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EUDRとコーヒー|いつから・どの豆が対象か、2度の適用延期と溶解コーヒーを加える委任規則の現状

EUDRとコーヒー|いつから・どの豆が対象か、2度の適用延期と溶解コーヒーを加える委任規則の現状

EUDR(EU森林破壊防止規則)は、コーヒーを含む7つの関連産品とその製品について、森林破壊フリーであることを含む3つの条件をすべて満たさない限り、EU市場での流通やEUからの輸出を認めない規則である[1]。適用日は原本の2024年12月30日から2度延期されて現在は2026年12月30日で、2024年12月31日までに設立された零細・小規模事業者などには、条件つきで2027年6月30日とする特例がある[2][3]。

この記事の結論
  • EUDRはコーヒーをHS0901の対象とし、3条件を満たさない限りEU市場での流通・輸出を認めない規則である。
  • 適用日は2026年12月30日で、零細・小規模事業者などは条件付きで2027年6月30日となる。
  • 溶解コーヒー(HS 2101 11 00)を加える委任規則(EU) 2026/2102は2026年9月17日に官報に掲載されて発効しており、追加品目の適用は2027年12月30日からである。
目次

EUDRとは何か

規則の対象範囲

EUDR(Regulation (EU) 2023/1115)は、名称が示すとおり「EU市場での流通(making available on the Union market)」と「EUからの輸出(export from the Union)」を対象にする規則である[1]。2023年6月9日にEU官報(OJ L 150)に公表された原本の題名は、森林破壊・森林劣化に関連する特定の産品・製品のEU市場での流通及びEUからの輸出と、規則(EU) No 995/2010の廃止に関するもの(訳)で、第2条(1)で関連産品(relevant commodities)が定義されている[1]。コーヒーはこの関連産品7つのうちの1つに数えられ、牛・カカオ・アブラヤシ・ゴム・大豆・木材と並んで規制の対象に置かれている。

森林破壊という言葉の指すもの

規則第2条(3)は、森林破壊(deforestation)を、人為的であるか否かを問わず、森林を農業利用に転換することと定義している[1]。この定義自体は短いが、何が「森林」に当たるかという判定基準と結びついて初めて機能する仕組みになっている。豆の産地がどのような土地利用の履歴を持つかを、この定義に沿って遡って確認する作業が、事業者に求められるデューディリジェンスの土台になる。

深掘りメモ|EUDRの立て付け

本記事が参照する条文は流通・輸出の条件を定めるものであり、栽培地の森林被害の実態そのものを記述する資料ではない。コーヒーが関連産品に選ばれた経緯は、本記事では扱わない。

どの豆が対象か

HSコードでの指定

EUDR附属書Iにおけるコーヒーの範囲は、HS 0901(焙煎・カフェイン除去の有無を問わないコーヒー、コーヒーの殻及び皮、含有割合を問わずコーヒーを含むコーヒー代用物)である[1]。生豆(グリーンビーンズ)だけでなく、焙煎済みの豆やカフェインレス処理を経た豆も同じHSコードの枠に含まれる点が特徴で、附属書Iのこの行には精製方法(ウォッシュト・ナチュラル・ハニープロセスなど)による区別は書かれていない。

附属書Iに後から加わるもの

2025/2650による改正後の附属書Iには、コーヒーの抽出物・エッセンス・濃縮物(HS 2101 11 00)は含まれていなかった[1][3]。この品目は委任規則(EU) 2026/2102によって附属書Iに加えられ、2027年12月30日から適用される[7]。インスタントコーヒーの製法自体は別の話題で、インスタントコーヒーの製法の記事に譲る。溶解コーヒーの抽出物を対象に加えた委任規則の経緯は、本記事の後半で扱う。

以下は附属書Iにおけるコーヒー関連の記載内容を整理したものである。

区分HSコードの範囲現行附属書Iでの扱い
コーヒー(生豆・焙煎豆)HS 0901対象(関連産品)
カフェイン除去コーヒーHS 0901対象(HS 0901に含まれる)
コーヒーの殻・皮HS 0901対象(HS 0901に含まれる)
コーヒーを含む代用品HS 0901対象(HS 0901に含まれる)
溶解(インスタント)コーヒー抽出物HS 2101 11 002026/2102で追加(2027年12月30日から適用)

何が求められるか

第3条の3条件

規則第3条は、関連産品・関連製品について、次の(a)(b)(c)をすべて満たさない限り市場に置き・流通させ・輸出してはならないと定めている[1]。すなわち、(a)森林破壊フリーであること、(b)生産国の関連法令に従って生産されたこと、(c)デューディリジェンス・ステートメントの対象であること、の3条件である。なお(c)は、Regulation (EU) 2025/2650によって「この規則の関係規定が求めるところにより、デューディリジェンス・ステートメントまたは簡易申告の対象であること」(訳)に改められている[3]。この条文は「禁止」を起点に書かれており、3条件をすべて満たした場合にだけ流通・輸出が許される構造になっている点が、義務を積み上げていく書き方の条文とは異なる。

森林の定義と基準日

第2条(4)は森林を、0.5ヘクタールを超え、樹高5メートルを超える樹木があり、樹冠被覆が10%を超える土地、またはその場でそれらの閾値に達しうる樹木がある土地と定義し、主に農業的または都市的に利用されている土地を除いている[1]。第2条(13)によれば、森林破壊フリーとは、2020年12月31日より後に森林破壊を受けていない土地で生産された関連産品を含み、または用いていることを指す(木材を含む製品には別の要件も加わる)[1]。この日より後に森林破壊を受けた土地で生産された産品は、条件(a)を満たさない。

地理的位置情報という実務

原本の第9条は、事業者に、関連産品が生産されたすべての区画の地理的位置情報と、生産の日付または期間の情報を集めるよう求めている[1]。2025/2650は、零細・小規模の一次事業者について、この地理的位置情報を区画や施設の郵便住所に置き換えられるようにした[3]。コーヒーの取引ではロットが複数の小規模農家の生産物を混ぜて構成されることが多く、区画単位での位置情報の紐づけは、これまでのトレーサビリティの取り方とは粒度が異なる作業になる。この実務がサプライチェーンのどの段階で担われるかという一般論は、サプライチェーンの解説記事に譲る。

  • 森林破壊フリー:2020年12月31日より後に森林破壊を受けていない土地で生産されたこと
  • 関連法令遵守:生産国の土地利用・労働・環境等に関する法令に従っていること
  • デューディリジェンス・ステートメントの対象であること(2025/2650による改正後は、デューディリジェンス・ステートメントまたは簡易申告の対象であること)
深掘りメモ|条件の書き方

第3条が「禁止+条件付き解除」の形で書かれている点は、コーヒーの実務担当者が資料を読むときに見落としやすい。「義務づけられた」という言い換えで読むと、3条件のどれか1つを満たしていれば良いという誤読につながりやすいため、3条件がすべて要求されている構造をそのまま押さえておく必要がある。

いつから:2度の適用延期

原本の適用日から1度目の延期

原本(Regulation (EU) 2023/1115)の第38条は、第3条から第13条、第16条から第24条、第26条・第31条・第32条の適用日を2024年12月30日とし、2020年12月31日までに零細企業または小規模企業として設立されていた事業者については、規則(EU) No 995/2010の附属書が対象とする製品を除き、2025年6月30日としていた[1]。これに対し、Regulation (EU) 2024/3234(2024年12月19日制定、2024年12月23日官報公表)は、第3条から第13条、第16条から第24条、第26条・第31条・第32条の適用を2025年12月30日からとする改正を行った[2]。この改正は同時に、2020年12月31日までに指令2013/34/EU第3条(1)または(2)に基づき零細企業(micro-undertaking)または小規模企業(small undertaking)として設立されていた事業者について、規則(EU) No 995/2010の附属書が対象とする製品を除き、適用日を2026年6月30日に改めた[2]。

2度目の延期と零細・小規模の切り分け

Regulation (EU) 2025/2650(2025年12月19日制定、2025年12月23日官報公表)は、この適用日をさらに2026年12月30日へ延期した[3]。同時に、自然人または零細・小規模企業である事業者で、法的形式を問わず2024年12月31日までにそのような事業者として設立されていたものについては、規則(EU) No 995/2010の附属書が対象とする製品を除き、関連する条文の適用を2027年6月30日からとする規定を置いている[3]。この「2024年12月31日までに設立されていたこと」という設立時点の条件は、単純に「中小企業は2027年から」とまとめてしまうと抜け落ちる部分で、設立時期を含めて条文どおりに確認する必要がある事業者にとっては重要な線引きになる。

2025/2650が課した見直し義務

Regulation (EU) 2025/2650は規則第34条を改め、欧州委員会が2026年4月30日までに簡素化見直しを行って報告すること、2030年6月30日までに(その後は少なくとも5年ごとに)一般見直しを行って報告することを定めた[3]。この2つの見直しのうち、簡素化見直しの結果は後述するCOM(2026) 191として公表されている。適用日の変遷を整理すると次のようになる(零細・小規模の特例は、いずれも規則(EU) No 995/2010の附属書が対象とする製品を除く)。

規定の版通常事業者の適用日零細・小規模事業者の適用日
原本(2023/1115)2024年12月30日2025年6月30日(2020年12月31日までに設立された零細・小規模企業)
2024/3234による改正後2025年12月30日2026年6月30日(2020年12月31日までに設立された零細・小規模企業)
2025/2650による改正後2026年12月30日2027年6月30日(2024年12月31日までに設立された、自然人または零細・小規模企業である事業者)
深掘りメモ|延期の重なり方

2024/3234は適用日に関する規定を改める規則だが、2025/2650は適用日の延期に加えて、第3条(c)に簡易申告を加えるなど、事業者の義務の一部も改めている[3]。零細・小規模事業者向けの適用日が原本から別枠で置かれ、2度の改正でそれぞれ動いている点は、コーヒーの輸入・輸出に関わる中小規模の事業者が実務スケジュールを立てる際に見落としやすいポイントである。

2026年の動き:簡素化見直しと溶解コーヒーの委任規則

簡素化見直し報告 COM(2026) 191

欧州委員会は2026年5月4日、Regulation (EU) 2025/2650が課した簡素化見直しの結果を、COM(2026) 191としてEU議会・理事会に報告した[4]。この報告は、経済事業者にとって予測可能な規制枠組みを維持し、遵守コストの削減が進んでいることを踏まえ、基本法文(規則本体)のさらなる改正を提案するのは適切でないとしている[4]。一方で、ガイダンス及びFAQの更新など、複数の新たな簡素化措置を含めている[4]。

委任規則 C(2026) 4920 が加えるHSコード

これとは別に、欧州委員会は2026年7月13日、関連産品・関連製品のリストを改正する委任規則をC(2026) 4920として採択した[5]。この委任規則は、森林破壊リスクの移転を防ぐためとして、HSコード2101 11 00(原文は Extracts, essences and concentrates of coffee。コーヒーの抽出物、エッセンス及び濃縮物)を附属書Iに加えるべきとしている[5]。同じ文書によれば、新たに加わる品目の適用は2027年12月30日まで繰り延べられ、規則自体はEU官報への掲載の翌日に発効する[5]。この委任規則は Commission Delegated Regulation (EU) 2026/2102 として2026年9月17日にEU官報に掲載された[7]。

官報掲載と発効

2026年9月11日時点で、EUR-Lexの索引にこの委任規則の官報掲載は見当たらない。その後、この委任規則は(EU) 2026/2102として2026年9月17日に官報に掲載され、掲載の翌日に発効した[7]。HSコード2101 11 00は附属書Iに加わったが、この品目の適用は2027年12月30日からである[7]。COM(2026) 191は基本法文のさらなる改正を提案するのは適切でないとしたが、附属書の品目リストについては、この委任規則という別の手続きで動きが生じている。

  • COM(2026) 191(2026年5月4日):基本法文のさらなる改正を提案することは適切でないとした[4]
  • C(2026) 4920(2026年7月13日採択):HS 2101 11 00を附属書Iに加える委任規則。2026年9月17日に(EU) 2026/2102として官報掲載・翌日発効、追加品目の適用は2027年12月30日から[5][7]
深掘りメモ|「採択」と「発効」の距離

委任規則は委員会での採択と、官報掲載による発効・適用開始という段階を分けて考える必要がある。C(2026) 4920は委員会での採択(2026年7月13日)から官報掲載(2026年9月17日)までおよそ2か月かかり、掲載までは附属書Iの内容は変わっていなかった[7]。溶解コーヒーの扱いを調べるときは、採択日(2026年7月13日)と、官報掲載(2026年9月17日)を経た発効日、さらに追加品目の適用日(2027年12月30日)という3つの日付を分けて追う必要がある。

日本の読者への関係

農林水産省の案内

農林水産省は、輸出・国際局のページでEUDRの適用日を案内している。同ページ(掲載日 令和6年9月2日、更新日 令和8年6月29日)は、2026年12月30日からの適用(小規模・零細事業者は2027年6月30日から)を示し、対象品目としてEU域内で流通する牛・カカオ・コーヒー・アブラヤシ・ゴム・大豆・木材の7品目とその派生製品を挙げている[6]。同ページは説明会の資料も公開しており、その資料では主に輸出業者が求められることを整理したとしている[6]。

HSコードの注記と更新時点

同ページは、2025年12月にHSコード49(書籍・新聞・印刷物等)が対象製品から除外されたことを、HSコードを示したうえで注記している[6]。この更新日(令和8年6月29日)は、委任規則C(2026) 4920が委員会で採択された2026年7月13日より前の時点である。附属書の変更を追う場合は、農水省のページが示す時点と、EUR-Lex側の委任規則の採択・発効の時点を、それぞれ別に確認する必要がある。

規則の対象範囲と日本の位置づけ

EUDRが定める禁止規定の対象は、EU市場での流通とEUからの輸出であり、規則の条文自体が日本国内の消費や取引を直接の対象にしているわけではない。日本からEUへコーヒーや派生製品を輸出する事業者にとっては、農水省が案内する適用日と対象品目の確認が実務上の出発点になる一方、日本国内の価格や調達への影響の大きさについては、本記事が参照した資料の範囲では数値による裏づけを確認できない。したがって、影響の程度を推測で述べることは避け、規則の対象範囲がEU市場での流通・EUからの輸出である点を起点に、必要な情報を農水省の案内やEUR-Lexの原文で確認していく形が実務的である。

結論

EUDRにおけるコーヒーの扱いは、対象HSコード(0901)・3条件(森林破壊フリー・生産国法令遵守・デューディリジェンス・ステートメント〔2025/2650による改正後は簡易申告も〕)・適用日(2026年12月30日。2024年12月31日までに設立された零細・小規模事業者などは2027年6月30日)という3つの軸で押さえるのが確実である。溶解コーヒーについては、HS 2101 11 00を加える委任規則が2026年7月13日に委員会で採択され、(EU) 2026/2102として2026年9月17日に官報に掲載されて発効した[7]。追加品目の適用は2027年12月30日からである。この種の規則は採択・発効・適用開始という段階を踏むため、溶解コーヒーを扱う事業者は、この適用日をEUR-Lexの原文で確かめておくのがよい。

参考文献

  1. Regulation (EU) 2023/1115 of the European Parliament and of the Council of 31 May 2023
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1115/oj
  2. Regulation (EU) 2024/3234 of the European Parliament and of the Council of 19 December 2024
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/3234/oj
  3. Regulation (EU) 2025/2650 of the European Parliament and of the Council of 19 December 2025
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/2650/oj
  4. Report from the Commission to the European Parliament and the Council: Simplification review on the Regulation (EU) 2023/1115, COM(2026) 191 final
    https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52026DC0191
  5. Commission Delegated Regulation (EU) …/… of 13.7.2026 amending Regulation (EU) 2023/1115 as regards the list of relevant commodities and relevant products, C(2026) 4920 final
    https://environment.ec.europa.eu/document/download/df12fb57-98fc-4d94-9552-04f713c61d07_en
  6. EUの森林減少防止に関する規則への対応について, 農林水産省 輸出・国際局
    https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/EUDR.html
  7. Commission Delegated Regulation (EU) 2026/2102 of 13 July 2026 amending Regulation (EU) 2023/1115 of the European Parliament and of the Council as regards the list of relevant commodities and relevant products(OJ L, 2026/2102, 17.9.2026。2026年10月18日閲覧)
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2026/2102/oj/eng

この記事を書いた人

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