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コーヒー高騰の需給見通しは当たっていたか|ICO・Conab・USDA の数字が後から書き直された経過

コーヒー高騰の需給見通しは当たっていたか|ICO・Conab・USDA の数字が後から書き直された経過

コーヒーの需給見通しは公表時点の数字であり、高騰の最中に出ていた見通しは、あとから供給が少ない側へ書き直された。ICOは2024年7月に2023/24年度を100万袋の余剰としたが、2026年8月の月報では同じ年度を含め4年連続の不足と数え直している[1][2]。本記事はICO・ブラジルのConab・USDA・ベトナムの順に、その書き直しの経過を数字で追う。

この記事の結論
  • コーヒーの需給見通しは公表時点の数字で、高騰の最中の見通しはあとから供給が少ない側へ書き直された。
  • ICOは2024年7月に2023/24年度を100万袋の余剰としたが、2026年8月の月報は4年連続の不足に含めた。
  • 数字ごとに、いつ・誰が・どの年度について出したか、見通しか実績かの4つを押さえて読む。
目次

ICOが2024年7月に見たわずかな余剰

I-CIPとロンドン先物が付けた高値

ICOの2024年7月の月報は、ICO総合指標価格(I-CIP)の月平均が236.54米セント/ポンドだったと記録している[1]。同じ号ではロンドン先物の月平均が193.93米セント/ポンドに達し、1977年6月以来の高値になったことも示されている[1]。この価格の動きを、同じ月報が示す需給の数字と並べて読む。

100万袋の余剰と10年平均の需給

同じ月報は、2023/24コーヒー年度の需給をわずか100万袋の余剰と記している[1]。同号は価格を押し上げる圧力として、この余剰の小ささと、生産バランスの直近10年の累積平均が−190万袋と負のままであることの2つを挙げている[1]。この時点でのICOの見立てでは、2023/24年度は不足ではなく小幅な余剰の年度として扱われていた。

深掘りメモ|余剰と価格の関係

2023/24年度の需給を100万袋の余剰とした同じ号が、ロンドン先物を1977年6月以来の高値と記録している[1]。月報は、余剰が小さいこと自体を、価格を押し上げる圧力の1つに数えている[1]。

ICOが2026年8月に数え直した4年連続の不足

4年連続の不足という数え直し

2026年8月のICO月報は、2021/22年度から2024/25年度までを4年連続の不足の期間として扱っている[2]。同じ号は2025/26年度について、世界の生産が前年から4.4%増えて1億8,360万袋になり、消費は0.8%減ると見込み、結果として300万袋の余剰を見込んでいる[2]。2024年7月の号が2023/24年度を100万袋の余剰としていたのに対し、2026年8月の号ではこの年度を含む4年間がまとめて不足の期間として数え直されている。どちらもICOという同じ機関が出した月報であり、数字の向きが変わったのは機関をまたいだ違いではない。

表で見る2023/24〜2025/26年度の生産・消費・差し引き

年度生産(百万袋)消費(百万袋)差し引き(計算)
2023/24171.6174.6約−3.0(不足)
2024/25175.9182.2約−6.3(不足)
2025/26183.6180.6+3.0(余剰)

2026年8月のICO月報が示す表によると、2023/24年度は生産171.6百万袋・消費174.6百万袋で、差し引きは約300万袋の不足になる(計算)[2]。2024/25年度は生産175.9百万袋・消費182.2百万袋で、差し引きは約630万袋の不足になる(計算)[2]。2025/26年度は生産183.6百万袋・消費180.6百万袋で、差し引きは300万袋の余剰になり、これは同号が明示する数字と一致する[2]。2023/24年度だけを見ると、2024年7月の号が記した100万袋の余剰から、2026年8月の号の表が示す約300万袋の不足まで、同じ年度についての数字の向きが変わっている。

同じ機関の中で向きが変わった2023/24年度

この変化は、ICOという一つの機関が出した二つの月報を比べたときに見えるものである[1][2]。2024年7月の時点では2023/24年度を小幅な余剰の年度として記していたが、2026年8月の時点では不足側の年度として扱われている。2026年8月号は、ICOが需給の統計を更新して公表したと書いており、表の数字はその更新後のものである[2]。

Conabが記録したブラジル2024年産の収穫

第3回調査が示した5,479万袋

ブラジル国家食糧供給公社(Conab)は2024年9月の第3回調査で、2024年産の生産量を5,479万袋とし、前年比0.5%減と発表した[4]。8月末の時点で面積の96%の収穫が済んだ段階の推計である[4]。Conabは同じ発表の中で、この収穫年の始まりには増産が示されていたと説明している[4]。第3回調査の推計は、前年からわずかに減る結果になった。

当初の増産見込みと単収が下回った経過

Conabは、収穫年の始まりには畑の状況と隔年結実(表年・裏年で収量が変わる性質)の周期から新たな増産を示していたと述べている[4]。しかし干ばつ、まばらで偏った降雨、果実が育つ時期の高温が重なり、単収が当初の見込みを下回ったとしている[4]。Conabが単収低下の要因として挙げているのは次の三つである[4]。

  • 干ばつ
  • まばらで偏った降雨
  • 果実が育つ時期の高温

この説明は、収穫年の始まりの増産見込みがそのまま収穫量に反映されなかった経過を、Conab自身の言葉で示したものである。

アラビカとコニロンの内訳

2024年産の内訳では、アラビカが3,959万袋で前年比1.7%増、コニロンが1,520万袋で前年比6%減となっている[4]。全体としては前年比0.5%減だが、品種別に見るとアラビカとコニロンで向きが逆になっている。ブラジルの産地と品種については、ブラジルの産地解説で扱っている。

深掘りメモ|隔年結実と単収

コーヒーの木は表年・裏年で収量が変わる隔年結実の性質を持つ。収穫年の始まりに増産が示された背景にはこの周期(表年)があったが、干ばつ・偏った降雨・高温が当初見込んだ単収を下げたとConab自身が説明している[4]。

Conab と USDA が分かれた2025年産の推計

USDA現地事務所の半期報告が見た2025/26年度

USDAの現地事務所(在ブラジリア農務部)が2025年12月2日に出した半期報告(BR2025-0048)は、2025/26年度の生産を表のUSDA公式値6,500万袋に対して6,300万袋と見積もっている[6]。同じ報告では、アラビカの推計を4,090万袋から3,800万袋へ下げ、ロブスタは2,500万袋へ引き上げている[6]。報告の冒頭には、USDAの職員による評価であり、必ずしも米国政府の公式の政策を表すものではないという断り書きがある[6]。同じ報告は、Conabが総生産の推計を5,530万袋(2024年比2%増)へ上方修正したと記している[6]。

Conab第4回調査が示した5,650万袋

Conabの第4回調査(2025年12月4日公表)は、2025年産の生産量を5,650万袋とし、前年比4.3%増と発表している[5]。内訳はアラビカが3,576万袋で前年比9.7%減、コニロンが2,080万袋で前年比42.1%増である[5]。全体の増加はコニロンの増産に負っている形で、アラビカは減少している。この数字は、USDAの報告が引用した5,530万袋より後の時点で、Conab自身が示した値である[5]。

表で見る総量・アラビカ・ロブスタの違い

機関公表日対象総量アラビカロブスタ
USDA現地事務所(半期報告)2025年12月2日2025/26年度6,300万袋3,800万袋2,500万袋
Conab(第4回調査)2025年12月4日2025年産5,650万袋3,576万袋2,080万袋

総量約650万袋の差をどう読むか

USDAの6,300万袋とConabの5,650万袋を比べると、総量で約650万袋の差になる(計算)[5][6]。この差は、USDAが対象とする年度(7月から6月の2025/26年度)とConabが対象とする年(2025年産)の区切り方が同じではないことと、推計を出す主体が異なることの両方が条件として関わる。USDAの報告は、ConabとIBGE(ブラジル地理統計院)はどちらもブラジル政府の公式機関だが、生産量の見通しに別々の方法を使っており、これまでも現地事務所より低い推計を出してきたと書いている[6]。どちらの数字が正しいかを、この2つの資料だけで決めることはできない。

深掘りメモ|表の年度表記について

USDAの報告の需給表は、3つ目の列の見出しが2つ目の列と同じ年度のまま刷られている。ただし3つ目の列にある現地事務所の値(総量6,300万袋・アラビカ3,800万袋)は、報告の本文が2025/26年度の見通しとして書く値と一致する[6]。本記事は公式値6,500万袋をこの3つ目の列のUSDA公式値として扱い、現地事務所の推計6,300万袋とは別の数字として区別する[6]。報告の地の文にも6,500万袋という数字が出てくるが、そちらは2024/25年度の推計で、別のものである[6]。

ベトナムの見込みとして伝えられた20%減

2024年4月のICO月報が伝えた当局の見込み

ICOの2024年4月の月報は、3月26日にベトナムの農業当局が2023/24年度の生産について、20%減の147.2万トンになりうると見込んだと伝えている[3]。この数字は干ばつを理由とする見込みであり、過去4年で最も低い水準になりうるという当局の予測として記されている[3]。ICOが伝えているのは当局の見込みであり、ICO自身が実績として確定させた数字ではない。この時点ではまだ収穫が完了していない年度についての予測である。

ロブスタ指標価格が45年ぶりの高値に

同じ月報は、ロブスタの指標価格が193.65米セント/ポンドに達し、1979年7月以来45年ぶりの高値になったと記している[3]。ベトナムは世界的なロブスタの主要な産地であり、同国の生産見込みの悪化が報じられた時期と、ロブスタ価格の高騰が重なっている。ベトナムの産地については、ベトナムの産地解説で扱っている。当局の見込みが出たのは3月26日、ロブスタ指標が45年ぶりの高値を付けたのは4月で、月報はベトナムの供給難を4月の価格上昇の背景の1つとして書いている[3]。

見込みと実績を区別する

ここで扱った147.2万トンという数字は、ベトナムの農業当局による見込みであり、収穫後に確定した実績の数字ではない[3]。ICOの2026年8月の月報の表では、ベトナムが属するアジア・オセアニア地域の生産が、2022/23年度の5,280万袋から2023/24年度の4,700万袋へ減っている(地域の合計で、ベトナム単独の値ではない)[2]。見通しの数字を読むときは、それが見込みの段階のものか、収穫後に集計された数字かを区別する必要がある。ブラジルのConabやUSDAの例と同じく、ベトナムの数字も公表された時点の性質を踏まえて読む対象である。

結論:見通しの数字に付く4つの札

見通しの数字に付く4つの札 本文の結論が挙げる6つの数字を、公表の早い順に並べた表。2024年4月のICO(当局の見込みを伝達)147.2万トン・20%減、2024年7月のICO 100万袋の余剰、2024年9月のConab 5,479万袋、2025年12月2日のUSDA現地事務所 6,300万袋(公式値6,500万袋)、2025年12月4日のConab 5,650万袋、2026年8月のICO 生産171.6・消費174.6百万袋。各行に機関、対象年度、見通しか推計かを添えている。 Fig. Table 見通しの数字に付く4つの札 いつ・誰が・どの年度・見通しか実績かという4つの札で数字を読む。 いつ公表されたか どの機関が出したか 対象年度/性質 数字 2024年7月 ICO 2023/24年度・見通し 100万袋の余剰 2026年8月 ICO 2023/24年度・更新後の統計 生産171.6・消費174.6百万袋 2024年9月 Conab 2024年産・収穫96%時点の推計 5,479万袋 2025年12月2日 USDA現地事務所 2025/26年度・推計 6,300万袋(公式値6,500万袋) 2025年12月4日 Conab 2025年産・第4回調査の推計 5,650万袋 2024年4月 ICO(当局の見込みを伝達) 2023/24年度・見込み 147.2万トン・20%減 本文「結論」。向きが変わっていても、どちらかの機関が誤っていたと決める材料にはならない。 出典: ICO Coffee Market Report/Conab ConabCast/USDA FAS GAIN Report BR2025-0048 図解:coffee-pick.com

いつ・誰が・どの年度・見通しか実績かという4つの札

ここまで見たICO・Conab・USDAの数字は、それぞれ公表された時点・機関・対象年度・見通しか実績かという4つの情報が付いている。この4つを確認せずに数字だけを比べると、同じ機関が出した数字の書き直しを、機関同士の対立であるかのように読んでしまう。見通しの数字を読むときに確認する項目は次の四つである。

  • いつ公表されたか
  • どの機関が出したか
  • どの年度を対象にしているか
  • 見通しか、収穫が進んだあとの推計・更新後の統計か
数字公表年月機関対象年度/性質
100万袋の余剰2024年7月ICO2023/24年度・見通し[1]
生産171.6・消費174.6百万袋2026年8月ICO2023/24年度・更新後の統計[2]
5,479万袋2024年9月Conab2024年産・収穫96%時点の推計[4]
6,300万袋(公式値6,500万袋)2025年12月2日USDA現地事務所2025/26年度・推計[6]
5,650万袋2025年12月4日Conab2025年産・第4回調査の推計[5]
147.2万トン・20%減2024年4月ICO(当局の見込みを伝達)2023/24年度・見込み[3]

生産量の順位や産地の詳細は別記事で

世界の生産量の順位やシェアの全体像は、世界のコーヒー統計で扱っている。本記事で見た数字は、特定の年度・特定の機関が出した見通しと、そのあとの集計の差に絞ったものであり、価格高騰の原因の一覧や年表はここでは扱わない。読み手が次に確認すべきことは、ニュースで見る生産量の数字に、いつ・誰が・どの年度・見通しか実績かという4つの札が付いているかどうかである。数字の向きが変わっていても、それは書き直しが起きたという事実であり、どちらかの機関が誤っていたと決める材料にはならない。

参考文献

  1. ICO|Coffee Market Report – July 2024
    https://www.ico.org/documents/cy2023-24/cmr-0724-e.pdf
  2. ICO|Coffee Market Report – August 2026
    https://www.ico.org/documents/cy2025-26/cmr-0826-e.pdf
  3. ICO|Coffee Market Report – April 2024(Robustas reach 45-year high)
    https://www.ico.org/documents/cy2023-24/cmr-0424-e.pdf
  4. Conab|ConabCast「Safra de café de 2024 é estimada em 54,79 milhões de sacas」(3º levantamento・2024年9月19日公表)
    https://cast.conab.gov.br/post/2024-09-20_3_lev_cafe
  5. Conab|ConabCast「Produção de café em 2025 é estimada em 56,5 milhões de sacas」(4º Levantamento de Café 2025・2025年12月4日公表)
    https://cast.conab.gov.br/post/2025-12-04_4_lev_cafe
  6. USDA FAS|GAIN Report BR2025-0048「Brazil: Coffee Semi-annual」(December 02, 2025)
    https://apps.fas.usda.gov/newgainapi/api/Report/DownloadReportByFileName?fileName=Coffee Semi-annual_Brasilia_Brazil_BR2025-0048.pdf

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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