カフェと喫茶店のあいだに、いまの食品衛生法の営業許可上の区別はなく、どちらも飲食店営業として扱われる[1]。区別が残っているのは、統計の一部が見ている店の形のほうである。日本標準産業分類の細分類7671「喫茶店」は事例に「カフェ」を含み[5]、小売物価統計調査の基本銘柄はセルフサービスの店かどうかで銘柄を分けている[6]。
結論を先に:3つの物差しのどれで見ているか
「カフェと喫茶店はどう違うのか」という問いは、一つの制度を指しているとは限らない。少なくとも3つの物差しがあり、それぞれが見ている対象も、線を引く場所も異なる。
- ①食品衛生法の営業許可:かつては喫茶店営業という区分があったが、現在は飲食店営業の一形態として統合されており、カフェと喫茶店のあいだに許可上の区別はない[1]。
- ②日本標準産業分類(総務省):細分類7671「喫茶店」の事例に「カフェ」が含まれており、この分類でも2つは分かれていない[5]。
- ③小売物価統計調査(総務省統計局)の基本銘柄:線が引かれているのは「カフェか喫茶店か」ではなく、「セルフサービスの店かどうか」である[6]。
①食品衛生法の営業許可は分けていない
営業許可の制度としては、カフェと喫茶店を分ける規定はいまの食品衛生法には存在しない。厚生労働省の資料は、改正後の変更点として「旧第2号の喫茶店営業は飲食店営業の一形態として統合される。」と説明している[1]。かつて別区分だった営業は、現在はひとつの許可区分に含まれる扱いになっている。
②日本標準産業分類は「カフェ」を「喫茶店」に含める
統計の分類でも、カフェと喫茶店は別々の区分として立てられているわけではない。日本標準産業分類の細分類7671「喫茶店」は、事例として「フルーツパーラー;音楽喫茶;珈琲店;カフェ」を挙げており、カフェはこの分類に含まれる事例の一つである[5]。
③セルフサービスかどうかで分ける統計がある
一方で、総務省統計局の小売物価統計調査は、調査品目「コーヒー(外食)」を2つの符号に分けている。銘柄の文言が線を引いているのは「カフェか喫茶店か」ではなく、セルフサービス店かどうかである[6]。以下では、この順番で①から③まで、根拠となる条文・定義を見ていく。
法律はどう変わったのか
かつての喫茶店営業という区分
2021年6月より前、食品衛生法の営業許可には喫茶店営業という独立した区分が存在した。その定義は施行規則にいまも残っており、「喫茶店営業」は「喫茶店、サロンその他設備を設けて酒類以外の飲物又は茶菓を客に飲食させる営業」とされている[2]。厚生労働省の「営業許可業種の解説」は、飲食店営業の解説のなかで改正後の変更点として「旧第2号の喫茶店営業は飲食店営業の一形態として統合される。」と述べている[1]。同じ資料は主な留意点として、旧第1号の規定で飲食店営業の例示として規定されていた業態(カフェー等)は引き続き飲食店営業の一形態として取り扱う、とも記している[1]。
2021年6月1日の施行と経過措置
食品衛生法施行令を改正した政令(令和元年政令第123号)の附則は、施行の日を「(令和三年六月一日)」と定める[3]。同じ附則の第2条は経過措置を置いており、条件はそのまま次の通りである。すなわち、この政令の施行の際現に旧法第52条第1項の許可を受けて旧施行令第35条各号の営業(改正後の施行令第35条各号の営業のいずれかに該当する営業に限る。)を行っている者は、「当該許可に係る旧法第五十二条第三項の有効期間の満了の日までの間は、なお従前の例により当該営業を行うことができる」[3]。施行日をもって一律に旧い許可が切り替わったわけではなく、条件に当てはまる営業者は、元の許可の有効期間が満了するまでのあいだ従前の例により営業を続けることができる、という組み立てになっている。
附則第2条が定めているのは「なお従前の例により当該営業を行うことができる」という選択肢であり、「従前の例によらなければならない」という義務ではない[3]。新しい枠組みへいつ切り替えるかは、条文の文言だけからは一律に決まらない。
旧い許可の有効期間
いまの食品衛生法は、都道府県知事が営業の許可に「五年を下らない有効期間その他の必要な条件を付けることができる」と定めている[4]。法律が決めているのは有効期間の下限(5年)であって、何年にするかは許可ごとに違う。したがって、2021年6月1日より前に受けた喫茶店営業の許可がいつまで有効かは許可を受けた時点の条件次第であり、一律の期日を導くことはできない。
施行規則に残る「喫茶店営業」の文字
許可の種類としての喫茶店営業は飲食店営業に統合されたが、「喫茶店営業」という言葉自体は条文から消えていない。食品衛生法施行規則第66条の3は、令第34条の2第2号の厚生労働省令で定める営業者を列挙しており、その第1号は「令第三十五条第一号に規定する飲食店営業を行う者(喫茶店営業(喫茶店、サロンその他設備を設けて酒類以外の飲物又は茶菓を客に飲食させる営業をいう。)を行う者及び法第六十八条第三項に規定する学校、病院その他の施設における当該施設の設置者又は管理者を含む。)」としている[2]。施行規則のなかで、この定義つきの括弧書きは第66条の3第1号と別表第十九の2か所に出てくる[2]。「喫茶店営業」は許可の種類の名前ではなくなったが、飲食店営業の一部を指す言葉として、定義つきで条文に残っている。
統計のなかの「喫茶店」と「カフェ」
日本標準産業分類の細分類7671
日本標準産業分類(2023年7月改定)は、大分類M「宿泊業、飲食サービス業」の中分類76「飲食店」のもとに、小分類767「喫茶店」、細分類7671「喫茶店」を置いている。この細分類の説明は「主としてコーヒー、紅茶、清涼飲料などの飲料や簡易な食事などをその場所で飲食させる事業所をいう。」である[5]。事例として挙げられているのは「フルーツパーラー;音楽喫茶;珈琲店;カフェ」であり、不適合事例は「スナックバー[7661]」である[5]。
事例としての「カフェ」
この分類では、「カフェ」は「喫茶店」という区分に入る事例の一つとして扱われており、「カフェ」と「喫茶店」という2つの区分が別々に立てられているわけではない[5]。不適合事例に挙がっているのはスナックバーで、別の細分類の番号[7661]が添えられている。これは細分類7671の外に置かれる店を示す線であって、カフェと喫茶店を分ける線ではない[5]。細分類の説明が書いているのは、事業所が主として何を、どこで飲食させるかである[5]。
細分類7671の不適合事例に挙がるスナックバーには、[7661]という別の細分類の番号が添えられている。カフェは事例としてこの境界の内側に置かれており、喫茶店と同じ側に位置づけられている[5]。
セルフサービスかどうかという別の線引き
小売物価統計調査の基本銘柄
総務省統計局の小売物価統計調査(動向編)の基本銘柄(2026年10月)は、「コーヒー(外食)」という調査品目を2つの符号に分けている。符号2162は「喫茶店(セルフサービス店及びコーヒースタンドを除く)におけるコーヒー,アイスコーヒーは除く,持ち帰りは除く」であり、符号2165は「セルフサービス店(ファーストフード店及びコーヒースタンドを除く)におけるコーヒー(アイスコーヒーを除く),小サイズ,持ち帰りは除く」である[6]。2つの銘柄の文言には「喫茶店」「セルフサービス店」という言葉が使われており、符号2162は喫茶店のうちセルフサービス店とコーヒースタンドを除いたものを指している[6]。
セルフサービスとフルサービスの違い
一般に、セルフサービスの店とは、客がカウンターで注文と会計を済ませ、商品を自分で席まで運ぶ形式の店を指す。これに対して、席に着いたまま注文し、商品が運ばれてくる形式はフルサービスと呼ばれる。これは言葉の一般的な説明で、基本銘柄の文言にあるのは「セルフサービス店」という語までである[6]。符号2162と符号2165の文言が線を引いているのは、セルフサービス店かどうかであって、「カフェ」という呼び名かどうかではない[6]。個々の店がどちらの銘柄で調べられているかは、銘柄の文言からは分からない。
符号2162はアイスコーヒーと持ち帰りを除き、符号2165はアイスコーヒーを除いた小サイズで持ち帰りを除く、という条件つきの銘柄になっている。どちらもコーヒースタンドは除かれ、符号2165はファーストフード店も除く[6]。見出しの言葉だけを取り出して一般化すると、銘柄の条件を読み落とすことになる。
3つの物差しをそろえて見る
ここまでの3つを、何で分けているかという軸でそろえると次のようになる。
| 物差し | 何で分けているか | カフェと喫茶店は分かれるか |
|---|---|---|
| ①食品衛生法の営業許可 | 営業の種類(現在は飲食店営業に統合) | 分かれない。かつての喫茶店営業は飲食店営業の一形態として統合されている[1] |
| ②日本標準産業分類(総務省) | 事業所が主として提供するもの・業態 | 分かれない。細分類7671「喫茶店」の事例に「カフェ」が含まれる[5] |
| ③小売物価統計調査の基本銘柄(総務省統計局) | セルフサービス店かどうか | 「カフェ」「喫茶店」という呼び名では分けていない。セルフサービス店かどうかで符号を分けている[6] |
何を見るかで答えが変わる理由
3つの物差しは、そもそも見ている対象が違う。食品衛生法の営業許可は「どんな営業行為を行うか」を規定し、日本標準産業分類は「事業所が主として何を提供しているか」を分類し、小売物価統計調査の基本銘柄は「どの店のどの1杯の値段を調べるか」を定めている。この3つのうち、カフェと喫茶店という呼び名の違いで線を引いているものはない[1][5][6]。
呼び名と制度を混同しない
「カフェと喫茶店は営業許可が違う」という説明を見かけることがあるが、その説明がいつの時点の制度を指しているかを確かめる必要がある。2021年6月1日より前の食品衛生法施行令のもとでは、喫茶店営業は飲食店営業とは別の区分として存在していた[1][3]。現在の制度のもとでは、この区分は飲食店営業に統合されている[1]。
結論
ここまで見た範囲では、カフェと喫茶店のあいだに現在の食品衛生法上の営業許可の区別はなく、日本標準産業分類でも2つは同じ細分類に属する事例として扱われている[1][5]。ここで見た3つのうち線が引かれているのは、小売物価統計調査がセルフサービス店かどうかで分けている銘柄だけである[6]。「カフェと喫茶店は許可が違う」という説明に出会ったときは、その説明がいつの制度を指しているかを見る必要がある。2021年6月1日より前の話であれば、かつての喫茶店営業という区分についての説明として読める一方、現在の制度についての説明としては当てはまらない[1][3]。
一次資料で確認できること
- 食品衛生法・食品衛生法施行令・食品衛生法施行規則の条文は、e-Gov法令検索で確認できる[2][3][4]。
- 日本標準産業分類の細分類の説明と、小売物価統計調査の基本銘柄は、政府統計の総合窓口(e-Stat)や総務省統計局のページで確認できる[5][6]。
呼び名の先にあるテーマ
喫茶店という呼び名そのものの由来や、純喫茶・名曲喫茶・ジャズ喫茶といった系譜は、本記事で見た条文や統計の定義には出てこない。その歴史的な背景は喫茶店文化の歴史を扱う記事に委ねる。喫茶店の軒数がどう推移してきたかはコーヒーをめぐる統計の記事に、喫茶店で飲むコーヒーの値段がどう上がってきたかは価格転嫁を扱う記事にそれぞれ委ねる。カフェと喫茶店という言葉の違いを調べるときに必要なのは、呼び名の印象ではなく、どの制度・どの統計の話をしているかを先に確かめることである。
参考文献
- 営業許可業種の解説(飲食店営業(第1号関係)ほか)/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000772317.pdf - 食品衛生法施行規則(昭和二十三年厚生省令第二十三号)第66条の3/e-Gov 法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100023 - 食品衛生法施行令(昭和二十八年政令第二百二十九号)附則(令和元年政令第百二十三号による改正・令和3年6月1日施行)第2条/e-Gov 法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000229 - 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)営業の許可に付ける有効期間/e-Gov 法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233 - 日本標準産業分類(令和5年[2023年]7月改定)細分類 7671 喫茶店/総務省(e-Stat 政府統計の総合窓口)
https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10/04/7671 - 小売物価統計調査(動向編)調査品目及び基本銘柄(2026年10月)/総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/kouri/doukou/zuhyou/202610.xlsx
