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エチオピアの森林コーヒー|発祥の森で採る生産体系と、低い単収でも森を残す仕組み

エチオピアの森林コーヒー|発祥の森で採る生産体系と、低い単収でも森を残す仕組み

エチオピアの森林コーヒーは、森に自生するコーヒーの木から実を採る生産体系である[1]。南西部ヤユの5つの協同組合を調べた研究は、実つきのよい表年の平均単収を1ヘクタールあたり約250kgと見積もっている[2]。JICA(国際協力機構、2019)は、この低単収のまま森を伐らずに農家の収入を増やす方法として、森林コーヒー自体の付加価値を高めることと、森林コーヒーツアーなど収入源の多角化を挙げている[1]。

この記事の結論
  • 森林コーヒーは単収の低さを引き受けて森を残す仕組みだが、名前だけでは保全を保証しない。
  • 表年の平均単収は約250kg/haで、裏年は200kg/haまで下がる年もある。
  • 産地名だけでなく認証の種類や協同組合、生産体系まで確認すると判断が安定する。

この記事は「コーヒー豆を知る完全ガイド|産地・品種・精製・焙煎でわかる味の地図」の各論です。

目次

エチオピアのコーヒー生産体系

JICAが示す4つの生産体系

JICA(2019)は、ベレテ・ゲラの参加型森林管理計画をもとに、エチオピアのコーヒー生産をフォレスト、セミフォレスト、ガーデン、プランテーションという4つの体系に分類している[1]。冊子によれば、フォレストコーヒー方式の多くは自生しているコーヒーの木から収穫してきたもので、エチオピアでは大規模なプランテーションより、小規模農家が庭で生産するガーデンコーヒーや、森から採るフォレストコーヒー・セミフォレストコーヒーの方式が大部分を占める[1]。カルディが山羊の様子からコーヒーの実の効果に気づいたという伝説も語られるが、この起源譚の詳細はカルディ伝説の記事に譲りたい。

Kew・ECFFが示す2つの区分

同じ生産体系を、Kew(英国キュー王立植物園)とECFF(Environment and Coffee Forest Forum)による2017年の報告書は、フォレストコーヒーとセミフォレストコーヒーという2つの区分で説明している[3]。フォレストコーヒーは森に自然に生えている株を、最小限の管理と介入で利用する方式である[3]。セミフォレストコーヒーはこれより手入れの度合いが強く、樹木の間伐や下草刈り、苗の補植といった作業が加わる方式とされる[3]。同じ「森のコーヒー」でも、手入れの度合いによって呼び分けられている[3]。

分類の数が資料によって異なる理由

JICA(2019)の4分類とKew・ECFF(2017)の2分類は矛盾するものではなく、見ている粒度が違う。JICAの4分類は森からガーデン・プランテーションまでを含めた生産体系全体の地図であり、Kew・ECFFの2分類はそのうち「森を使う」部分だけを取り出して手入れの強度で分けたものといえる。読者としては、どちらの資料の分類かを確認したうえで数字や説明を読むと、記事や資料をまたいだときの混乱を避けやすい。

深掘りメモ|分類の粒度

JICAの冊子はガーデンやプランテーションまで含めた生産方式全体を4つに分け、Kew・ECFFの報告書は森林(日陰)コーヒーを2つに分けて説明している[1][3]。読み比べる際は、どちらの資料のどの範囲の分類かを確認しておくと数字の意味を取り違えにくい。

森林コーヒーの採り方と単収

一戸の農家が利用する森の広さ

JICA(2019)によれば、平均的な農家が利用するコーヒー森林は1〜2ha程度で、中には10haにも及ぶ利用権を持つ農家もいる[1]。冊子は、アラビカコーヒー発祥の森では面積当たりの収穫量が低いとし、農業研究所などが配る改良された苗木と較べると、森林コーヒーの木は光を求めて高く伸び、実も少なめだと書いている[1]。

ヤユ協同組合の単収データ

Schuitほか(2021)は、2017/2018年の収穫期に西南部ヤユ地域の5つの協同組合を調査し、実つきがよい「表年」の平均収量を1ヘクタールあたり約250kgと推計している[2]。同じ論文は、ヤユでの圃場試験の観察と調査での聞き取りから、表年の単収は650kg/ha、場合によっては750kg/haに達することもあれば、207kg/haにとどまることもあるとし、5つの協同組合のあいだでも表年・裏年ともに単収のばらつきが大きかったと書いている[2]。この250kg/haという数字は、エチオピア全体で報告されている平均的な収量ともおおむね近い水準にあるとされる[2]。

表年と裏年で変わる収穫量

コーヒーの木は、実つきがよい「表年」と実つきが少ない「裏年」を繰り返す性質がある[2]。Schuitほか(2021)が調べた2017/2018年の収穫期は裏年にあたり、平均単収は輸出できる精選豆で200kg/haだった[2]。翌年は表年のはずだったが雨が足りず、単収は前年の裏年よりさらに低かったという[2]。単収を語るときは、どの年の、どの産地の、表年か裏年かのどの条件を指しているかをそろえないと、比較そのものが成立しない。以下は、ここまでに挙げた単収の条件を整理したものである。

出典調査地・時期収量の水準
Schuitほか(2021)[2]ヤユ地域5協同組合、表年の平均(見積もり)約250kg/ha
Schuitほか(2021)[2]ヤユ、表年の幅(圃場試験の観察と聞き取り)207〜650kg/ha(750kg/haの場合も)
Schuitほか(2021)[2]ヤユ地域5協同組合、2017/2018年収穫期(裏年)の平均200kg/ha(輸出できる精選豆)
深掘りメモ|単収の読み方

約250kg/haは表年の見積もりで、実際に調べた裏年の平均は200kg/ha、表年の幅は207〜750kg/haと、同じ地域の森林コーヒーでも数字は条件によって大きく動く[2]。Schuitほかは、見込んだ表年が実際に来るとは限らないとも書いている[2]。

参加型森林管理と認証は生計を変えたか

ワブブとFCCPの参加世帯

JICAのプロジェクトは、ベレテ・ゲラの各集落にワブブ(現地オロミア語で森林管理グループ)と呼ばれる組織を設立し、住民参加の森林管理を進めるとともに、コーヒー農家の収入向上を目的とした森林コーヒー認証プログラム(FCCP)を実施してきた[1]。2014年に本格的に始まったFCCPには、2018年までに延べ8,480世帯(年平均2,120世帯)の農家が参加した[1]。ベレテ・ゲラの森は州有林で、適切に森を管理することを条件に、森林コーヒーの利用権が農民に認められている[1]。

森林コーヒー収入の実態

2017年に行われた調査では、参加農家は平均42kgのドライチェリーを販売し、1,513エチオピアブル(冊子の表記で約6千円)の収入を得ており、これはFCCPに参加していない農家に比べて約4割の増収にあたる[1]。ただし、この森林コーヒーからの収入は、穀物栽培や養蜂を含めた農家の現金収入全体の半分にも届いていない[1]。JICA(2019)はこの点を踏まえ、森を伐らずに農家の収入を増やすには、森林コーヒー自体の付加価値をさらに高めることと、森林コーヒーツアーのような新しい活動によって収入源を多角化することが必要だと述べている[1]。

  • 参加農家の増収率:非参加農家に比べ約4割増[1]
  • 森林コーヒー収入が現金収入全体に占める比率:半分未満[1]
  • 挙げられている打ち手:付加価値の向上、森林コーヒーツアーなどによる収入源の多角化[1]

スペシャルティ市場という別の道

Schuitほか(2021)は、2017/2018年の収穫期の調査から、スペシャルティコーヒー市場への参加でコーヒーの単価が通常の市場価格や認証プレミアム込みの価格を大きく上回り、世帯の収入が増えうることを示した[2]。一方で、品質は重要な要素だが、スペシャルティ市場を通じた増収には条件が付き、とくに協同組合の効率的で効果的な運営が欠かせないとも述べている[2]。

深掘りメモ|増収の内訳

約4割の増収という数字があっても、森林コーヒーからの収入は、穀物栽培や養蜂を含めた現金収入全体の半分に届いていない[1]。JICAの冊子は、この点に続けて、付加価値の向上と収入源の多角化を挙げている[1]。

認証の限界

JICAが指摘する転換の動き

JICA(2019)は、認証プログラムによって得られる利益が農家にとって十分に満足できるものでなくなってきており、収穫量を増やしたいと考える農家が、フォレストコーヒーからセミフォレストコーヒーやガーデンコーヒーへ生産方式を切り替える動きが増えていると報告している[1]。冊子は、外観は以前と変わらない天然林に見えても、森に入ると一部の高い木だけを残して高密度でコーヒーの木を植えた状態になっていると書いている[1]。認証によって収入が増える仕組みと、収量を増やしたい農家の実利が、必ずしも同じ方向を向いていないことがここに表れている。

Araiほかの調査が示す実態

Araiほか(2023)は、ベレテ・ゲラの森を対象にした調査で、認証を受けたコーヒー林の一部で伐採や生態的な劣化が起きていたことと、レインフォレスト・アライアンスの認証要件が一様には適用されていなかったことを報告している[5]。現地の観察では、認証林の森林コーヒーが次第にセミフォレストコーヒーやガーデンコーヒーへ転換され、樹冠と大径木が減っていたという[5]。この調査地はJICA(2019)が扱ったのと同じベレテ・ゲラの森であり、ここで示された転換の実態は、ベレテ・ゲラという一つの地域について複数の資料が時期を違えて重ねて確認したものと捉えるのが適切である。

転換の背景にある要因

Araiほか(2023)は、こうした転換の背景として、人口の急増、集約的なコーヒー生産を促す政府の政策、認証プログラムに参加していない組合員の存在、保全の誘因の不足、監査の過程の抜け穴を挙げている[5]。認証という仕組みがあっても、それを支える現場の運用や周辺の農家の動機づけが伴わなければ、森を残す力としては弱くなるということである。認証ラベルの種類や審査の仕組み自体についての詳しい説明は、別の記事に委ねる。

深掘りメモ|同じ森の複数の証拠

JICA(2019)とAraiほか(2023)はいずれもベレテ・ゲラの森を扱っており、転換の報告は複数地域での確認ではなく、同じ森について時期の異なる資料が重ねて示した実態と読むのが正確である[1][5]。他地域への一般化には、別の調査の裏づけが必要になる。

気候変動下の見通し

雨季の変化と生計への影響

Kew・ECFF(2017)は、コーヒー栽培がエチオピアの人口の16%にあたる約1,500万人の生計を支えていると報告している[3]。同じ報告書は、観測所のデータから、南部・南西部・南東部では春(ベルグ)と夏(キレムト)の雨が1970年代半ば以降および2000年代後半以降に15〜20%減ったことが示されているとし、最近の森林減少率が高い南西部・南東部のコーヒー地帯では、少なくとも短中期的には森林減少のほうが気候変動より大きな影響になりうるとも指摘している[3]。今世紀を通じて多くの高標高地がコーヒー栽培に適するようになるとも予測しており、産地の分布そのものが動いていく可能性が示されている[3]。

適地は増えるのか、減るのか

Chemuraほか(2021)のモデルによれば、エチオピア国土の27%が一般的なコーヒー栽培に適した土地とされ、気候変動が進んだ場合、この一般的な適地は全体としては増える方向にあるという結果が出ている[4]。ただし同じ研究でモデル化された6つのスペシャルティコーヒー産地のうち、5つの産地では適地が減少するという結果も示されている[4]。「一般のコーヒー栽培に適した土地は全体で増える」という結論と、「スペシャルティ産地としてみると多くの産地で適地が減る」という結論は、対象もモデルも別であり、どちらか一方だけを取り出して見通し全体を語るのは正確ではない。

  • 一般的な適地(国土の27%が対象):気候変動下で全体としては増加の方向[4]
  • モデル化されたスペシャルティ6産地:うち5産地で適地が減少[4]
深掘りメモ|「増える」と「減る」の両立

国全体の適地面積が増える予測と、名前の知られたスペシャルティ産地の適地が縮む予測は、同じ論文の中でも別の問いに対する答えである[4]。産地の名前で選ぶ読者にとっては、後者のほうが関わりが深い。両方の数字を混ぜて一つの結論にしないことが読み解きの前提になる。

読者にとっての意味(結論)

森林コーヒーという名前が保証しないもの

ここまでの内容を踏まえると、「森林コーヒー」という言葉は、その豆が森を守っている証明にはならない。JICA(2019)が指摘するように、収穫量を増やす目的でフォレストコーヒーからセミフォレストやガーデンへ切り替える動きがあり[1]、Araiほか(2023)が示すように、認証を受けた森でも伐採や劣化が起きている場所がある[5]。産地や精製方法の名前だけで環境への配慮を判断するのは、この記事で見てきた資料の範囲では難しいということになる。

読者が確かめられること

家庭でハンドドリップを楽しむ立場からできることは限られているが、パッケージや販売者の説明に、認証の種類や生産組合の名前、産地の具体的な地域名が書かれているかを見る習慣は持てる。エチオピアの産地ごとの風味や個々の地域の特徴についてはエチオピアコーヒーの記事やエチオピアの産地の記事で扱われており、日陰栽培コーヒー一般の考え方については日陰栽培コーヒーの記事にまとめられている。森林コーヒーという言葉の背景にある数字を知っておくと、産地の説明を読むときに、何が根拠を伴っており、何がまだ検証されていないかを見分けやすくなる。

エチオピアの森林コーヒーは、単収の低さを引き受けながら森を残す仕組みであり、その仕組みを支える認証や協同組合の運営には、資料が示す限りでもまだ課題が残っている。次にエチオピア産のコーヒー豆を選ぶ機会があれば、産地名だけでなく、どういう生産体系で採られたコーヒーなのかまで確認してみるとよい。

参考文献

  1. エチオピア森林コーヒー 〜アラビカコーヒー発祥の森からの恵み〜
    https://www.jica.go.jp/project/ethiopia/006/materials/ku57pq00002nbff8-att/forest_coffee.pdf
  2. The potential for income improvement and biodiversity conservation via specialty coffee in Ethiopia
    https://doi.org/10.7717/peerj.10621
  3. Coffee Farming and Climate Change in Ethiopia: Impacts, Forecasts, Resilience and Opportunities – Summary Report 2017
    https://www.kew.org/sites/default/files/Coffee Farming and Climate Change in Ethiopia.pdf
  4. Climate change and specialty coffee potential in Ethiopia
    https://doi.org/10.1038/s41598-021-87647-4
  5. Challenges in conserving forest ecosystems through coffee certification: a case study from southwestern Ethiopia
    https://doi.org/10.3389/fenvs.2023.1193242

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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