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コーヒー精製の排水|CODが4千から5万mg/Lまで割れる理由と、川への影響・処理でどこまで下がるか

コーヒー精製の排水|CODが4千から5万mg/Lまで割れる理由と、川への影響・処理でどこまで下がるか

コーヒー精製の排水は、COD(化学的酸素要求量)の報告値がレビュー論文の上限で50,000mg/L[1]、エチオピアの精製所の平均で4,302mg/L[3]と、10倍以上(計算)の開きで語られる。この差は水質が改善したり悪化したりしているわけではなく、統計量・液の種類・採取場所・単位という4つの前提が資料ごとに違うために生じる。

この記事の結論
  • CODが4,302mg/Lと50,000mg/Lに分かれるのは水質差でなく、統計量や液の種類など4つの前提の違いによる。
  • COD除去率は施設で割れ、Kegeの人工湿地は92%、同じ方式のBokasoの人工湿地は20.1%にとどまった。
  • 排水の数字を見たら、液の種類・採水地点・統計量・単位のどれが違うか確かめると読み違いを防げる。

この記事は「コーヒー精製方法完全ガイド|ウォッシュト・ナチュラル・ハニー全比較」の各論です。

目次

導入:同じ「コーヒー精製の排水」でCODが4千mg/L台とも5万mg/Lとも書かれるのはなぜか

「排水」が指すものは一つではない

コーヒーの精製(ウォッシュト精製の工程はウォッシュトプロセスの記事に譲る)では、果肉を剥いたあとの水槽や発酵槽、パーチメントを洗う工程で水が使われ、そこから出る液体をまとめて「排水」と呼ぶことが多い。しかし実際には、精製所の排出口から出る混合排水、パルプと粘液質から染み出す浸出液、パーチメントをすすいだ洗浄水はそれぞれ組成が異なる。ある論文がCOD 4,302mg/Lと書くとき、それが混合排水の平均値なのか、浸出液だけの値なのかで、読者が受け取る意味は大きく変わる。

4000から50000への幅は矛盾ではない

レビュー論文であるRattanらの2015年の総説は、コーヒー加工排水のBODが最大20,000mg/L、CODが最大50,000mg/Lに達し、pHが4未満まで下がる場合があると述べている[1]。これは「最大で」という上限の書き方であり、精製所の排水がつねにこの値だという意味ではない。一方でエチオピアのFaro精製所を対象にしたWubalemらの2022年の論文(採水は2019年11〜12月)では、排水の平均COD濃度は4,302mg/Lと報告されている[3]。上限値と平均値では統計量が違うので、この2つの数字を同じ種類の値として並べることはできない。

深掘りメモ|数字の幅をどう読むか

レビュー論文が示す「最大」の値と、個々の精製所で測った平均値とは、統計量が違う[1][3]。記事や資料で数字を見かけたら、それが上限か平均かをまず確認する姿勢が実務的である。

COD と BOD とは何か、数字を読む前の4つの前提

COD・BODが示すもの

CODは水中の有機物や還元性物質を化学的に酸化するのに必要な酸素量、BODは微生物が水中の有機物を分解する際に消費する酸素量を示す指標で、どちらも値が高いほど水中に分解されるべき有機物が多いことを表す。コーヒー精製の排水は、COD・BODとも高い値で報告されている[1][2][3]。数値だけを比較する前に、次の4つの前提を揺れの要因として押さえておく必要がある。

数字を比較する前に確認すべき4つの前提は次のとおりである。

項目内容
統計量最大値・上限値なのか、平均値なのか[1][3]
液の種類精製所の混合排水・洗浄水・パルプや粘液質だけの浸出液のどれを指しているか
採る場所排出口・河川との合流点・上流や下流のどの地点で採水したか
単位mg/Lという濃度表記か、乾燥パーチメント1kgあたりのppmという別の単位系か

前提①統計量と②液の種類

Haddis & Deviが2008年に報告したエチオピアのある精製所周辺の調査では、COD濃度が上流で25,600mg/L、下流で15,780mg/Lと示され、BODも上流14,200mg/L、下流10,800mg/L、リン酸塩も上流7.3mg/L、下流4.6mg/Lとどの指標も上流側で高い値になっている[2]。この論文は抄録の範囲でしか確認できないため、上流・下流という地点がそれぞれ具体的に何を指すかは推測しない。統計量という軸で見ても、抄録にはこの上流値・下流値が平均か最大かといった統計量が書かれておらず、Rattanの総説が示す上限値[1]や、Wubalemの調査が示す平均値[3]と同じ種類の数字として並べることはできない。

前提③採る場所と④単位——Cenicafé の ppm. kg-1

コロンビアのCenicafé(コロンビア国立コーヒー研究所)の研究誌に2015年に載った論文は、Becolsubという精製技術について、水の使用を乾燥パーチメント(cps)1kgあたり0.7Lまで減らせる一方で、浸出液の汚濁はDQO(CODのスペイン語表記)で約110,000ppmになると書き、その単位を「ppm de DQO por kilogramo de cps」としている[5]。同じ論文の要約はこれを「ppm. kg-1」と表記しており、これまで見てきたmg/L(水1Lあたりの濃度)とは単位の書き方が違う。単位がそろっていないので、両者を何倍という比で並べることはできない。

出典対象数値単位条件
Rattan(2015)[1]レビュー論文の上限値COD最大50,000/BOD最大20,000mg/LpH4未満も併記
Wubalem(2022)[3]Faro精製所排水の平均COD 4,302/BOD5(5日間の生物化学的酸素要求量)2,409.6mg/L平均値(2019年採水)
Haddis & Devi(2008)[2]上流地点COD 25,600/BOD 14,200mg/L抄録の範囲で地点の定義は不明
Haddis & Devi(2008)[2]下流地点COD 15,780/BOD 10,800mg/L同上
Cenicafé(2015)Becolsub[5]浸出液DQO(COD相当)約110,000ppm de DQO por kilogramo de cps(要約では ppm. kg-1)水の使用を0.7L/kg cpsまで減らした場合
深掘りメモ|単位の違いを見落とすと起きること

mg/Lとppm. kg-1は数字の大きさだけ見ると比較したくなるが、単位の書き方がそろっていないので、比を出して開きの大きさを語ることはできない[5]。資料に単位が書かれていないときは、その数字を鵜呑みにしない姿勢が求められる。

川で何が起きるか:Orsha川の底生無脊椎動物と排出基準

合流点の下流と上流で個体数がどう変わったか

Wubalemらの2022年の論文(2019年11〜12月の調査)は、コーヒー精製所排水がOrsha川に流れ込む地点の上流と下流で底生無脊椎動物を採集し、下流の2地点でそれぞれ40個体、56個体、上流では296個体を確認したと報告している[3]。同じ論文は、汚濁に弱い分類群(カゲロウ目など)が上流で多く見られたとも書いている[3]。この調査ではShannonおよびSimpsonの多様度指数、Pielouの均等度指数も3つの採水地点で算出されている[3]。

未処理排水は国際排出基準を満たさなかった

同じ調査では、未処理の排水と川の水を分析した結果、TDS(全溶解性固形物)を除くすべての項目が国際的な排出基準を満たさなかったと述べられている[3]。どの項目がどの基準値をどれだけ超えていたかという内訳は、本記事では扱わない。この結果は、排水が処理されずに川へ流れ込んだ場合に、水質の指標が広い範囲で基準を外れる可能性を示す一例として読むのが妥当である。

  • TDSのみ国際的な排出基準を満たしていた[3]
  • TDS以外の項目(COD・BODなどを含む)はすべて基準を満たさなかった[3]
深掘りメモ|個体数の差をどう受け止めるか

40・56という下流の個体数と296という上流の個体数の差は大きいが、これは特定の調査時点・特定の川における観測結果であり、コーヒー精製に伴う排水がつねにこの規模の影響を及ぼすと一般化はできない[3]。個々の精製所の設備や地形によって結果は変わり得る。

処理でどこまで下がるか:湿地とSTLBの除去率

Kege精製所の自然湿地と人工湿地

エチオピアのDale WoredaにあるKege精製所の排水を対象にしたBeregoらの2022年の論文(採水は2021年10〜12月)は、自然湿地でCOD除去率が約91.65%、人工湿地で92%に達したと報告している[4]。同じ調査ではBOD5の除去率も示され、自然湿地で92.36%、人工湿地で97.9%という値が確認できる[4]。この論文は、高い除去効率が沈殿・ろ過・吸収(原文は absorption)といった過程、および細菌による分解に由来すると説明しており、Kegeというこの特定の施設・この調査期間の結果として読む必要がある[4]。

Bokasoの人工湿地は伸びが小さかった

一方で、同じWubalemらの調査が対象にしたBokasoの人工湿地では、処理後の除去率がBODで16.4%、CODで20.1%にとどまったと報告されている[3]。KegeとBokasoはいずれも人工湿地という同じ方式の処理を採用しているが、除去率には大きな差が出ている。調査の年も違い(Bokasoは2019年、Kegeは2021年)、この差がどの設計・負荷・運転条件によるものかは本記事では特定せず、それぞれ特定の施設・特定の調査期間の結果として並べるにとどめる。

Cenicafé STLBの一次処理

コロンビアのCenicafé の2015年の論文は、ZambranoとCárdenasがEstación Experimental La Catalinaで、Becolsub 600という装置(水の使用は乾燥パーチメント1kgあたり約1.2L)から出る浸出液を対象にSTLBという一次処理の試作装置を設計・評価した結果として、COD(原文ではDQO)を67.04%除去し、110,000ppmだった値を36,252ppmまで下げたと紹介している[5]。同じ論文は、そのあとSMTA(コーヒー精製排水のモジュール式処理システム)による二次処理が見込めると書いている[5]。

施設・処理対象指標除去率・結果出典
Kege 自然湿地COD約91.65%[4]
Kege 人工湿地COD92%[4]
Kege 自然湿地BOD592.36%[4]
Kege 人工湿地BOD597.9%[4]
Bokaso 人工湿地BOD16.4%[3]
Bokaso 人工湿地COD20.1%[3]
Cenicafé STLB(一次処理)COD(DQO)67.04%除去、36,252ppmまで低下[5]
深掘りメモ|同じ方式でも結果が割れる理由を決めつけない

KegeとBokasoはどちらも人工湿地だが除去率は大きく違う[3][4]。この差の原因を設計や運転の巧拙に帰着させたくなるが、本記事では原因を検討しておらず、断定は避ける。

結論:排水の数字を読む4つの問い

コーヒー精製の排水に関する数字を見かけたとき、それを鵜呑みにする前に確認したい問いは4つに整理できる。第一に、その数字が混合排水・洗浄水・浸出液のどの液を指すのか。第二に、排出口・合流点・上流や下流のどこで採水されたのか。第三に、平均値なのか、レビュー論文が示す上限値なのか。第四に、未処理の排水の値なのか、湿地やSTLBのような処理を経たあとの値なのかという点である。本記事で見てきたとおり、CODが4,302mg/L[3]と表現される場合と50,000mg/L[1]と表現される場合は、どちらも「間違い」ではなく、この4つの前提のどこかが異なっているだけである。

環境負荷という論点をより広く知りたい場合は、精製・焙煎というテーマ全体を扱う「精製・焙煎」カテゴリや、環境負荷の記事で環境負荷の概論を確認するのが近道になる。数字そのものを覚えるよりも、次に別の記事や資料で排水のCOD値を見かけたときに、この4つの問いを思い出せることのほうが実用的である。

参考文献

  1. A comprehensive review on utilization of wastewater from coffee processing
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25598156/
  2. Effect of effluent generated from coffee processing plant on the water bodies and human health in its vicinity
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17719723/
  3. Effect of Wastewater Discharge From Coffee Processing Plant on River Water Quality, Sidama Region, South Ethiopia
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8842449/
  4. Treatment Performance Assessment of Natural and Constructed Wetlands on Wastewater From Kege Wet Coffee Processing Plant in Dale Woreda, Sidama Regional State, Ethiopia
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9730010/
  5. Manejo de lixiviados y aguas de lavado en el proceso de beneficio húmedo del café
    https://biblioteca.cenicafe.org/jspui/bitstream/10778/608/1/arc066(01)46-60.pdf

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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