から取引までの各段階での作業のやり方を示すものである。収穫後に作物を選別・乾燥し、豆の水分含量を最大12.5%まで下げてオクラトキシンAの生成を防ぐという記述が確認できる[3]。

実施規範が採択された年の整理

農林水産省の整理によれば、コーデックス委員会は穀類(2003年)、ワイン(2007年)、コーヒー(2009年)、カカオ(2013年)、香辛料(2017年)について、オクラトキシンA汚染を防止するための実施規範を採択してきた[4]。この並びからも分かるように、コーヒーに関するコーデックスの枠組みは「最大基準値」ではなく「実施規範」という形で存在している。数値の上限値と作業手順は異なる性質の規定であり、この違いを混同しないことが本記事の論点の一つである。

深掘りメモ|実施規範と最大基準値の違い

最大基準値は超えてはならない数値そのものを指す一方、実施規範は乾燥・保管・輸送での作業手順を示す文書である[2][3]。コーヒーに数値が無いことと、対策が無いことは同じではない。

日本の基準値:農林水産省と食品安全委員会の記述

農林水産省「基準値は設定されていません」

農林水産省のページ(令和4年3月14日更新)には「日本では、食品の基準値は設定されていません。」と明記されている[4]。同じページには、農林水産省が米(玄米)及び小麦(玄麦)を対象に複数年にわたり実施した含有実態調査で、オクラトキシンAの濃度が継続して低い値(全試料が0.3μg/kg未満)であったため、これらの農産物については新たなリスク管理措置は不要と判断された経緯が記されている[4]。この記述は米・小麦についてのものであり、コーヒーの基準値そのものを扱うものではない。

食品安全委員会の評価対象にコーヒーは入っていない

食品安全委員会は2014年1月に自ら評価を行っている[5]。同じ資料が今般の評価として書いているのは、「小麦及び大麦についてOTAを5 μg/kgを超えて含有するものであってはならない旨の成分規格を新たに設定すること」に係る食品健康影響評価である[5]。評価の対象として書かれているのは小麦及び大麦の成分規格で、コーヒーの成分規格は挙がっていない[5]。

評価書の第2版は案の段階(2026年2月20日)

2026年2月20日に開催された第62回かび毒・自然毒等専門調査会の会議資料には、資料1として、かび毒評価書「オクラトキシンA(第2版)」(案)が挙がっている[6]。参考資料には平成26年1月27日付けの「かび毒評価書 オクラトキシンA」も並んでいる[6]。この開催日の時点で、評価書の第2版は案の段階にある。

深掘りメモ|評価対象の切り分け

食品安全委員会の資料が評価の対象として書いているのは小麦及び大麦の成分規格で、コーヒーの成分規格は挙がっていない[5]。オクラトキシンAの評価が進んでいることと、コーヒーに基準値が置かれることは、別の話である。

比較表:EU・Codex・日本の基準値

機関生豆焙煎豆インスタントコーヒー備考
EU無い3,0 µg/kg[1]5,0 µg/kg[1]規則(EU)2023/915 附属書I 1.2.14・1.2.15
Codex無い無い無い実施規範CXC 69-2009が別途存在[2][3]
日本無い無い無い「基準値は設定されていません」[4]、評価対象は小麦・大麦[5]

「無い」と記載した欄は、以下の文書・版を確認した結果である。EUは規則(EU)2023/915の統合版(2026年8月19日時点)で、附属書Iに生豆の行が無く、全文に green coffee、unroasted、raw coffee の語が無い[1]。Codexは一般規格CXS 193-1995の2025年最終改正の版で、オクラトキシンAの最大基準値の表にコーヒーの行が無い[2]。日本は農林水産省のページ(令和4年3月14日更新)の「日本では、食品の基準値は設定されていません。」という記述と、食品安全委員会の資料(評価の対象は小麦及び大麦の成分規格、2026年2月20日の会議資料では評価書の第2版が案の段階)による[4][5][6]。

生豆の段階にあるもの:実施規範が示す作業のやり方

輸送に関する実施規範の記述

CXC 69-2009には輸送に関する項目があり、コーヒーは袋又はバルクで、通常18〜22トン積みのコンテナで運ばれるという記述がある[3]。積み込み前にコンテナが清潔で乾いており、構造的な損傷が無いことを確かめるという手順も示されている[3]。これらは生豆の段階に関わる記述だが、数値の上限を定めるものではなく、輸送時にどのような状態を確認するかという作業のやり方を示すものである。

数値の上限ではなく作業の規範であること

重ねて確認しておくと、CXC 69-2009は最大基準値を定める文書ではない。収穫後の乾燥、保管、輸送といった各段階で、水分や温湿度の管理をどのように行うかを示す実施規範である[3]。生豆の段階で確認できるのは「何μg/kgを超えてはならない」という数値ではなく、「どのような作業を行うか」という手順である。精製工程でカビがどのように生じるかという論点は精製の視点から詳しく扱う記事に委ね、基準値の有無という論点にとどめる。

  • 収穫後の乾燥では、豆の水分含量を最大12.5%まで下げることがオクラトキシンAの生成を防ぐ手順として示されている[3]
  • 輸送では、コンテナの清潔さと乾燥状態、構造的な損傷の有無を積み込み前に確認する手順が示されている[3]

カビ豆の外観による見分け方については選別の観点から扱う記事で扱われており、基準値の制度面に絞って記録する。

深掘りメモ|実施規範の射程

CXC 69-2009が定めるのは作業手順であって、超えてはならない数値ではない[3]。生豆の段階に「基準値が無い」ことと「対策の規範が無い」ことは別の事実であり、両方を分けて記録する必要がある。

読者が次に確かめられること

版の確認が必要な理由

基準値や実施規範は改正される可能性がある制度であるため、本記事で示した数値や記述がそのまま将来にわたって有効とは限らない。EUの規則を確認する際は、統合版の日付(2026年8月19日時点の版を参照している[1])を見ることが確認の起点になる。Codexを確認する際は、一般規格CXS 193-1995の改正年(2025年改正版を参照している[2])を確認する必要がある。

日本の状況を確認する際の着眼点

日本の状況を確認する際は、食品安全委員会の評価の進捗(評価書案の審議状況)と、告示による基準値設定の有無の両方を見ることが確認の手順になる[5][6]。食品安全委員会の資料が評価の対象として書いているのは小麦及び大麦の成分規格で、コーヒーの成分規格は挙がっていない[5]。

本記事は一般的な知見の整理であり、個別の医療アドバイスではない。健康への影響や摂取量に関する判断が必要な場合は、医師や管理栄養士など専門家に相談してほしい。

結論

オクラトキシンAの最大基準値の有無 コーヒーのオクラトキシンAの最大基準値の有無を、EU・Codex・日本の3機関と、生豆・焙煎コーヒー豆・可溶性コーヒー(インスタントコーヒー)の3段階で並べた表。数値があるのはEUの焙煎コーヒー豆3,0µg/kgと可溶性コーヒー5,0µg/kgで、生豆にはいずれの機関も数値を置いていない。Codexは最大基準値ではなく実施規範、日本は農林水産省のページが食品の基準値は設定されていないと書いている。 Fig. Table オクラトキシンAの最大基準値の有無 数値を置いているのはEUの焙煎コーヒー豆と可溶性コーヒーだけ 確かめた版=EU:統合版(2026年8月19日時点)/Codex:CXS 193-1995の2025年最終改正の版 機関 生豆 焙煎コーヒー豆 可溶性コーヒー(インスタントコーヒー) EU 数値を置いていない 3,0µg/kg 5,0µg/kg Codex 数値を置いていない 最大基準値ではなく 実施規範(CXC 69-2009) 最大基準値ではなく 実施規範(CXC 69-2009) 日本 数値を置いていない 「食品の基準値は 設定されていません」 「食品の基準値は 設定されていません」 本文「結論」。日本は農林水産省のページ(令和4年3月14日更新)の記述による。 出典: 規則(EU)2023/915 附属書I/Codex CXS 193-1995・CXC 69-2009/農林水産省 図解:coffee-pick.com

EUの規則(EU)2023/915は、焙煎コーヒー豆及び挽いた焙煎コーヒーに3,0µg/kg、可溶性コーヒー(インスタントコーヒー)に5,0µg/kgという最大基準値を附属書Iに置いている[1]。生豆については、EU・Codex・日本のいずれも数値を置いていない[1][2][4]。Codexはコーヒーに関して最大基準値ではなく実施規範(CXC 69-2009)という形で、乾燥・輸送時の作業のやり方を定めている[2][3]。日本は農林水産省のページ(令和4年3月14日更新)に「食品の基準値は設定されていません」と書かれており、食品安全委員会の資料が評価の対象として書いているのは小麦及び大麦の成分規格で、コーヒーの成分規格は挙がっていない[4][5]。次に確認する際は、EUは統合版の日付、Codexは改正年、日本は食品安全委員会の評価の進捗と告示の有無を、それぞれの資料で見ることが具体的な手順になる。

参考文献

  1. Commission Regulation (EU) 2023/915 of 25 April 2023 on maximum levels for certain contaminants in food(統合版 2026年8月19日、CELEX 02023R0915-20260819)
    https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:02023R0915-20260819
  2. General standard for contaminants and toxins in food and feed(CXS 193-1995)/Codex Alimentarius(FAO/WHO)
    https://openknowledge.fao.org/server/api/core/bitstreams/4d0e7245-8166-49ca-b822-ca80a1ff5cfe/content
  3. Code of practice for the prevention and reduction of ochratoxin A contamination in coffee(CAC/RCP 69-2009)/Codex Alimentarius(FAO/WHO)
    https://www.fao.org/input/download/standards/11250/CXP_069e.pdf
  4. いろいろなかび毒(食品のかび毒に関する情報)/農林水産省
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/kabidoku/kabi_iroiro.html
  5. 食品中のオクラトキシンAの規格基準の設定に係る評価の考え方(案)(第56回かび毒・自然毒等専門調査会 資料3-1より)/食品安全委員会
    https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?fileId=710&retrievalId=kai20251201ks1
  6. 第62回かび毒・自然毒等専門調査会 会議資料詳細/食品安全委員会
    https://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20260220ks1

この記事を書いた人

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