輸入した豆の値上がりは、消費者に近い段階ほど小さく、遅れて届く。生豆の平均輸入単価は2020年の289円/kgから2025年に1,010円/kgへ上がり、289と1,010から計算すると約3.5倍になる[1]。同じ2025年の消費者物価指数(2020年=100・全国・年平均)は、コーヒー豆が204.8、喫茶店の「コーヒー(外食)A」が115.3である[2]。①輸入(生豆)、②メーカーの出荷、③店頭のコーヒー豆、④インスタントコーヒーとコーヒー飲料、⑤喫茶店の1杯の順に、上がり方と動いた時期を公表されている統計で確かめる。
- コーヒー豆の値上がりは、輸入から喫茶店の1杯までの段階ごとに大きさと動いた時期が違う。
- 2025年平均の消費者物価指数(2020年=100・全国)で、コーヒー豆の指数は204.8である。
- 輸入単価と指数は別の指標で、2020年基準と2025年基準の指数もそのまま並べられない。
段階別に見る値上がりの大きさ
生豆の輸入単価は5年で約3.5倍
全日本コーヒー協会が財務省「貿易統計」から集計した資料によると、生豆の平均輸入単価(脱カフェインの生豆を含む)は2020年に289円/kg、2025年(確々報)に1,010円/kgであった[1]。289と1,010という2つの値から計算すると、この5年間で約3.5倍の上昇になる。前年の2024年は677円/kgで、677と1,010から計算すると2025年は前年より約49%高い[1]。貿易統計の輸入額はCIF価格(保険料・運賃込み)で計上されるので、この単価は輸入という一つの段階の値である。
メーカーの出荷段階は2025年平均で170.4
日本銀行の国内企業物価指数(2020年=100)の品目「コーヒー」は、2025年1〜12月の月次値12個を単純平均すると170.4になる(12個の月次値からの計算)[4]。月ごとの動きは次の章で見る。
店頭のコーヒー豆、インスタント・コーヒー飲料、喫茶店の違い
総務省の消費者物価指数(2020年基準・年報2025年・全国・2025年平均)では、店頭のコーヒー豆の価格指数は204.8、インスタントコーヒーは123.4、コーヒー飲料Aは118.9、コーヒー飲料Bは135.6である[2]。喫茶店で飲む1杯にあたる「コーヒー(外食)A」は115.3、「コーヒー(外食)B」は121.5である[2]。コーヒー飲料A(118.9)はコーヒー(外食)B(121.5)より低く、④と⑤のあいだでは品目によって順が入れ替わる。参考として、コーヒーとココアをまとめた類「コーヒー・ココア」は143.6である[2]。
| 段階 | 品目 | 2020年の値 | 2025年の値 | 前年比(2025年) | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①輸入(生豆) | 生豆 平均輸入単価 | 289円/kg | 1,010円/kg(約3.5倍、289と1,010から計算) | 約49%(677と1,010から計算) | [1] |
| ②メーカーの出荷 | 国内企業物価指数「コーヒー」 | 100 | 170.4(月次値12個の単純平均=計算) | ― | [4] |
| ③店頭のコーヒー豆 | コーヒー豆 | 100 | 204.8 | 39.8% | [2] |
| ④インスタント・コーヒー飲料 | インスタントコーヒー | 100 | 123.4 | 13.2% | [2] |
| ④インスタント・コーヒー飲料 | コーヒー飲料A/B | 100 | 118.9/135.6 | 9.2%/13.4% | [2] |
| ⑤喫茶店の1杯 | コーヒー(外食)A/B | 100 | 115.3/121.5 | 4.6%/5.8% | [2] |
| 参考(類) | コーヒー・ココア | 100 | 143.6 | 20.1% | [2] |
前年比で見る上昇の速さ
2025年の前年比で並べると、コーヒー豆は39.8%、インスタントコーヒーは13.2%、コーヒー飲料Aは9.2%、コーヒー飲料Bは13.4%、コーヒー(外食)Aは4.6%、コーヒー(外食)Bは5.8%である[2]。③店頭のコーヒー豆、④インスタントコーヒーとコーヒー飲料、⑤喫茶店の1杯の順に、前年比の数字も小さくなっている。②メーカーの出荷段階の170.4は月次値から計算した年平均なので前年比は置いておらず、月ごとの動きを次の章で扱う。
輸入単価の約3.5倍という倍率と、店頭のコーヒー豆の204.8という指数は、計算の基準(金額と数量の比か、決めた銘柄の店頭価格か)が異なる別の指標である。倍率の大きさだけを単純に比べて「吸収された割合」を推測する読み方は、この2つの指標の性質上成立しない。
メーカーの出荷段階|企業物価指数と価格改定の重なり
国内企業物価指数「コーヒー」、1か月で段差
日本銀行の企業物価指数(2020年基準)のうち国内企業物価指数の品目「コーヒー」は、企業間で取引される段階の価格を示す指数である[4]。この指数は2025年6月の163.4から7月には182.4へと、1か月で19.0ポイント上がった(163.4と182.4から計算)[4]。2025年の1〜12月の月次値12個を単純平均すると170.4になる(12個の月次値からの計算)[4]。2025年8月から2026年8月までの月次値は184.3〜187.9の範囲にあり、2026年8月は186.1である[4]。
価格改定の実施月と指数が上がった月が重なる
味の素AGFは、2025年7月1日納品分から家庭用の計176品種について価格改定を実施すると発表した[6]。国内企業物価指数「コーヒー」が163.4から182.4へ段を上げた月は、この価格改定の実施月と重なっている[4][6]。メーカー1社の価格改定だけで指数全体の変動を説明することはできないが、実施時期が指数の段差と同じ月に位置していることは、公表されている時系列から確認できる事実である。
「店頭価格の上昇幅」は推測であって実績ではない
味の素AGFは今回の価格改定について、対象商品の店頭価格の上昇幅は商品により異なるとしつつ「25%~55%と推測しています」と述べている[6]。この25〜55%という数字はメーカー自身の見込みであり、実際に店頭でどれだけ上がったかを示す実績値ではない。消費者物価指数のコーヒー豆の指数(204.8)やインスタントコーヒーの指数(123.4)は、この見込みとは別に総務省が実際の店頭価格から集計した値である[2]。
ここで見た企業物価指数は月ごとの値で、前の章の消費者物価指数は2025年の年平均である。同じ月どうしを比べたものではないので、どちらが先に動いたかはこの2つからは言えない。月ごとの値での比較は、あとの「いま分かること」の章で行う。
「1.5倍」か「2倍」か「3.5倍」か
内閣府が示す2020年比の倍率
内閣府の「日本経済レポート(2025年度)」は、消費者物価の動向を述べるなかで、チョコレートやコーヒーの2025年末頃の価格は世界的な気候変動の影響から2020年と比べて上昇しているとし、チョコレートは約2倍、コーヒーは約1.5倍と記している[5]。この箇所には、コーヒーのどの品目(店頭のコーヒー豆か、インスタントコーヒーか、喫茶店の1杯か)を指して約1.5倍としているかは書かれていない。
消費者物価指数の品目別に見ると
消費者物価指数の品目別の値(2020年=100・2025年平均)を並べると、コーヒー豆は204.8、類のコーヒー・ココアは143.6、インスタントコーヒーは123.4である[2]。内閣府の「2025年末頃」とは時点が違うが、どの品目を取るかによって、2020年比の倍率は約2.0倍から約1.2倍まで変わる(指数を100で割った計算)。輸入段階の生豆単価まで含めれば約3.5倍という数字も存在し、「コーヒーの値段は何倍になったか」という問いには、品目と段階を決めないと一つの答えが出ない。
| 比較する数字 | 倍率・指数 | 対象 | 基準 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 生豆の輸入単価 | 約3.5倍(289→1,010円/kg、計算) | 生豆(CIF) | 2020年→2025年 | [1] |
| 内閣府レポート | 約1.5倍 | コーヒー(対象品目は明記なし) | 2020年→2025年末頃 | [5] |
| CPI コーヒー豆 | 204.8(2020年=100) | 店頭のコーヒー豆 | 2020年基準・2025年平均 | [2] |
| CPI 類「コーヒー・ココア」 | 143.6(2020年=100) | コーヒー・ココア全体 | 2020年基準・2025年平均 | [2] |
| CPI インスタントコーヒー | 123.4(2020年=100) | インスタントコーヒー | 2020年基準・2025年平均 | [2] |
家計にとっての重さ|ウエイトという別の尺度
消費者物価指数のウエイトとは
消費者物価指数には、総合を10000としたときに各品目がどれだけの比重を占めるかを示すウエイトという数字がある。2020年基準では、コーヒー豆が9、インスタントコーヒーが9、コーヒー飲料Aが13、コーヒー飲料Bが3、コーヒー(外食)Aが14、コーヒー(外食)Bが7、類のコーヒー・ココアが34である[2]。ウエイトは、指数を計算するときに各品目に与える重みで、品目ごとの支出の割合をもとに決められている。
倍率の大きさと家計への重みは別の軸
コーヒー豆は204.8という指数の大きさだけを見れば目立つが、ウエイトは9と小さい。一方でコーヒー(外食)Aはウエイトが14とコーヒー豆より大きいものの、指数は115.3と上昇の度合いは小さい。倍率が大きい品目ほど家計の支出に占める重みが大きいとは限らず、次のことが同時に成り立つ。
- 上がり方が大きい品目(コーヒー豆)が、必ずしも家計での比重が大きいわけではない
- 比重が大きい品目(コーヒー(外食)A、コーヒー飲料A)が、必ずしも上がり方が大きいわけではない
店頭はいつ落ち着くのか、ではなく「いま分かること」
2025年基準の指数で見るコーヒー豆とインスタントコーヒー
総務省は2025年を基準とした新しい消費者物価指数も公表している。この2025年基準の指数(2025年=100・全国)では、2026年8月のコーヒー豆は124.9で、前年同月比24.4%、前月比2.0%の上昇であった[3]。同じ月のインスタントコーヒーは108.6で、前年同月比は1.8%である[3]。2020年基準の指数と2025年基準の指数は基準年が異なるため、204.8と124.9という数字をそのまま並べて比較することはできない。
同じ2026年8月を、②メーカーの出荷段階と前年同月比で並べてみる。国内企業物価指数の品目「コーヒー」は2025年8月が184.9、2026年8月が186.1で、184.9と186.1から計算すると約0.6%の上昇である[4]。出荷段階の指数がほぼ横ばいになってから1年たっても、店頭のコーヒー豆の指数は前年同月を24.4%上回っている[3]。2つは別の統計なので、差の理由までは言えない。
輸入物価指数「コーヒー豆・カカオ豆」の動き
日本銀行の輸入物価指数(円ベース)には「コーヒー豆・カカオ豆」という品目がある。この品目は2026年1月に520.2であったものが8月には391.4まで下がっている[4]。この品目名にはカカオ豆が含まれているため、この数字の変化を「コーヒー豆の輸入価格が下がった」と言い換えることはできず、品目名どおり「コーヒー豆・カカオ豆」の指数として読む必要がある。
内閣府が示す価格転嫁の見方
内閣府は、2024年夏頃の円安も含めた輸入原材料価格の押し上げが「徐々に最終財価格に転嫁され」、食料品価格の上昇に寄与している面もあると考えられるとしている[5]。同じ節は、過去のデータからの試算として、輸入物価の動きは6か月程度のラグを伴って消費者物価に反映される傾向がみられてきたとも書いている[5]。これは財の物価全般についての記述で、コーヒーに限った値ではない。
2020年基準の指数と2025年基準の指数は、どちらも「ある年を100とする」という同じ考え方で作られているが、基準となる年が違うため数値をそのまま比較できない。同じ品目を時系列で追うときは、どちらの基準の指数かをまず確認する必要がある。
結論|数字を引くときに添えるべきこと
輸入単価・消費者物価指数・企業物価指数は測り方が違う
ここまで見てきた3つの数字は、それぞれ測っている段階が違う。生豆の輸入単価は、金額を数量で割ったCIFベースの単価であり、輸入という一つの段階の動きを示す[1]。消費者物価指数は、総務省が決めた銘柄について実際の店頭価格を調べて作る指数であり、コーヒー豆・インスタントコーヒー・コーヒー飲料・喫茶店の1杯それぞれに別の品目として存在する[2][3]。国内企業物価指数は、企業間で取引される段階の価格を示す指数であり、店頭に並ぶ前の出荷段階を映している[4]。
基準年の違いに注意する
2020年基準の消費者物価指数と2025年基準の消費者物価指数は、どちらも便利な指数だが基準年が違う。204.8(2020年基準・コーヒー豆)と124.9(2025年基準・コーヒー豆)を同じ列に並べて比較すると、実際の値動き以上の差や違いを読み取ってしまう。数字を引くときには、どの機関の、どの品目の、何年基準の数字かという3つを必ず添える必要がある。
- 「全日本コーヒー協会、生豆の平均輸入単価、2025年確々報」のように機関・品目・年次をそろえて書く
- 「総務省、コーヒー豆、2020年基準」と「総務省、コーヒー豆、2025年基準」を区別して書く
日本全体の輸入量や家計支出は別記事で
生豆の輸入相手国の構成や輸入量全体の推移、家計の消費支出全体に占めるコーヒーの位置づけといった論点は、日本のコーヒー統計をまとめたページで扱っている。輸入、メーカーの出荷、店頭のコーヒー豆、インスタントコーヒーとコーヒー飲料、喫茶店の1杯という段階ごとに、上がり方の大きさと指数が動いた時期は異なる。
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参考文献
- 日本のコーヒー生豆の国別輸入量・単価(2010・2020・2023・2024・2025年)/全日本コーヒー協会 統計資料
https://coffee.ajca.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2026/03/data-gc-yunyuryo-tanka2025.pdf - 消費者物価指数 2020年基準 年報 2025年 第5-1表 品目別価格指数・寄与度(全国)/総務省統計局
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000040430838 - 2025年基準 消費者物価指数 月報 2026年8月 第5表 品目別価格指数・寄与度(全国・東京都区部)/総務省統計局
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000040501449 - 企業物価指数(2020年基準)国内企業物価指数 品目「コーヒー」・輸入物価指数(円ベース)品目「コーヒー豆・カカオ豆」月次/日本銀行 時系列統計データ検索サイト
https://www.stat-search.boj.or.jp/api/v1/getDataCode?format=json&lang=jp&db=PR01&code=PRCG20_2200150073 - 日本経済レポート(2025年度)-物価高を乗り越え、「強い経済」の実現へ- 第1章第2節 物価・賃金の動向と課題/内閣府政策統括官(経済財政分析担当)
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2025/0210nk/n25_1_2.html - 家庭用一部商品価格改定のお知らせ/味の素AGF ニュースリリース
https://agf.ajinomoto.co.jp/news/2025-03-31-2216.html
