MENU

コーヒー豆の残留農薬|基準のしくみと、輸入時の違反の記録を平成27年度と令和7年度で読む

コーヒー豆の残留農薬|基準のしくみと、輸入時の違反の記録を平成27年度と令和7年度で読む

コーヒー豆の残留農薬は、物質ごとの残留基準と、残留基準が無い場合に当てられる一律基準(0.01ppm)の2段で管理されており、一律基準を超えて農薬等が残留する食品は販売等が禁止される[1]。輸入時の記録を見ると、腐敗・変敗(異臭やカビの発生等)の違反では、コーヒー豆は平成27年度に品目別で最多だったが、令和7年度の同じ項には挙がっていない[2][3]。残留農薬の違反は、平成27年度にも令和7年度にも記録されている[2][3]。以下、基準のしくみ、輸入時の違反の記録、基準そのものの動きの順に確かめる。

この記事の結論
  • コーヒー豆の残留農薬は、物質ごとの残留基準と一律基準(0.01ppm)の2段で管理されている。
  • 残留農薬の違反は、平成27年度も令和7年度(インドネシアのコーヒー豆で2,4-D 5件)も記録がある。
  • 基準値は改正で動くため、物質名と時点を指定して消費者庁と厚生労働省の最新の公表で確かめたい。
目次

基準のしくみ①個別の基準値と一律基準

ポジティブリスト制度の考え方

食品に残留する農薬等には、農作物ごとに残留基準が定められているものと、定められていないものがある。厚生労働省のQ&Aは、残留基準の定められていない農薬等の残留を一切認めない扱い(いわゆるゼロ規制)にすると、食品等の流通が不必要に妨げられることが想定されたため、法律にもとづいて一定の量を定めることにした、と説明している[1]。これが一律基準で、残留基準が定められていない農薬等が一律基準を超えて残留する食品等は、販売等が禁止される[1]。

一律基準0.01ppmの位置づけ

厚生労働省のQ&Aでは、一律基準は、国際的な評価機関のデータ、国内ですでに評価されている農薬等のデータ、国民の食品摂取量を踏まえて検討し、0.01ppmと設定したと説明されている[1]。適用の対象は残留基準が定められていない場合で、具体的には、どの農作物等にも残留基準が設定されていない農薬等が残留する場合と、一部の農作物等には残留基準がある農薬等が、その基準が設定されていない農作物等に残留する場合の2つが挙げられている[1]。つまり一律基準は、個別の基準値が存在しない場合の「受け皿」であって、個別基準と並び立つ別の基準ではない。

コーヒー豆にとっての意味

コーヒー豆に残留する農薬等についても、この二層構造がそのまま当てはまる。コーヒー豆に残留基準が設定されている物質にはその数値が適用され、設定されていない物質には一律基準の0.01ppmが適用される[1]。後述するクロルピリホスのように、残留基準値が削除されて欄が空欄になった食品には、一律基準(0.01ppm)が適用される[5]。

深掘りメモ|一律基準の位置づけ

一律基準は、残留基準が定められていない場合に適用される数値である[1]。ある物質でコーヒー豆に当たる基準がどちらなのかは、物質ごとに確かめることになる。

基準のしくみ②ほかの国の一律基準

制度導入時に示された各国の数値

厚生労働省のQ&Aは、ポジティブリスト制度を導入している諸外国の一律基準の設定状況も示している。ドイツでは0.01ppm、カナダおよびニュージーランドでは0.1ppmが設定されており、同制度の導入が決定された欧州連合においても日本と同様の0.01ppmという一律基準が設定されている、という説明である[1]。米国については一律基準そのものは定められていないが、運用上0.01〜0.1ppmで判断するとされている[1]。このQ&Aは日本の制度の施行前に書かれたもので、ここに並ぶのはその時点の説明である[1]。

制度の条文上の位置

このQ&Aは、残留基準を食品衛生法第11条第1項の規定に基づいて定められるものとし、一律基準を同条第3項にもとづいて定める量として説明している[1]。いずれもQ&Aが書かれた当時の条番号である。

数値の並びから読めること

各国の数値を並べると、0.01ppmという値を採用している国・地域と、0.1ppmという値を採用している国・地域、そして運用上の判断幅を持つ国に分かれる。この並びは、ある時点でのスナップショットであり、どの国の基準が厳格かという優劣を語るためのものではない。数値はその後の制度改正で変わりうるため、現行の数値を知りたい場合は各国・地域の所管機関の最新の公表を確認する必要がある。

国・地域一律基準の設定状況(制度導入時)[1]
ドイツ0.01ppm
カナダ・ニュージーランド0.1ppm
米国一律基準は未設定、運用上0.01〜0.1ppmで判断
欧州連合0.01ppm(日本と同様)

輸入時の違反の記録①カビ・異臭

平成27年度の記録

厚生労働省の平成27年度の監視指導結果では、腐敗・変敗(異臭やカビの発生等)に係る違反状況が国別・品目別に整理されている。国別では米国22件(20.8%)、タイ16件(15.1%)、コロンビア15件(14.2%)と続き、コロンビアの違反は全てコーヒー豆であった[2]。品目別ではコーヒー豆50件(47.2%)、米23件(21.7%)、小麦22件(20.8%)と続いており、この項目における違反の約半数をコーヒー豆が占めていたことになる[2]。

令和7年度の記録

令和7年度の監視指導結果の同じ項では、国別延べ件数は米国18件(37.5%)、タイ13件(27.1%)、オーストラリア5件(10.4%)と続き、この3か国は米が多かったとされている[3]。品目別では米36件(75.0%)、菜種3件(6.3%)、大麦・小麦・大豆各2件(4.2%)と続いている[3]。この項の本文にも、対応する表8-⑤(総計48件)にも、コーヒー豆は挙がっていない[3]。

2つの年度を並べる

平成27年度は、コーヒー豆が腐敗・変敗の違反で品目別の最多で、国別でもコロンビアの15件が全てコーヒー豆だった[2]。令和7年度の同じ項では米が品目別の最多で、コーヒー豆は挙がっていない[3]。この違いが何によるのかは、この記事では扱わない。記録として読めるのは、ある年度にある品目が最多で、別の年度の同じ項には挙がっていないということである。

年度品目別上位(腐敗・変敗に係る違反)[2][3]
平成27年度コーヒー豆50件(47.2%)、米23件(21.7%)、小麦22件(20.8%)
令和7年度米36件(75.0%)、菜種3件(6.3%)、大麦・小麦・大豆各2件(4.2%)
深掘りメモ|項目名の読み方

「腐敗、変敗(異臭やカビの発生等)」は、残留農薬とは別の違反項目である[2][3]。この項目で上位にある品目が、同じ年度の残留農薬の違反項目で上位にあるとは限らず、項目ごとに別の集計として読む必要がある。

輸入時の違反の記録②残留農薬と検査命令

コーヒー豆の輸入時の違反の記録 コーヒー豆の輸入時の違反の記録を、平成27年度と令和7年度で並べた表。腐敗・変敗では平成27年度にコーヒー豆50件(47.2%)で品目別の最多、令和7年度の同じ項にコーヒー豆は挙がっていない。残留農薬では平成27年度にコロンビアのコーヒー豆でクロルピリホス6件と2,4-D 2件、令和7年度にインドネシアのコーヒー豆で2,4-D 5件が記録されている。 Fig. Table コーヒー豆の輸入時の違反の記録 腐敗・変敗と残留農薬は別の項として集計されている 違反の項 平成27年度 令和7年度 腐敗・変敗 品目別 コーヒー豆50件(47.2%) 品目別の最多 米36件(75.0%)が品目別の最多 この項の本文にも表8-⑤(総計48件)にも コーヒー豆は挙がっていない 腐敗・変敗 国別 米国22件(20.8%)、タイ16件(15.1%)、 コロンビア15件(14.2%) コロンビアの違反は全てコーヒー豆 米国18件(37.5%)、タイ13件(27.1%)、 オーストラリア5件(10.4%) この3か国は米が多かった 残留農薬 表8-③ コロンビアのコーヒー豆 クロルピリホス6件=「基準値あり」の欄 2,4-D 2件=「一律基準」の欄 表8-① インドネシアのコーヒー豆 2,4-D 5件 =「一律基準(0.01ppm)」の欄 本文「輸入時の違反の記録」①②。年度ごとの集計で、違いが何によるのかは扱わない。 出典: 厚生労働省 輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果(平成27年度・令和7年度) 図解:coffee-pick.com

平成27年度の記録に残るコーヒー豆

残留農薬に係る規格違反は、腐敗・変敗とは別の項として集計されている。平成27年度の監視指導結果の表8-③(残留農薬に係る規格違反状況)は、コロンビアのコーヒー豆について、クロルピリホス6件を「基準値あり」の欄に、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)2件を「一律基準」の欄に記録している[2]。残留農薬の違反としてのコーヒー豆は、平成27年度の時点で記録に現れている。

令和7年2月の検査命令

令和7年2月26日付けの通知(健生食輸発0226第1号)は、輸入時のモニタリング検査でインドネシア産コーヒー豆から2,4-ジクロロフェノキシ酢酸を検出したことを受けて、対象食品等を「コーヒー豆及びその加工品(簡易な加工に限る。)」として、食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令の対象に追加するものである[4]。通知は、検査を命ずる理由を「基準値(0.01ppm)を超える2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が検出されるおそれがあるため」と書いている[4]。

令和7年度の記録に残るコーヒー豆

令和7年度の監視指導結果の表8-①(残留農薬に係る規格違反状況)は、インドネシアについて計6件を記録しており、内訳はコーヒー豆の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が5件、カカオ豆の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸が1件である[3]。どちらも「一律基準(0.01ppm)」の欄に書かれている[3]。同じ年度の残留農薬の違反を品目別に見ると、ごまの種子16件(10.5%)、にんじん13件(8.6%)、カカオ豆・だいこん・たまねぎ各10件(6.6%)と続いており、コーヒー豆はこの上位には挙がっていない[3]。

  • 平成27年度(表8-③):コロンビアのコーヒー豆にクロルピリホス6件、2,4-D 2件[2]
  • 令和7年度(表8-①):インドネシアのコーヒー豆に2,4-D 5件、カカオ豆に2,4-D 1件(計6件)[3]
深掘りメモ|検査命令と違反記録の関係

通知は、モニタリング検査での検出を受けて検査命令の対象に品目を加えるもので[4]、監視指導結果の表は年度ごとの違反を集計したものである[2][3]。通知1通と年度ごとの集計からは、検査命令がその後どうなったかは読み取れない。

基準そのものの動き:クロルピリホス

EUでの基準削除

EUの規則(EU)2020/1085(2020年7月23日)は、クロルピリホスおよびクロルピリホスメチルの有効成分としての承認が更新されなかったことを受けて、規則(EC)No 396/2005の附属書IIに定められていた両物質の残留基準を削除することが適当だとしている[6]。あわせて、欧州連合のリファレンスラボラトリーが、両物質について全ての産品で定量下限を0.01mg/kg(原文の表記は 0,01 mg/kg)に設定できると結論したことから、その値を既定値として附属書Vに掲げるとしている[6]。

日本での基準削除

日本では、令和8年9月10日付けの告示(令和8年内閣府告示第114号)により、農薬クロルピリホスの食品中の残留基準値が削除された[5]。厚生労働省の事務連絡に別添された消費者庁の通知によれば、改正告示は告示の日から施行され、改正後の残留基準値は同日から適用される[5]。ただし、コーヒー豆(改正前0.05ppm)を含む一部の食品については、告示の日から起算して1年を経過した日(令和9年9月10日)から施行され、この日から改正後の基準値が適用される[5]。通知の別紙では、コーヒー豆は改正前の残留基準値が0.05ppmで、改正後の欄には数値が無く、基準値を引き下げる品目(施行は告示の日から起算して1年を経過した日)の印が付いている[5]。残留基準値の欄が空欄の食品には、一律基準(0.01ppm)が適用される[5]。なお、クロルピリホスの項の食品については、施行日前に製造され、輸入され、又は加工された食品に限って従前の例によることができるという経過措置がある[5]。

EUと日本の動きを並べる

EUの規則はmg/kgという単位で、日本の通知はppmという単位で基準を書いている。1ppmと1mg/kgは同じ大きさを表す。

地域いつ・どう変わったか
EU規則(EU)2020/1085(2020年7月23日)により、クロルピリホス・クロルピリホスメチルの残留基準を削除し、全産品で定量下限0.01mg/kgとした[6]
日本令和8年内閣府告示第114号(令和8年9月10日告示)によりクロルピリホスの残留基準値を削除。コーヒー豆(改正前0.05ppm)を含む一部食品は令和9年9月10日から施行、基準値空欄の食品には一律基準0.01ppmを適用[5]
深掘りメモ|基準値削除の読み方

EUの規則は、残留基準を削除する理由を、2つの物質の有効成分としての承認が更新されなかったことに置いている[6]。日本の通知が書いているのは、残留基準値の削除、施行期日、経過措置と、基準値の欄が空欄の食品に一律基準(0.01ppm)を適用することである[5]。削除のあとに当たる数値は、EUが定量下限の既定値0.01mg/kg、日本が一律基準0.01ppmである[5][6]。

結論

腐敗・変敗(異臭やカビの発生等)に係る違反では、コーヒー豆は平成27年度に品目別で最多だったが、令和7年度の同じ項には挙がっていない[2][3]。一方、残留農薬に係る違反は、平成27年度のコロンビアのコーヒー豆(クロルピリホス・2,4-D)、令和7年度のインドネシアのコーヒー豆(2,4-D)という形で、両方の年度に記録されている[2][3]。基準値そのものも、クロルピリホスの例のようにEUと日本の双方で動いており、日本では残留基準値が削除された食品に一律基準0.01ppmが適用される[5][6]。

基準値は制度の改正によって随時更新されるため、特定の物質の現行の値を知りたい場合は、基準の所管である消費者庁、輸入時の監視の所管である厚生労働省がそれぞれ公表している最新の情報で確認することが望ましい[5]。本記事は一般的な制度と記録の紹介であり、個別の医療・健康アドバイスではない。感受性や健康状態には個人差があり、妊娠中・授乳中や持病のある人は、必要に応じて医師や管理栄養士など専門家に相談してほしい。

輸入時の手続きの全体像や、カビ毒(マイコトキシン)の基準値については、それぞれ別の主題であり扱わない。精製工程とカビの関係については「ナチュラルプロセス」の記事、欠点豆の見分け方については欠点豆とハンドピックの記事、有機栽培などの認証制度についてはコーヒーの認証に関する記事に、それぞれ論点が委ねられている。国ごとに基準が厳しいか緩いかを一言で語るのではなく、物質名と時点を指定して確かめるのが、この種の記録を読むときの基本的な姿勢になる。

参考文献

  1. ポジティブリスト制度について(Q&A)【いわゆる一律基準について】(質問64〜70)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/dl/060329-1f.pdf
  2. 平成27年度 輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000135162.pdf
  3. 令和7年度における輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果
    https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001743308.pdf
  4. 食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令の実施について(インドネシア産コーヒー豆の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)健生食輸発0226第1号
    https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001424098.pdf
  5. 食品、添加物等の規格基準の一部を改正する告示について(令和8年内閣府告示第114号・クロルピリホスの残留基準値の削除ほか)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001748742.pdf
  6. Commission Regulation (EU) 2020/1085 of 23 July 2020 amending Annexes II and V to Regulation (EC) No 396/2005 as regards maximum residue levels for chlorpyrifos and chlorpyrifos-methyl in or on certain products
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2020/1085/oj

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

目次