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コーヒーと水分補給|利尿作用の基礎知識(中立解説)

コーヒーと水分補給|利尿作用の基礎知識(中立解説)

カフェインに利尿作用があることはよく知られており、欧州食品安全機関(EFSA)は2015年の科学的意見の草案で、腎臓のアデノシンA1受容体への作用によって再吸収が抑えられ、尿とナトリウムの排出が増えると説明している[6]。一方で同じ草案は、習慣的なカフェイン摂取による利尿作用が健康な一般の人々の健康に悪影響を及ぼすことは考えにくいとし[6]、EFSAは健康な成人が1日400mgまでの習慣的摂取であれば安全性の懸念は生じないとしている[2]。コーヒーを習慣的に飲む男性50人を対象にした試験では、1日4杯(1杯200mL)のコーヒーを3日間飲んだ場合と同量の水を飲んだ場合とで、体内の総水分量や24時間の尿量に有意な差はなかったと報告されており[7]、「飲んだ分すべてが失われる」わけではない。ただし個人差は大きく、妊娠中や授乳中の女性、カフェイン感受性の高い人は摂取量への配慮が求められる[1][3]。公的機関の見解をもとに、利尿作用の仕組みと水分補給の考え方を整理する。

この記事の結論
  • カフェインには利尿作用があるが、習慣的に飲む人が適量のコーヒーを飲む範囲では、水を飲んだ場合と水分の状態に差が出なかったとする試験がある。
  • EFSAは、健康な成人は1日400mgまでの習慣的摂取なら安全性の懸念が生じないとしている。
  • 妊娠中・授乳中や子ども、感受性が高い人は摂取量を確認し、夕方以降はデカフェへの切り替えも選択肢になる。

この記事は「コーヒーの健康効果完全ガイド|2026年最新の医学的見解」の各論です。

目次

カフェインの利尿作用とは

飲料別のカフェイン含有量 飲料別のカフェイン量を横棒で比較。ドリップコーヒー150mLで約90mg(厚生労働省Q&Aの60mg/100mL換算)、エスプレッソ60mLで80mg(EFSAの目安)、インスタントコーヒー1杯(粉2g)で80mg(厚生労働省Q&A)、紅茶220mLで50mg(EFSAの目安)、せん茶は100mLあたり20mg(厚生労働省Q&A)。 Fig. Scale 飲料別カフェイン量 コーヒーは茶類よりカフェインが多い(量は飲料ごとに異なる) 飲料・容量カフェイン量(mg) ドリップコーヒー150mL約90mg(厚労省換算)エスプレッソ60mL80mg(EFSA)インスタント1杯(粉2g)80mg(厚労省)紅茶220mL50mg(EFSA)緑茶(せん茶)100mLあたり20mg(厚労省) 本文「カフェインの利尿作用とは」。EFSAは1日400mg・1回200mgが上限目安。 出典: 厚生労働省 / EFSA 図解:coffee-pick.com

利尿のメカニズム

カフェインは腎臓の尿細管でナトリウムの再吸収を抑える働きを持つ[7]。EFSAの草案も、カフェインの利尿作用を、腎臓のアデノシンA1受容体への作用によって再吸収が抑えられ、尿とナトリウムの排出が増えることで説明している[6]。通常、体内の水分は腎臓で濾過されたあと大部分が再吸収されるが、カフェインがこのプロセスを抑えることで尿として排出される量が増える。

ただし利尿作用の強さは摂取量と習慣に左右される。カフェインをめぐる疑問を検証した2024年の総説は、習慣的に摂っている人では1日250〜300mg程度(体重1kgあたり約3mg)のカフェインで尿量は増えないとみられ、500mg以上(体重1kgあたり6mg)の多い量では一時的に尿量が増えうるとまとめている[8]。同じ総説は、利尿作用には強い耐性がつき、紅茶やコーヒーを日常的に飲む人では作用が大きく弱まるという先行の総説の記述も引いている[8]。なお厚生労働省は、カフェインを過剰に摂取した場合、中枢神経系の刺激によるめまい・心拍数の増加・興奮・不安・震え・不眠症・下痢・吐き気などの健康被害をもたらすことがあるとしている[3]。

コーヒー1杯のカフェイン量

厚生労働省のQ&Aは、コーヒーの浸出液のカフェイン濃度を100mLあたり60mgとしており、150mLのカップ1杯に換算すると約90mgになる[3]。豆の種類や焙煎度、抽出方法によって幅があり、インスタントコーヒー1杯(2g使用)では80mgとされる[3]。EFSAは目安として、エスプレッソ(60mL)で80mg、紅茶1杯(220mL)で50mgという値を挙げている[2]。

飲料の種類量カフェイン含有量(目安)
ドリップコーヒー150mL約90mg(厚生労働省の60mg/100mL換算)[3]
エスプレッソ60mL80mg(EFSAの目安)[2]
インスタントコーヒー1杯(粉2g)80mg[3]
紅茶220mL50mg(EFSAの目安)[2]
緑茶(せん茶)100mLあたり20mg[3]

厚生労働省の示す濃度で比べると、コーヒーの浸出液は100mLあたり60mg、紅茶は30mg、せん茶は20mgで、コーヒーは茶類に比べてカフェイン濃度が高い[3]。1日の総量は、飲む杯数とカップの大きさから見積もっておきたい。

「脱水になる」は本当か

適量摂取での水分収支

「コーヒーを飲むと脱水する」という説は広く流布しているが、これを直接確かめた試験がある。コーヒーを習慣的に飲む男性50人(普段1日3〜6杯)が、1日4杯(1杯200mL、カフェインは1日あたり体重1kgにつき4mg)のコーヒーを3日間飲む条件と、同量の水を飲む条件を比べたところ、体内の総水分量、24時間の尿量、血液の水分状態の指標に有意な差はなかった[7]。著者らは、カフェインに慣れた男性が適量を飲む場合、コーヒーは水と同じような水分補給の性質をもつことを示唆する結果だとしている[7]。ただし対象は習慣的に飲む男性に限られる。

EFSAは健康な成人に対し、習慣的に1回200mg・1日400mgまでのカフェイン摂取は一般に安全性の懸念をもたらさないとしている[2]。EFSAの草案は、習慣的なカフェイン摂取による利尿作用が健康な一般の人々の健康に悪影響を及ぼすことは考えにくいとしている[6]。ただし個人差があり、カフェインを何日も摂っていなかった人が300mg以上を摂ると尿量が増えるとする総説の指摘もある[8]。

習慣的摂取と耐性

カフェインの利尿作用には耐性がつくとされ、日常的にコーヒーや紅茶を飲む人では作用が大きく弱まると報告されている[8]。先の試験でも、習慣的に飲む人が適量のコーヒーを飲む範囲では、水を飲んだ場合と水分の状態に差はみられなかった[7]。

運動時については、国際スポーツ栄養学会(ISSN)が2021年の公式見解で、推奨される用量のカフェインは水分の状態に大きくは影響しないとみられるとしている[9]。長時間の運動中や発汗量が多い環境では、汗で失う水分を補うために、水や電解質を含む飲料を十分にとりたい。

1日の水分摂取とコーヒーの位置づけ

水分必要量の目安

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」は、水の目安量は定めず参考資料に留めるとしたうえで、国民健康・栄養調査の参加者(15歳以上)の水の摂取量を推定した結果として、年齢区分ごとの平均値が男性で1日約2,600〜2,750mL、女性で約2,200〜2,350mLの範囲にあったと紹介している[12]。この摂取量は飲み物だけでなく食べ物に含まれる水も合わせたもので、同じ資料は、日本人では食物由来が51%、飲物由来が49%と報告されているとしている[12]。

コーヒーを1日3杯(150mLのカップで計450mL)飲む場合、カフェインの総量は厚生労働省の示す濃度(100mLあたり60mg)で換算して約270mgとなり[3]、EFSAが健康な成人について安全性の懸念をもたらさないとする1日400mgの範囲に収まる[2]。先の試験の著者らは、カフェインに慣れた男性が適量を飲む場合、コーヒーは1日に必要な水分の一部になり、水分のバランスに悪影響を及ぼさないことを示唆する結果だとしている[7]。

他の飲料との組み合わせ

項目内容
水カフェインを含まず、体への負担が少ない基本の水分源
麦茶・ハーブティーカフェインフリーで、長時間の水分補給に適する
緑茶・紅茶カフェインを含むが、コーヒーより濃度は低い
スポーツドリンク発汗時の水分・電解質の補給に使われる

コーヒーを楽しみつつ、他の飲料で水分バランスを整えることが現実的な選択肢となる。夏場や運動後は、汗で失った水分を補うことを優先し、コーヒーとは別に水分をとりたい。

注意が必要な人

妊娠中・授乳中の女性

世界保健機関(WHO)は、カフェインを1日300mgを超えて摂っている妊婦に対し、流産や低出生体重のリスクを減らすため摂取量を減らすことを推奨している[4]。EFSAは妊娠中・授乳中の女性については1日200mgまでであれば胎児・乳児への安全性の懸念は生じないとしている[2]。

コーヒー以外にも、紅茶・緑茶・コーラ・チョコレートにカフェインが含まれる点に留意が必要である[4]。1日のカフェイン総量を把握し、複数の食品から摂取している場合は合計を計算することが求められる。

子ども

農林水産省は、子どもや妊婦、授乳中の人、カフェインに敏感な人について、カフェインの摂取量をより少なくするよう案内している[1]。同省の整理では、子どもの摂取上限・目安は欧州・英国で体重1kgあたり1日3mg、カナダでは18歳未満で体重1kgあたり1日2.5mgとされている[1]。体重30kgの子どもなら1日75〜90mgにあたり、150mLのコーヒー1杯(約90mg)で届く計算になるため、子どもへの提供は慎重に判断する。

カフェイン感受性が高い人

カフェインへの反応には個人差があり、少量でも動悸・不眠・不安を感じる人がいる。内閣府食品安全委員会は、効果・リスクともに摂取量と個人の感受性に依存し、過剰摂取を避けることが重要としている[5]。自分の体調を観察し、不快な症状が現れる場合はカフェイン量を減らすか、デカフェコーヒーへの切り替えを検討する。

利尿作用との付き合い方

デカフェ・カフェインレスの活用

日本の公正競争規約は、カフェインを90%以上除去したコーヒーを「カフェインレスコーヒー」などと表示すると定めている[10]。デカフェはカフェインの摂取量を抑えたいときの選択肢になるが、ゼロではなく、米国食品医薬品局(FDA)は、デカフェのコーヒーにも8液量オンス(約237mL)のカップ1杯あたり通常2〜15mgのカフェインが含まれるとしている[11]。超臨界二酸化炭素抽出法やスイスウォータープロセスなど、風味を保ちながらカフェインを除去する技術が普及しており、選択肢は広がっている。

夕方以降や就寝前にコーヒーを楽しみたい場合も、デカフェは選択肢になる。ただしFDAは、カフェインに強く反応する人はデカフェも避けたほうがよい場合があるとしている[11]。利尿作用が気になる人は、1日のうち何杯かをデカフェに置き換えることで、コーヒーの楽しみを維持しながらカフェイン総量を調整できる。

摂取タイミングの工夫

項目内容
朝・午前中カフェインの覚醒作用を活用しやすい時間帯
昼食後眠気覚ましとして1杯
夕方以降利尿作用と睡眠への影響を考慮し、デカフェか他の飲料に切り替える

長時間の移動や会議前など、トイレに行きにくい状況では、コーヒーを控えるか、直前の摂取を避けるのも一つの方法である。

関連トピック

カフェインの作用全般については、別記事「カフェインの基礎知識」で詳しく解説している。覚醒作用・代謝経路・半減期など、利尿以外の側面も含めて理解を深めたい場合は、そちらを参照してほしい。

また、コーヒーの健康影響を包括的に知りたい読者には、「コーヒーと体」カテゴリ内の他の記事も役立つ。抗酸化物質・ポリフェノール・血糖値への影響など、多角的な視点からコーヒーと健康の関係を扱っている。

結論

カフェインに利尿作用があることはよく知られているが、EFSAは2015年の草案で、習慣的な摂取による利尿作用が健康な一般の人々の健康に悪影響を及ぼすことは考えにくいとしている[6]。習慣的に飲む男性50人を対象にした試験でも、1日4杯(1杯200mL)のコーヒーと同量の水とで水分の状態に有意な差はなく[7]、適量であればコーヒーは水分補給の一部になると考えられる。EFSAは、健康な成人では1日400mgまでの習慣的な摂取は安全性の懸念をもたらさないとしている[2]。ただし妊娠中・授乳中の女性や子ども、カフェイン感受性の高い人は摂取量への配慮が必要である[1][3][4]。

杯数は公的機関の示す目安の範囲に収め、夕方以降はデカフェに切り替える方法もある。利尿作用を過度に恐れるのではなく、自分の体調と生活リズムに合わせて摂取量とタイミングを調整することが、コーヒーを長く楽しむ鍵となる。公的機関の示す安全域を参考にしつつ、他の飲料との組み合わせや、必要に応じてデカフェを活用することで、コーヒーと水分補給を無理なく両立できるだろう。

なお、本稿は公的機関の報告に基づく一般的な知見であり、個別の医療アドバイスではない。カフェインの感受性や健康状態には個人差が大きいため、妊娠中・授乳中の女性や持病のある人は、摂取量について医師や管理栄養士など専門家に相談してほしい。

参考文献

  1. 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html
  2. EFSA(欧州食品安全機関)Scientific Opinion on the safety of caffeine
    https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/caffeine
  3. 厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取について Q&A」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html
  4. 世界保健機関(WHO)「WHO recommendations on antenatal care for a positive pregnancy experience」(2016年。勧告 A.10)
    https://www.who.int/publications/i/item/9789241549912
  5. 内閣府 食品安全委員会「食品中のカフェイン」
    https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf
  6. EFSA NDA Panel「Scientific Opinion on the safety of caffeine」(2015年1月の公開協議用の草案・EFSA掲載PDF。4.4.2 Hydration status and body temperature ほか。2026年10月6日閲覧)
    https://www.efsa.europa.eu/sites/default/files/consultation/150115.pdf
  7. Killer SC, Blannin AK, Jeukendrup AE (2014) No evidence of dehydration with moderate daily coffee intake: a counterbalanced cross-over study in a free-living population. PLoS ONE 9(1):e84154(コーヒーを習慣的に飲む男性50人の交差試験。2026年10月7日閲覧)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3886980/
  8. Antonio J ほか (2024) Common questions and misconceptions about caffeine supplementation: what does the scientific evidence really show? Journal of the International Society of Sports Nutrition 21(1):2323919(総説。2026年10月7日閲覧)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10930107/
  9. International society of sports nutrition position stand: caffeine and exercise performance(J Int Soc Sports Nutr 2021;18:1。2026年10月7日閲覧)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7777221/
  10. 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約・同施行規則」(令和6年10月1日施行版。施行規則の表示基準=カフェインを90パーセント以上除去したコーヒーにあっては「カフェインレスコーヒー」等と表示する。2026年10月7日閲覧)
    https://ajcft.org/agreement/20241001_agreement.pdf
  11. 米国食品医薬品局(FDA)「Spilling the Beans: How Much Caffeine is Too Much?」(2026年10月6日閲覧)
    https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/spilling-beans-how-much-caffeine-too-much
  12. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書〈参考〉水(2026年10月7日閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316470.pdf

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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