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コーヒーの生産コストはいくらか|ICO の3か国調査・フェアトレードの算定値・生活所得の基準を層で分ける

コーヒーの生産コストはいくらか|ICO の3か国調査・フェアトレードの算定値・生活所得の基準を層で分ける

コーヒーの生産コストは、どの段階の・どの費用までを・どの国のどの年について数えたかによって別の数字になり、農家段階の生産コスト・FOB段階の最低価格とその算定に使われた費用・世帯の生活所得という層の違う数字を並べて比べることはできない。農家段階の費用(ICO・2019年)、赤字の割合と標本の内訳、国別の推移(ICO・2016年)、FOB段階の最低価格と算定値(Fairtrade)、生活所得の基準(Anker Research Institute)という順に、それぞれの層を分けて見ていく。

この記事の結論
  • コーヒーの生産コストは、どの段階の・どの費用までを・どの国のどの年について数えたかで別の数字になる。
  • ICOの3か国調査(2015/16年度)では、サンプル農家の全経済費用が生豆1ポンド0.79〜1.39ドルだった。
  • 農家段階の費用、FOB段階の最低価格、世帯の生活所得は層の違う数字で、並べて比べることはできない。
目次

農家段階の費用はいくらか|ICO・3か国調査(2019年)

コロンビア・コスタリカ・ホンジュラスの全経済費用

ICOが2019年3月に公表した中間報告(ICC 124-6)は、ラテンアメリカの3か国でコーヒー農家の収益性を調べたものである[1]。この報告はまだ最終版ではなく「interim report(中間報告)」という位置づけで、2015/16年度のデータをもとにしている[1]。生豆1ポンドあたりの全経済費用(無償の労働と固定費まで含めた費用)は、コロンビアが1.39ドル、コスタリカが1.31ドル、ホンジュラスが0.79ドルだった[1]。この数字は、サンプル農家が平均してその価格を受け取らなければ、全経済費用の観点で収支が合わないことを意味する[1]。

現金支出のみで見た費用との差

全経済費用には、現金で支払われていない労働の価値と、固定費(植え付けの費用・金融費用・機械設備の減価償却・土地の機会費用)が含まれている[1]。これらを除いた現金支出のみの費用は、コロンビアが1.00ドル、コスタリカが0.88ドル、ホンジュラスが0.45ドルとなる[1]。両者の差は無償の労働と固定費にあたり、この報告は無償の労働を、サンプル農家が作業ごとに支払った地域の平均賃金の60%で評価している[1]。費用全体に占める労働費の割合は、コロンビアが75%、コスタリカが57%、ホンジュラスが56%で、いずれの国でも労働費が費用の過半を占めている[1]。

国全経済費用(ドル/ポンド)現金支出のみ(ドル/ポンド)
コロンビア1.391.00
コスタリカ1.310.88
ホンジュラス0.790.45

この調査は2016年4月から2017年6月にかけて実施され、対象とした期間は2015/16年度である[1]。無償の労働の評価方法や調査期間が異なれば数値も変わりうるため、この表の数字は2015/16年度・3か国というその時点の条件の中で理解する必要がある。

深掘りメモ|無償労働の評価方法

全経済費用のうち無償の労働の分は、地域の平均賃金の60%で評価するという前提に依存している[1]。この前提を変えれば全経済費用の値そのものも変わるため、他の調査や年度の数値と単純に並べて比較することはできない。

赤字の割合と標本の内訳

現金支出・全経済費用それぞれの赤字割合

同じ中間報告は、サンプル農家のうち費用を価格で賄えなかった割合も示している。現金支出を賄えなかった農家の割合は、コロンビアが34%、ホンジュラスが10%、コスタリカが9%だった[1]。全経済費用の基準で見ると、この割合はコロンビア53%、ホンジュラス25%、コスタリカ28%に上がる[1]。現金支出の基準より全経済費用の基準のほうが赤字の割合が高くなるのは、無償の労働と固定費を加えることで費用のハードルそのものが上がるためである。

国現金支出を賄えなかった割合全経済費用を賄えなかった割合
コロンビア34%53%
ホンジュラス10%25%
コスタリカ9%28%

この53%という数字は、協同組合員から集めたサンプル農家を対象に、2015/16年度の価格で測定した値であり[1]、コロンビアの農家全体や世界のコーヒー農家全体に占める割合として読むことはできない。

標本の構成と協同組合員の違い

この調査の標本は1,900人を超える農家で構成されている[1]。コロンビアはコーヒー地帯の3つの協同組合から745人、コスタリカは5つの協同組合から503人、ホンジュラスは1つの財団から659人が調査対象になった[1]。コスタリカとコロンビアのサンプル農家は全員が協同組合員であるのに対し、ホンジュラスのサンプルはそうではない[1]。

  • コロンビア:コーヒー地帯の3つの協同組合、745人(全員が組合員)[1]
  • コスタリカ:5つの協同組合、503人(全員が組合員)[1]
  • ホンジュラス:1つの財団、659人(協同組合には属していない)[1]

標本の取り方が国ごとに異なるため、3か国の数値を同じ条件の比較として読むことには限界がある。協同組合員という条件がかかっているコロンビア・コスタリカと、1つの財団を通じて集められたホンジュラスでは、集められている農家の属性そのものが違う。

国の中の推移はどう動いたか|ICO・4か国調査(2016年)

コロンビア・エルサルバドルの費用と損益

ICOが2016年9月に公表した報告(ICC 117-6)は、加盟国が提供した2006/07年度から2015/16年度までのブラジル・コロンビア・コスタリカ・エルサルバドルのデータをまとめたものである[2]。この報告でコロンビアは、労働費が総費用の平均71%を占め、全費用の基準で利益がゼロ以上だった収穫年は対象の10年のうち4年だけだったとされる[2]。エルサルバドルは、平均で1ヘクタールあたり181ドルの営業損失を抱えていたという結果が示されている[2]。

ブラジルの費用増加と、国どうしの比較の限界

同じ報告でブラジルは、他の3か国と違って主要産地の営業利益が対象期間を通じて一貫してプラスだったとされる[2]。一方で費用そのものは2006/07年度から倍増し、1ヘクタールあたり10,487レアルに達したと報告されている[2]。ICOはこの報告の中で、各国が独自の方法で集めたデータであるため国どうしの比較は頑健さが下がる(less robust)と述べ、国ごとの事例として読むべきだと断っている[2]。

  • コロンビア:労働費が総費用の平均71%、全費用で利益がゼロ以上の年は10年中4年[2]
  • エルサルバドル:平均で1ヘクタールあたり181ドルの営業損失[2]
  • ブラジル:主要産地の営業利益は一貫してプラス、費用は2006/07年度から倍増し10,487レアル/ha[2]

費用や損益は、コロンビアはペソ、ブラジルはレアル、エルサルバドルは米ドルで、いずれも1ヘクタールあたりの値として示されている[2]。ICO自身が国ごとの集計方法の違いを明示しているため、本記事でも4か国を1ポンドいくらという単位で横並びにする表は作らない。

深掘りメモ|国どうしの比較が難しい理由

ICOはこの報告で、データが加盟国ごとに独自の方法で集められたものであるため、国と国を直接比較する頑健さが下がると述べている[2]。費用の分解(変動費と固定費)がコロンビア・ブラジルでは可能でも他の国では断片的という記述もあり、同じ表に載っていても集計の粒度自体が違う点に注意が必要である。

FOB段階の最低価格と算定値|Fairtrade International

2023年の最低価格改定と算定の出どころ

Fairtrade Internationalの価格告知文書によると、2023年8月1日から水洗式(ウォッシュト)アラビカのフェアトレード最低価格は1ポンドあたり1.80ドルになった[4]。これは従来の1.40ドルから40セント、29%の引き上げである[3]。この告知文書の表で価格の段階として示されているのはFOB(Free on Board、本船渡し)である[4]。

精製方式(アラビカ)区分最低価格(FOB・ドル/ポンド)
ナチュラルコンベンショナル1.75
ウォッシュトコンベンショナル1.80
ナチュラルオーガニック2.15(1.75にオーガニック差額0.40を足した値・計算)
ウォッシュトオーガニック2.20(1.80にオーガニック差額0.40を足した値)

1.76ドルという算定値の範囲

Fairtrade InternationalのQ&A文書によれば、2022年に2021年の収穫費用にもとづく生産コストの分析が行われ、コンベンショナルの水洗式アラビカの加重平均の生産コストは1ポンド1.76ドルと算定された[3]。元になったデータは2017年に収集され、その後2021年の価格水準に更新されたものである[3]。このQ&Aでは、新しい最低価格は産地・国のあいだの加重平均の生産コストを賄う水準に設定されているが、新しい要求事項に対応するための協同組合や農家の費用は含まれておらず、すべての農家が生活所得に近づくには足りないとFairtrade International自身が記している[3]。

この1.76ドルという値について、Q&Aは、対象となった国、標本の規模、どこまでの費用を含むかを書いていない[3]。農家段階の費用なのか、FOB段階に直した費用なのかも、この箇所には書かれていない[3]。

深掘りメモ|FOBという段階の意味

最低価格は、価格告知文書の表で価格の段階がFOBと示されている[4]。Q&AでFOBの語が出てくるのは、農家段階の生活所得参照価格を「FOB equivalent」に直して、新しい最低価格と並べた表である[3]。FOBは輸出港で船に積むまでの段階の価格で、前章の農家段階の費用とは集計する地点が違う。農家段階の数字とFOB段階の数字を、同じ1ポンドあたりの値として並べることはできない。

生活所得は別の物差し|Anker Research Instituteの調査

生活所得とはどういう費用か

生活所得は、コーヒーを作るのにかかる費用ではなく、世帯が基本的でまともな暮らしを送るのに必要な費用を指す。Anker Research Instituteの調査が、この基準を産地ごとに算定している[5][6]。チアパスの調査は第2段階の資金をICOが出し、エチオピアの調査はICOとCoffee Public-Private Task Forceの民間メンバーが資金面で支えたと、それぞれの報告に書かれている[5][6]。ここまでの農家段階の費用やFOB段階の最低価格とは測るものがそもそも違うため、同じ表に載せることはできない。

メキシコ・チアパス州とエチオピア・オロミア州の基準

メキシコ・チアパス州のコーヒー産地を対象にした2023年11月時点の調査では、自営で働く典型的な世帯(4.5人)の生活所得は月16,160ペソ(925ドル)、年193,918ペソ(11,100ドル)と算定されている[5]。エチオピア・オロミア州ジンマ地区の農村を対象にした2023年7月時点の調査では、典型的な世帯(大人2人と子ども3.5人)の生活所得は月16,512ブル(302ドル)、年198,144ブル(3,624ドル)と算定されている[6]。

国・地域時点月額年額
メキシコ・チアパス州2023年11月16,160ペソ(925ドル)193,918ペソ(11,100ドル)
エチオピア・オロミア州ジンマ地区2023年7月16,512ブル(302ドル)198,144ブル(3,624ドル)

エチオピアの報告は、ドル建ての値は為替が不安定なため目安にすぎないと断っている[6]。チアパスの報告は2023年11月の平均レート(1ドル17.47ペソ)で換算しており、ペソが2022年半ばから2023年末にかけて約15%高くなったことを注記している[5]。この生活所得の値を1ポンドあたりの価格に割り戻す計算は、ここではしない。

深掘りメモ|生活所得と生産コストの違い

生活所得は世帯の生活費を基準にした値であり、農家がコーヒー栽培にかけた費用を基準にしたICOの生産コストの値とは算定の出発点が異なる[1][5][6]。両者は別の物差しなので、生産コストが生活所得の何割にあたるかといった計算は、ここではしない。

結論|層を見分けて数字を読む

生産コストという言葉の3つの層 コーヒーの生産コストという言葉が指す数字を、農家・FOB・世帯の3つの層に分けた表。農家段階は2015/16年度のコロンビア・コスタリカ・ホンジュラスの全経済費用で1ポンド0.79〜1.39ドル。FOB段階は2023年の最低価格1.80ドルで、算定に使われた加重平均の生産コスト1.76ドルは範囲と段階がQ&Aに記載されていない。世帯の生活所得はメキシコ・チアパス州で年11,100ドル、エチオピアのジンマ地区で年3,624ドル。 Fig. Table 生産コストという言葉の3つの層 その数字がどの段階・どの年・どの国を指しているかを確認する。 段階 示されている数字 何を数えたか 農家(生産コスト) 1ポンド0.79〜1.39ドル 全経済費用(2015/16年度の コロンビア・コスタリカ・ホンジュラス) FOB(最低価格)と、 その算定に使われた費用 最低価格 1ポンド1.80ドル 加重平均の生産コスト 1ポンド1.76ドル 最低価格はFOB段階(2023年) 加重平均の生産コストの範囲と段階は Q&Aに記載なし 世帯(生活所得) 年11,100ドル(メキシコ・チアパス州) 年3,624ドル(エチオピアのジンマ地区) 基本的な暮らしにかかる費用 これらとは別の物差し 本文「結論」。測っている対象が違う数字を混ぜて、幅を作ることは避けたい。 出典: ICO ICC 124-6/Fairtrade International 価格告知・Q&A/Anker Research Institute 図解:coffee-pick.com

コーヒーの生産コストという言葉には、少なくとも3つの異なる層の数字が存在する。農家段階では2015/16年度のコロンビア・コスタリカ・ホンジュラスで1ポンド0.79〜1.39ドルという全経済費用が示され[1]、FOB段階では2023年の最低価格1.80ドルが示され[4]、その算定には、2021年の収穫費用にもとづく加重平均の生産コスト1.76ドルが使われた[3]。世帯の生活所得はこれらとは別の物差しで、メキシコ・チアパス州で年11,100ドル、エチオピアのジンマ地区で年3,624ドルという値が示されている[5][6]。

段階費用の範囲国と年標本
農家(生産コスト)生豆1ポンドあたりの現金支出・全経済費用コロンビア・コスタリカ・ホンジュラス、2015/16年度[1]協同組合・財団の農家1,900人超[1]
FOB(最低価格)と、その算定に使われた費用最低価格はFOB段階[4]。加重平均の生産コストの範囲と段階はQ&Aに記載なし[3]複数の産地・国、2017年収集・2021年価格に更新[3]対象国・標本はQ&Aに記載なし[3]
世帯(生活所得)基本的な暮らしにかかる費用メキシコ・チアパス州2023年11月、エチオピア・ジンマ地区2023年7月[5][6]典型的な世帯単位[5][6]

これら3つの層を1つの表に並べて「コーヒーの生産コストは1.4〜1.8ドル」のような幅を作ることは、測っている対象が違う数字を混ぜることになるため避けたい。フェアトレードと価格の関係はフェアトレード・スペシャルティ・コモディティの違い、認証の種類ごとの違いはコーヒー認証ラベル図鑑、生産から消費までの流通の段階はコーヒーのサプライチェーンで扱っている。ハンドドリップで豆を選ぶ際にこうした数字を目にしたときは、まずその数字がどの段階・どの年・どの国を指しているかを確認することが、層の違う数字を混同しないための実用的な次の一歩になる。

参考文献

  1. ICO|Profitability of coffee farming in selected Latin American countries – interim report(ICC 124-6・4 March 2019)
    http://dev.ico.org/documents/cy2018-19/Restricted/icc-124-6e-profitability-latin-american-producers.pdf
  2. ICO|Assessing the economic sustainability of coffee growing(ICC 117-6・15 September 2016)
    https://www.ico.org/documents/cy2015-16/icc-117-6e-economic-sustainability.pdf
  3. Fairtrade International|New Fairtrade Prices for Coffee – Q&A(March 2023)
    https://www.fairtrade.net/content/dam/fairtrade/fairtrade-international/FP-for-coffee-QA-March-2023.pdf
  4. Fairtrade International|Price announcement for Fairtrade Coffee(Standards & Pricing・March 30 2023)
    https://www.fairtrade.net/content/dam/fairtrade/fairtrade-international/standards/2023-03-30_Coffee-Price-Announcement_EN.pdf
  5. Anker Research Institute|Delajara, M. ほか「Living Income Report (with Living Wage Annex), Rural Areas and Small Towns of Chiapas, Mexico」Living Wage Benchmark Series No. 2023_01_07(November 2023)
    https://ico.org/global-knowledge-hub/wp-content/uploads/2025/03/Living-income-and-living-wage-in-rural-areas-and-small-towns-of-Chiapas-Mexico_FINAL.pdf
  6. Anker Research Institute|Seyoum, A. ほか「Living Income Report (with Living Wage Annex), Rural Oromia, Ethiopia」Living Wage Benchmark Series No. 2023_01_03(July 2023)
    https://ico.org/global-knowledge-hub/wp-content/uploads/2025/03/Ethiopia.pdf

この記事を書いた人

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