コーヒーがコレステロールを上げるかどうかは、豆の種類ではなく抽出方法で決まる。紙フィルターはカフェストールとカーウェオールというジテルペン(樹脂状の油脂成分)をほとんど濾し取るが、煮出しコーヒーには多く含まれ[2]、フレンチプレス(カフェティエール)で淹れたコーヒーにも多く含まれる[1]。同じ豆でも、淹れ方ひとつで血中脂質への働きかけ方は変わりうる。
- コーヒーがコレステロールを上げるかどうかは、豆の種類ではなく紙フィルターを通す抽出方法で決まる。
- 介入試験では19歳から69歳の46人が1日5〜6杯(約0.9リットル)を飲み続けて比較された。
- 職場や外出先のコーヒーがどの抽出方式かを確認すると、条件を意識しやすくなる。
この記事は「コーヒーの健康効果完全ガイド|2026年最新の医学的見解」の各論です。
「コーヒーはコレステロールを上げる?」への答えは淹れ方で分かれる
結論を先に置くと、鍵は豆の種類ではなく抽出方法
「コーヒーを飲むとコレステロールが上がるのか」という疑問は、コーヒー好きの間で繰り返し話題になる。答えは、飲んでいる豆の銘柄や焙煎度合いではなく、その一杯がどうやって淹れられたかで大きく変わる。ハンドドリップで紙フィルターを使ったコーヒーと、煮出したコーヒーやフレンチプレスで淹れたコーヒーとでは、コレステロールに影響するとされる脂質成分の量がまったく異なる。この違いを生んでいるのが、コーヒー豆に含まれる油脂に溶け込んだジテルペンという物質群で、紙フィルターを通すかどうかで抽出液への残り方が変わる。
なぜ単純な二択にならないのか
一方で「コーヒー=コレステロールが上がる」という理解も正確ではない。米国の大規模な観察研究(NHANES)では、コーヒー摂取が総コレステロールやLDLコレステロールの高さと関連する一方、HDLコレステロールや中性脂肪との関係はより複雑で、性別によって形が異なると報告されている(この研究は淹れ方を考慮できなかったことを限界に挙げている)[4]。ある研究では非濾過コーヒーに多く含まれるジテルペンがLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)に関わることが指摘される一方で、性差の影響についてはさらなる検討が必要だとも述べられている[4]。「体に良いか悪いか」という二択で語れる話ではなく、淹れ方という変数を抜きにしては答えが出ない問いである。
原因物質はジテルペン——カフェストールとカーウェオール
コーヒーオイルに含まれる油脂成分
コーヒーの抽出液には、豆に含まれる油分がわずかに溶け出す。この油分の中に含まれる脂溶性の化合物がジテルペンと呼ばれる一群で、代表的なものがカフェストールとカーウェオールである[1][3]。これらは、アラビカ種かロブスタ種か、産地や精製方法(ナチュラルかウォッシュトか)が異なっても、コーヒー豆に共通して含まれる成分である。ジテルペンは油脂に溶けている性質を持つため、抽出液中にどれだけ残るかは豆の個性よりも「どうやって漉すか」に左右される。
濾過方法が残留量を左右する
紙フィルターの目は、コーヒーの微粉だけでなく、油分に溶けたジテルペンの多くを物理的に捕まえる役割を果たす。ウプサラ大学の調査では、紙フィルターを使うドリップ式のコーヒーメーカーが、これらジテルペンをほぼ完全に取り除くとされている[2]。反対に、フィルターを通さずに湯と粉を直接触れさせたまま抽出する煮出しコーヒーは、ジテルペンが油分ごと抽出液に残りやすい構造になっている[2]。同じ豆を使っても、紙を一枚通すかどうかでカップの中身の性質は変わる。
カフェストールとカーウェオールはどちらもジテルペンに分類される脂溶性化合物である。構造はよく似ているが、研究では両者をまとめて論じる場合と、個別に区別して扱う場合がある[3][4]。名前を覚えるより、油脂に溶けた成分だという性質を押さえておくほうが理解しやすい。
古典的な介入研究が示したこと
煮出しコーヒーと紙フィルターコーヒーを比較したランダム化比較試験
コーヒーの淹れ方と血中脂質の関係を調べた研究の中でも、しばしば参照されるのが1996年にBMJ(British Medical Journal)誌に掲載された介入試験である[1]。この試験は、カフェストールとカーウェオールを豊富に含むカフェティエール(フレンチプレスとも呼ばれるプランジャー式の器具で、粉を湯に浸して抽出する)のコーヒーを長期間飲み続けた場合の影響を調べる目的で計画されたランダム化並行対照試験である[1]。淹れ方という一変数を切り出して比較する設計そのものに、この研究のねらいが表れている。
対象と条件は次のとおりである。
- 対象: 19歳から69歳までの健康な男女46人[1]
- 摂取条件: カフェティエールコーヒーまたは紙フィルターコーヒーのいずれかを1日5〜6杯(約0.9リットル)飲み続ける[1]
- 群分け: カフェティエール群は22人、紙フィルター群は24人[1]
- 結果: カフェティエールのコーヒーはLDLコレステロールを9〜14%上げ、24週後の上昇幅は紙フィルター群に比べ0.26 mmol/L(95%信頼区間0.04〜0.47)だった。上昇はいずれも飲むのをやめると元に戻った[1]
試験デザインから分かる範囲
この試験の目的は、血清の肝機能マーカー(アミノトランスフェラーゼ)と脂質濃度への影響を比較することにあった[1]。豆の銘柄やカフェイン量ではなく「濾過するかどうか」という一点を軸に群分けし、その影響を切り分けて検証しようとした点は、後年の研究にもつながる視点である。カフェティエールのように粉と湯を長く接触させ、紙を通さずに注ぐ抽出法は、ジテルペンをより多く残す条件として位置づけられている[1][2]。淹れ方という変数だけを操作したこの種の試験デザインは、後年の大規模な観察研究とあわせて読むことで、淹れ方の違いが持つ意味をより立体的に理解する助けになる[4]。
2025年の実測——職場のマシンコーヒーという盲点
ウプサラ大学が調べた職場のコーヒーマシン
2025年3月に発表されたウプサラ大学のプレスリリースは、家庭のドリップコーヒーではなく職場に設置されたコーヒーマシンに注目した調査を扱っている[2]。煮出したポット式のコーヒーにジテルペンが多く含まれることは以前から知られており、最新の北欧の栄養勧告でも煮出しコーヒーを控えるか避けるようにという助言が記載されているという[2]。この調査が新しいのは、家庭で丁寧にハンドドリップする場面ではなく、多くの人が無自覚に口にしている職場のコーヒーマシンという環境に焦点を当てた点である。
紙フィルターの効果と機種によるばらつきという論点
紙フィルターを使う通常のドリップ式コーヒーメーカーは、ジテルペンをほぼ完全に取り除くことができるとされる[2]。裏を返せば、職場に置かれたコーヒーマシンが紙フィルターを介する方式なのか、煮出しに近い方式なのかによって、同じ「オフィスのコーヒー」でもカップの中身は同じではない可能性がある。ハンドドリップで自分の淹れ方を意識している人ほど見落としやすいのが、こうした「自分で選んでいない一杯」の抽出方式である。どの方式のマシンかを利用者が普段確認する機会は少なく、この点は淹れ方に注意を払っている人にとっても盲点になりやすい。
自宅でペーパードリップを選んでいても、職場や外出先で口にするコーヒーの抽出方式まで意識している人は多くない。紙フィルターを通すかどうかという一点は、銘柄や焙煎度を選ぶより地味だが、ジテルペンの残留量という観点では効果の大きい変数である[2]。
機序の現在地——FXR受容体との相互作用
核内受容体FXRとカフェストールの結合
カフェストールがなぜ血中コレステロールに影響するのか、その分子レベルの仕組みは長く研究対象になってきた。2024年にInternational Journal of Molecular Sciences誌に掲載された論文は、カフェストールおよび16-O-メチルカフェストールという関連物質が、ファルネソイドX受容体(FXR)という核内受容体と相互作用することに注目している[3]。FXRは体内で胆汁酸やコレステロールの代謝に関わる受容体の一種で、ジテルペンがこの受容体に作用することが、コレステロール値の変化に関係する経路の一つとして検討されている[3]。
研究段階であることの位置づけ
ここで注意したいのは、FXRとの相互作用がコレステロール上昇の全体像を説明し切っているわけではない点である。この分野の研究は、どの受容体がどの程度関与するのかを明らかにしていく途上にあり、ヒトの体内で実際にどれだけの影響量になるのかは、なお研究が積み重ねられている段階にある[3]。カフェストールという物質名だけを覚えて単純に「危険な成分」と括るより、コレステロール代謝に関わる受容体との相互作用が調べられている段階の物質、という理解の方が現状に近い。淹れ方による残留量の違いという事実と、体内でどう働くかという機序の解明とは、別の階層の話として分けて捉えたほうがよい。
淹れ方別の整理と結論
抽出方法別ジテルペン残留量の傾向
ここまでの内容を、淹れ方ごとの傾向として整理すると次のようになる。数値は豆の量や湯量、抽出時間といった前提条件によって変わるため、含有量そのものの絶対値ではなく、紙フィルターを通すかどうかという構造的な傾向として読んでほしい。金属フィルターやフレンチプレスの構造による違いは、金属フィルターとフレンチプレスの構造で扱っている。
| 抽出方法 | フィルターの構造 | ジテルペンの残りやすさ(傾向) |
|---|---|---|
| ペーパードリップ | 紙フィルターを通す | 少ない傾向とされる[2] |
| ネルドリップ(布フィルター) | 布を通すが紙より目が粗い | 紙フィルターほど除去されないと考えられる |
| 金属フィルター/フレンチプレス(カフェティエール) | 金属メッシュのみで紙を介さない | 油分ごと残りやすい条件に含まれる[1] |
| 煮出しコーヒー | フィルターを介さない | 多い傾向とされる[2] |
| エスプレッソ | 短時間・高圧で少量を抽出 | 一杯あたりの液量が少なく、飲用量としての条件が異なる |
| インスタントコーヒー | 抽出後に加工された乾燥粉末 | 豆から直接飲む場合と製法上の条件が異なる |
この序列はあくまで含有量の傾向を並べたものであり、飲んだ結果として健康にどう影響するかを個々に断定するものではない。
数値が気になる人の選択肢
検診でLDLコレステロールの数値を指摘された経験がある人にとって、コーヒーの淹れ方は数少ない自分で選べる変数の一つである。ハンドドリップで紙フィルターを使う抽出は、器具の構造そのものがジテルペンを濾し取る仕組みになっており[2]、淹れ方を変えるだけでコーヒーを楽しむ習慣を保ちながら条件を調整できる。紙フィルターがどのような構造で機能しているかは、ペーパードリップの構造で詳しく扱っている。選択肢として意識できる範囲を挙げると、次のようになる。
- 紙フィルターを使った抽出に切り替えるという選択肢がある
- 職場や外出先のコーヒーがどの方式で淹れられているかを確認する
- 数値が気になる場合は医師や管理栄養士に相談する
結論
「コーヒーはコレステロールを上げるか」という問いに一律の答えはない。豆の品種や産地よりも、紙フィルターを通すかどうかという抽出方法の違いが、ジテルペンの残留量、ひいてはコレステロールへの影響に関わる経路の一つとして研究されている[1][2][3][4]。ただし、どの程度数値が動くかには個人差があり、示されている知見の多くは特定の対象や条件のもとでの試験・観察に基づくものであることを踏まえておきたい。本記事は一般的な知見の整理であり、個別の医療アドバイスではない。コレステロール値への感受性は個人差が大きく、脂質異常症などの持病がある人や妊娠中・授乳中の人は、コーヒーの淹れ方を含めた食習慣について医師や管理栄養士に相談したうえで判断してほしい。数値が気になっている場合、まず見直せるのは銘柄選びではなく、日常の一杯をどう抽出しているかという習慣の方かもしれない。
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参考文献
- Urgert R, et al. Comparison of effect of cafetière and filtered coffee on serum concentrations of liver aminotransferases and lipids: six month randomised controlled trial. BMJ. 1996;313(7069):1362–1366
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2352912/ - Uppsala University: Cholesterol-elevating substances in coffee from machines at work
https://www.uu.se/en/press/press-releases/2025/2025-03-21-cholesterol-elevating-substances-in-coffee-from-machines-at-work - On the Cholesterol Raising Effect of Coffee Diterpenes Cafestol and 16-O-Methylcafestol: Interaction with Farnesoid X Receptor
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11173301/ - Coffee consumption as a double-edged sword for serum lipid profile: findings from NHANES 2005–2020
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12283274/
