コーヒー豆の買い方で店に伝える情報は、淹れる器具・使い切る量・好みの3つで足りる。挽いてもらう場合も挽き目の呼び名(粗挽き・中挽き・中細挽き・細挽き・極細挽きの5区分[1])を言う必要はなく、器具名を伝えれば店の側で粗さを決められる。専門店のカウンターで何を言えばよいか迷うことがあっても、要点はこの3つに絞れる。
店で伝える3つと、店の側の変換
淹れる器具・使い切る量・好みの3つで足りる
コーヒー豆を店で選ぶとき、何を言えばよいか迷うことがある。産地名や品種名を知らなくても、伝える情報は淹れる器具・使い切る量・好み、この3つで足りる。淹れる器具とは、ペーパードリップ・ネルドリップ・サイフォン・フレンチプレス・エスプレッソマシンなど、家庭で使う抽出方法そのものを指す。使い切る量とは、豆のまま買って自宅で挽くか、挽いてもらった粉をどれくらいの期間で使い切るつもりかという見通しのことで、袋の大きさや豆のまま受け取るか粉で受け取るかの判断材料になる。好みとは、酸味寄りか苦味寄りか、味わいが軽いか重いかという2つの軸で言葉にできるものである。
伝えた3つが店の側で何に変わるか
客が伝える3つの情報は、店の側ではそれぞれ別のものに置き換わる。淹れる器具を伝えると、店はその器具に合う挽き目を選べる。使い切る量を伝えると、店は豆のまま渡すか粉にするか、袋の大きさをどうするかを判断できる。好みを伝えると、店は候補になる豆を絞り込める。対応関係を整理すると次のようになる。
| 客が伝えること | 店の側で決まること |
|---|---|
| ①淹れる器具 | 挽き目 |
| ②使い切る量 | 豆のままか粉か・袋の大きさ |
| ③好み | 豆の候補 |
① 淹れる器具の名前を伝える
挽き目の呼び名は5つある
袋の表示に関する公正競争規約の施行規則は、別表1でレギュラーコーヒーの挽き方を5段階に区分している[1]。別表1は袋の表示についての基準であり、「いれ方や器具に適した挽き方も求められるが、一般的には下記を基準とする」と前置きしたうえで、次の5つを挙げている[1]。
- 粗(荒)挽き:ザラメ状またはそれ以上の粗さ
- 中挽き:グラニュー糖程度の粗さ
- 中細挽き:中挽き、細挽きの中間の粗さ
- 細挽き:グラニュー糖と白砂糖の中間の粗さ
- 極細挽き:細挽き以下の粗さ
この5つの呼び名を覚えて店で言う必要はない。前置きにあるとおり、実際の挽き方は器具によって変わる余地が残されている。
中挽きと中細挽きだけが資料でずれる
挽き目の呼び名は、資料によって指す粗さが一段ずれることがある。全日本コーヒー協会は、中細挽きを「グラニュー糖」くらい、中挽きを「グラニュー糖とザラメ糖の中間」くらいと説明している[2]。別表1は中挽きを「グラニュー糖程度の粗さ」としており[1]、協会が中細挽きに当てる位置と重なって見える。ずれが生じるのは中挽きと中細挽きの2つで、細挽きについては別表1が「グラニュー糖と白砂糖の中間の粗さ」[1]、協会が「上白糖とグラニュー糖の中間」くらい[2]としており、位置はそろっている。2つの資料の文言を並べると次のようになる。
| 呼び名 | 別表1の文言[1] | 全日本コーヒー協会の文言[2] |
|---|---|---|
| 中挽き | グラニュー糖程度の粗さ | グラニュー糖とザラメ糖の中間くらい |
| 中細挽き | 中挽き、細挽きの中間の粗さ | グラニュー糖くらい |
| 細挽き | グラニュー糖と白砂糖の中間の粗さ | 上白糖とグラニュー糖の中間くらい |
中挽きと中細挽きの呼び名は資料によって指す粗さが一段ずれて見えるが、細挽きの位置はそろっている。なお別表1は袋の表示についての基準で、店頭での挽き目の呼び方を定めたものではない。呼び名だけを店で伝えると、その呼び名がどの粗さを指すかの受け取り方に幅が出る余地がある。
市販コーヒーの粒度のばらつきを調べた1979年の報告
挽き目の呼び名が資料間で厳密に一致しないことに加えて、実際に挽かれた粉の粒度そのものにもばらつきがあると報告した例がある。1979年に発表された市販焙煎コーヒーを対象にした研究は、粗挽き・中挽き・細挽きのどの試料についても、粒度分布が会社によって、また同一店でも購入のたびにかなりの変動が見られたと述べている[3]。同じ報告は結びで、市販の焙煎コーヒーに見られる程度の粒度分布のばらつきは「十分に許容される程度のものなのであろう」と述べている[3]。古い1件の報告であり現在の店頭の状況へそのまま一般化できるものではないが、挽き目という区分そのものに一定の幅があることを示す内容である。
別表1は挽き目を「グラニュー糖程度の粗さ」のように砂糖にたとえて示しており[1]、1979年の報告は実際の粉の粒度分布に変動があったと記している[3]。たとえによる区分は器具ごとのおおまかな違いを伝える目的には足りるが、粒の大きさを厳密にそろえることを保証するものではない、と本サイトは読んでいる。
器具の名前を言えば挽き目は店が決められる
全日本コーヒー協会は、挽き方のポイントの一つに「抽出器具に合った粒度にする」を挙げ、器具によってろ過方法が異なるため最適な粒度で挽く必要があると説明している[2]。同協会は、おいしいコーヒーを淹れるための基本原則の一つにも「器具にあった挽き方をする」を挙げている[4]。挽き目の呼び名を自分で選ぶよりも、使う器具の名前を伝えるほうが、店の側がその器具に合う粗さを決められる分だけ確実である。挽き目によって抽出がどう変わるかはコーヒー豆の挽き目と抽出の関係に、ミルの刃の違いはグラインダーの刃の種類に譲る。
② 使い切る量を伝える
粉は表面積が増えて酸化が進みやすい
全日本コーヒー協会は、挽き方のポイントとして「コーヒーを淹れる直前に必要な分量だけを挽く」ことを挙げ、豆は粉状になると表面積が増えるため湿気を吸いやすく、酸化が進んで劣化すると説明している[2]。この説明が示しているのは、豆のまま保つか粉にするかで劣化の進み方が変わるという構造であり、挽いた粉は豆の状態よりも劣化が進みやすい条件に置かれるということである。器具の名前と同じように、この見通しを店に伝えておく意味がある。
豆のままか粉かは使い切る量で決まる
使い切る量を店に伝える意味は、ここに出てくる。短期間で使い切るつもりであれば粉で受け取っても大きな問題にはなりにくく、時間をかけて使うつもりであれば豆のまま受け取って必要な分だけ挽くほうが、酸化の進み方を抑えやすい。粉で買う場合は、使い切るまでの見通しに見合った量を控えめに選ぶ理由がここにある。何日で使い切るか、何グラム買うか、焙煎日から何日が飲み頃かという具体的な数字は、コーヒー豆の鮮度と保存に譲る。
③ 好みを伝える
酸味寄りか苦味寄りか、軽いか重いか
好みを言葉にするときは、酸味寄りか苦味寄りか、味わいが軽いか重いかという2つの軸で足りる。一般に、浅く煎った豆ほど酸味が、深く煎った豆ほど苦味が前面に出やすいとされる。この2軸を伝えるだけで、店の側は候補になる豆をある程度絞り込める。産地や品種、精製方法(ナチュラル・ウォッシュト・ハニープロセスなど)まで指定しなくても、好みは十分に伝わる。
産地や品種の名前を知らなくても言葉にできる
産地や品種の名前を知らなくても、好みを伝えることはできる。ふだん飲んで「おいしい」と感じた一杯の酸味や重さを思い出し、それに近いか遠いかを言葉にすれば足りる。焙煎度と酸味・苦味の関係は焙煎度と風味の科学に、好みを言い表す語彙はコーヒーの風味を表す言葉に譲る。
袋の表示との関係
袋の表示の決まりは、この記事では扱わない。袋の裏の枠に何がどこまで書かれるかは、コーヒー豆の袋の表示にまとめている。
結論:伝える言葉の型
挽いてもらうときと粉で買うときの目安
ここまで見てきたとおり、挽き目の呼び名は資料によって一段ずれることがあり、実際の粒度にも変動があると報告されている[1][2][3]。だからこそ、挽いてもらうときに頼るべきは呼び名ではなく器具の名前であり、粉で買うときに意識すべきは使い切る量である。本サイトでは、店で挽いてもらうときは挽き目の名前ではなく、使う器具の名前を伝えることを目安として推奨します。本サイトでは、粉で買うときは一度に買う量を控えめにすることを目安として推奨します。
伝える言葉の型
実際に何を言えばよいか迷う場合は、器具・量・好みの順に並べるだけでよい。並べる要素は次の3つである。
- 淹れる器具の名前
- 使い切る量についての一言
- 好みについての一言
たとえば「ペーパードリップで淹れます。粉でお願いします。酸味は控えめが好みです」という言い方であれば、器具・使い切る量の見通し・好みの3つが一度に伝わる。これは実際のやりとりの再現ではなく、言い方の型として示すものである。器具の名前、量についての一言、好みの一言、この順番さえ覚えておけば、挽き目の呼び名や産地・品種の知識がなくても困らない。
あわせて読みたい
参考文献
- レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約・同施行規則(別表1 挽き方)/全国公正取引協議会連合会
https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b05_H_coffee.pdf - コーヒーができるまで④ 焙煎・配合・粉砕/全日本コーヒー協会
https://coffee.ajca.or.jp/column/4472/ - 「市販焙煎コーヒーの性状と成分の抽出について」家政学雑誌 30巻8号 (1979)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej1951/30/8/30_8_736/_article/-char/ja - おいしいコーヒーを淹れるための基本原則/全日本コーヒー協会
https://coffee.ajca.or.jp/column/4452/
