缶コーヒーのパッケージに「プレミアム」と表示できるのは、規約上の「コーヒー」(内容量100グラム中にコーヒー生豆換算で5グラム以上のコーヒー分を含むもの)に当たり、かつ、コーヒー豆の銘柄を51パーセント以上使う、または使用量を2割以上増やすなどの条件を満たし、公正取引協議会へ事前に届け出た商品に限られる[1]。この基準は缶コーヒーなどコーヒー飲料の表示だけに関わる制度であり、スペシャルティコーヒーの評価とは別の物差しで運用されている。条件を知っておくと、売り場で「プレミアム」の文字を見たときに、それが何を根拠にした表示なのかを具体的に読み解けるようになる。
- 缶コーヒーの「プレミアム」表示は、規約上の「コーヒー」の区分(生豆換算5グラム以上/100グラム)に当たり、条件を満たし届け出た商品だけが使える語であり、風味評価とは無関係である。「コーヒー飲料」「コーヒー入り清涼飲料」の区分の商品は名乗れない。
- 条件は銘柄を51パーセント以上使うか、使用量を2割以上増やすか製法を改良するかのいずれかを満たすことである。
- パッケージで表示語を見たときは、銘柄構成や増量・製法の条件を思い出すと読み解きの目安になる。
この記事は「コーヒーの淹れ方は4種類で整理できる|透過・浸漬・加圧・煮出しの原理マップ」の各論です。
「プレミアム」は飾りではなく条件つきの表示
高級感を示す言葉という思い込み
「プレミアム」という表示を見て、多くの読者は単なる高級感を示す形容詞だと考えている。しかし缶コーヒーやコーヒー飲料の分野では、この語は公正競争規約という業界の自主ルールによって使い方が定められている[1]。対象となる規約は「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」であり、缶コーヒーを含むコーヒー飲料の呼称や成分表示を扱う枠組みである[1]。ここでの「プレミアム」は、コピーライティング上の演出語ではなく、条件を満たした商品だけが名乗れる表示区分の一つとして位置づけられている。
規約が定める表示区分としての性格
規約第5条第3号は「プレミアム」などの語を施行規則に定めるところにより表示するよう求め、施行規則第4条第3号が、規約上の「コーヒー」であって条件を満たし、かつ届け出た商品だけが表示できるものと定めている[1]。逆に言えば、条件を満たさない商品がこの語を使うと、規約上の問題になり得る。この構造は、風味や品質そのものを規約が保証しているわけではないことも意味している。規約が見ているのは原料の調達条件や製法の変化であり、味の良し悪しを判定する仕組みではない。
景品表示法という背景
この規約が存在する背景には、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)第五条の規定がある。同条は、商品の品質や規格について実際より著しく優良であると一般消費者に示す表示、いわゆる優良誤認表示を禁止している[3]。「プレミアム」のような優良さを想起させる語を無条件に使えば、この禁止に触れるおそれがある。消費者庁の資料によれば、令和5年3月22日現在で表示に関する公正競争規約は66規約設定されており、その一つに「コーヒー飲料等」が含まれる[4]。
公正競争規約は法律そのものではなく、景品表示法の枠組みの中で業界団体が設定する自主基準である[3][4]。違反時の扱いは規約ごとに異なり、行政処分とは別の仕組みで運用される。
対象になる語は「プレミアム」だけではない
規約が列挙する語(原文順)
公正競争規約が条件付きで使用を認めているのは「プレミアム」一語ではない。施行規則第4条第3号は、規約第5条第3号の「『スーパー』、『スペシャル』、『プレミアム』又はこれらに類する用語」に当たるものとして、次の11語を列挙している[1]。
- スーパー(スペリオール)
- スペシャル
- プレミアム
- エクセレント(エクセレンス)
- ゴールド(ゴールデン)
- ハイ
- ロイヤル
- リッチ
- エキストラ
- デラックス
- セレクト
これらはいずれも、商品の優秀性や高級さを想起させる語として並んでいる。並びの順序自体に優先順位があるわけではなく、規約は等しく同じ条件を課している[1]。
「これらに類する用語」という広がり
施行規則は「これらに類する用語は、①に掲げるものであって、②に定める基準に従い表示する」と定めており、条件と届け出の対象として掲げているのは上の11語である[1]。11語以外の言葉についても、客観的な根拠に基づかないで、特選、高級等の文言を用いることにより、当該商品が特に優良であるかのように誤認されるおそれがある表示は、規約第6条第4号が禁じている[1]。
なぜ「プレミアム」がよく目に入るのか
上に挙げた語のうちで、売り場で目にする頻度が高いのは「プレミアム」だという印象を持つ読者は多いはずだ。ただし、その頻度差そのものは規約の条文からは確認できない。規約上の扱いはどの語であっても同一であり、「プレミアム」だけが特別に緩い基準、あるいは厳しい基準を負っているわけではない[1]。ハンドドリップで豆を選ぶ習慣がある読者ほど、パッケージの表示語に注意を向けやすいが、その注意の先にあるのは風味の保証ではなく、原料調達や製法に関する条件であることを覚えておくとよい。
「プレミアム」を名乗るための2つの条件
銘柄の使用率で満たす条件
施行規則は、規約上の「コーヒー」であることを前提に、対象となる語を表示するための条件を二つ定めている[1]。一つは、レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約(令和6年10月1日施行)の別表2に定めるコーヒー豆の銘柄を、51パーセント以上使用することである[1][2]。別表2にはグアテマラアンティグア、コロンビアスプレモ、モカハラー、モカマタリ、キリマンジャロ、トラジャ、カロシ、ガヨマウンテンといった、産地や輸出規格に基づく銘柄名が定義されている[2]。例えばキリマンジャロは、タンザニアで生産されたアラビカコーヒー豆のうちブコバ地区産を除いたものと定義されており、トラジャとカロシはいずれもインドネシア・スラウェシ島の地区名に基づく銘柄である[2]。
増量または製法改良で満たす条件
もう一つの条件は、コーヒー豆の使用量を自社の従来品と比較して2割以上増量すること、または製法の改良を伴うことである[1]。この条件は銘柄を問わないため、別表2に定める特定の産地の豆を使っていない商品でも、使用量や製法の変化によって条件を満たす道が用意されている。二つの条件はどちらか一方を満たせばよく、両方を同時に満たす必要はない[1]。この点は、銘柄構成に頼らずに表示を目指す商品開発の余地を残す設計だと読める。
表で整理する二つの条件
| 条件 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 条件ア | 別表2に定めるコーヒー豆の銘柄を51パーセント以上使用 | [1][2] |
| 条件イ | コーヒー豆の使用量を自社従来品比で2割以上増量、または製法の改良を伴う | [1] |
別表2の銘柄は産地や輸出規格に基づく定義であり、キリマンジャロやコロンビアスプレモのように地理的な限定を伴う[2]。銘柄名そのものが風味の等級を意味するわけではなく、産地の輸出規格に紐づく呼称である点に注意したい。
条件を満たすだけでは足りない——事前の届け出
別紙様式2による届出
施行規則は、条件ア・イのいずれかを満たすことに加えて、別紙様式2により公正取引協議会に事前に届け出ることを求めている[1]。つまり、社内で条件を満たしたと判断しただけでは表示できず、届け出という手続きを経て初めて対象の語を名乗れる仕組みになっている。この二段構えの設計は、条件の充足を自己申告のみに委ねず、業界の自主規制機関である協議会が関与する形を取っている点に特徴がある。
公正取引協議会という第三者の関与
届け出先である公正取引協議会は、業界が自主的に運用する組織であり、消費者庁が公表する資料には、こうした表示に関する公正競争規約が複数の業種にわたって設定されていることが示されている[4]。コーヒー飲料等の規約もその一つに位置づけられ、届け出制度はこの業界横断的な自主規制の運用手段として機能している[1][4]。届け出という手続きが挟まることで、「プレミアム」などの表示は、企業側の一方的な判断だけで決まるものではなくなる。
届け出の意味と限界
届け出制度が意味するのは、表示の適正性を事前にチェックする窓口が存在することであり、風味の品質そのものを協議会が審査するわけではない。条件ア・イはいずれも原料の調達比率や使用量、製法という数量的・手続き的な基準であり、カッピングのような官能評価は条件に含まれていない[1]。読者が「プレミアム」という表示から品質保証を期待する場合、その期待と規約が実際に見ている条件との間にはずれが生じやすい。
前提となる「コーヒー」区分
規約上の「コーヒー」とは
条件ア・イが適用される前提として、対象商品が規約第2条第1項第1号に規定する「コーヒー」に該当することが求められている[1]。つまり、対象の語を表示する商品は、まずこの規約上の「コーヒー」という区分に当てはまっていなければならない。この前提が満たされていない商品は、条件ア・イを検討する段階に至る前の話になる。
区分の詳細は別の論点
規約上の「コーヒー」がどのような基準で区分されるかという線引きは、缶コーヒーの表示制度全体を理解するうえで欠かせない出発点である。ただし、その線引きの詳細な基準は、本記事が扱う「プレミアム」等の表示条件とは別の条文が扱う領域であり、ここでは前提としての存在だけを確認しておく。ハンドドリップで豆から抽出する読者にとって、缶コーヒーの分類基準は普段意識しない領域だが、表示語の条件を理解する土台になる。
スペシャルティコーヒーとは無関係の話
規約に点数や官能評価の規定はない
「プレミアム」という語から、スペシャルティコーヒーのような品質評価の仕組みを思い浮かべる読者もいるかもしれない。しかし、公正競争規約が定める条件は、銘柄の使用率や使用量の増減、製法の改良の有無であり[1]、カッピング(コーヒーの香味を評価する官能評価)によるスコアや採点の仕組みは条文のどこにも規定されていない。「プレミアム」という表示は、風味の評価結果を示すものではなく、原料の調達条件や製法の変化を示す表示区分だと理解した方が実情に近い。
評価の主体も基準も異なる
公正競争規約における届け出先は公正取引協議会であり、条件の内容は銘柄比率や増量率という数量的な基準である[1]。これに対してスペシャルティコーヒーの評価は、産地や精製方法(ナチュラル、ウォッシュト、ハニープロセスなど)、そして官能評価という別の系統の基準に基づく話であり、両者は評価の主体も判定材料もまったく異なっている。缶コーヒーの「プレミアム」表示とスペシャルティコーヒーの評価を同じ物差しで比べようとすると、そもそも比較の前提が成立しない。
スペシャルティコーヒーの定義は別の記事が扱う
スペシャルティコーヒーが具体的にどのような基準で評価され、定義されるのかについては、スペシャルティコーヒーとは何か で扱っている内容であり、本記事の範囲ではない。「プレミアム」と表示された缶コーヒーと、スペシャルティコーヒーと呼ばれる豆との間に、どちらが上位かという優劣の関係を持ち込む必要はない。両者は制度の目的そのものが違うため、比べること自体が本来の問いの立て方ではないと言える。
公正競争規約は表示の適正化を目的とした制度であり、風味の質を保証する制度ではない[1]。缶コーヒーを選ぶ際に「プレミアム」の文字を品質の絶対的な指標として読むと、実際の条件(銘柄比率や増量・製法改良)とのずれが生じやすい。
結論
「プレミアム」をはじめとする11の語は、規約上の「コーヒー」の区分に当たり、公正競争規約の施行規則が定める条件を満たし、別紙様式2で公正取引協議会に事前に届け出た商品だけが表示できる語である[1]。条件は、別表2に定める銘柄を51パーセント以上使うか、使用量を2割以上増やすか製法を改良するかのいずれかであり、風味の採点や官能評価とは無関係の仕組みである[1][2]。缶コーヒーのパッケージで「プレミアム」の文字を見たときは、産地の銘柄構成や増量・製法の変化という、規約が定める具体的な条件を思い出すとよい。スペシャルティコーヒーの評価基準を知りたい読者は、スペシャルティコーヒーとは何か を、缶コーヒーの表示制度とは別の系統の話として読み分けてほしい。「プレミアム」の条件が参照している別表2 の銘柄そのものについては、コーヒーの銘柄名は「どこで採れたか」で決まっているで範囲を確認できる。
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参考文献
- コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び同施行規則
https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b03_H_cancoffee.pdf - レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約及び同施行規則(令和6年10月1日施行)
https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b05_H_coffee.pdf - 不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)/e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000134 - 消費者庁「公正競争規約が設定されている業種」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/fair_competition_code/industries/
