MENU

コーヒーの史上最高値は本当か|2025年の記録を名目と実質に分け、1977年と比べる

コーヒーの史上最高値は本当か|2025年の記録を名目と実質に分け、1977年と比べる

コーヒーの「史上最高値」は名目価格の月平均の記録であり、実質の年平均では2025年はまだ1977年に届いていない[1][4]。ICOの複合指標は2025年2月に月平均で記録上の最高値となり[1]、世界銀行が2010年ドルに直した年平均では、アラビカの2025年は1977年の約65%である(計算)[4]。名目の記録・1977年の月平均・実質の比較・実質化の物差し・1975年の霜害から頂点までの順に確認する。

この記事の結論
  • コーヒーの史上最高値は名目価格の月平均の記録で、実質の年平均では2025年は1977年に届いていない。
  • ICOの複合指標は2025年2月の月平均が354.32米セント/ポンドで、名目での記録上の最高値となった。
  • 世界銀行の実質値は年次がMUV、2025年4月の特集は米国CPIで月次を直しており、直接は比べられない。
目次

名目の記録(ICO月報)

2025年2月、記録上の最高値

ICO(国際コーヒー機関)のCoffee Market Report 2025年2月号は、I-CIP(ICO複合指標価格)が月平均で記録上の最高値を更新したと記している[1]。2025年2月の月平均は354.32米セント/ポンドで、前月の2025年1月から14.3%上昇した[1]。ICOはこの値を「highest monthly average on record」と位置づけ、それまでの高値として1977年3月の305.13米セント/ポンドを挙げたうえで、「(nominal prices)」、つまり名目価格だと断っている[1]。記録として比べられているのが名目の値であることは、ICOの月報自身が書いている。

記録に至るまでの月平均

2025年2月より前の月報は、記録上の最高という言い方ではなく、1977年のある月以来の高い月平均という書き方をしている[2][3]。各号の値を並べると、上昇は複数の月にわたって続いていた。

月I-CIP月平均(米セント/ポンド)前月からの変化出典
2025年2月354.32+14.3%[1]
2025年1月310.12+3.5%[2]
2024年12月299.61約+10.7%(計算)[1]
2024年11月270.72+8.0%[3]

2025年1月号は自らの月平均を「highest monthly average since 314.96 US cents/lb (nominal prices) in April 1977」と表現し、2024年11月号は「highest monthly average since 277.41 US cents/lb (nominal prices) in May 1977」と表現している[2][3]。どちらも、その月以来の高さだという言い方で、挙げられている1977年の月が号によって違う。食い違いではなく、それぞれ別の月の値である。2024年12月の299.61は、2025年2月号の月次の表に載っている値である[1]。

1977年の月平均という基準

ICOの各号が引く1977年の値

ICOの月報が引用する1977年の月平均は、号によって3月・4月・5月と異なる[1][2][3]。各号が、その月の月平均を過去の月と比べて書いているためで、3つは別々の月の値である。

1977年の月月平均(米セント/ポンド)引用したICO月報
3月305.132025年2月号[1]
4月314.962025年1月号[2]
5月277.412024年11月号[3]

3つの値を並べると、4月の314.96が最も高く、5月の277.41が最も低い。3月から4月に上がり、5月に下がっている。

「従来の高値」はどの月か

2025年2月号は、2025年2月の354.32が「previous highs of 305.13 US cents/lb (nominal prices) in March 1977」を上回ったと書いている[1]。一方で、同じICOの2025年1月号は1977年4月の314.96を比較対象として引いている[2]。3つの号が挙げた1977年の値のなかで最も高いのは4月の314.96で、2025年2月の354.32はそのどれよりも高い。このため本記事は、305.13を1977年の最高値とは書かず、号ごとに挙げられた月と値をそのまま示す。

深掘りメモ|1977年の月平均という基準

ICOの月報は号ごとに異なる過去の月を比較対象として引いており、2025年2月号が引く1977年3月の305.13は、同じICOの2025年1月号が引く1977年4月の314.96より小さい[1][2]。どちらもICOが書いた別の月の値で、片方が誤りというわけではない。従来の高値として引かれた数字を見たら、どの号の、どの月の値かを確かめたい。

実質で比べる(世界銀行 Pink Sheet)

アラビカの名目と実質

世界銀行のPink Sheet年次データ(2026年9月2日更新)は、アラビカとロブスタの名目価格と、2010年米ドルで実質化した価格をドル/キログラム単位で示している[4]。アラビカの1977年と2025年を並べると、名目では2025年のほうが高いが、実質では逆転する。

年名目(ドル/kg)実質・2010年ドル(ドル/kg)
1977年5.1711.30
2025年8.477.29

名目だけで見れば2025年の8.47は1977年の5.17の約1.6倍である(計算)。しかし2010年ドルで実質化すると、2025年の7.29は1977年の11.30の約65%にとどまる(計算)。名目では上回っているのに実質では下回るという、方向の違う結果が同じ2つの年のあいだに同時に成り立っている。同じ系列(1960年以降)でアラビカの実質の年平均が最も高いのは1977年の11.30で、2025年の7.29は1976年の7.44に次ぐ3番目である[4]。

ロブスタの名目と実質

ロブスタについては、名目の段階からすでに1977年のほうが高い。

年名目(ドル/kg)実質・2010年ドル(ドル/kg)
1977年4.9310.78
2025年4.864.19

2025年の名目4.86は1977年の名目4.93をわずかに下回る[4]。実質では2025年の4.19が1977年の10.78の約39%(計算)で、差はさらに開く。アラビカとロブスタで名目の結果そのものの方向が異なる点は、「コーヒー価格」をひとつの数字として語るときに見落とされやすい部分である。

指標の違いに注意

世界銀行のデータはドル/キログラムで示され、ICOの複合指標は米セント/ポンドで示されるため、単位だけでなく対象とする指標自体も異なる。世界銀行のアラビカの系列は、ICOの指標価格のうち other mild Arabicas(ニューヨークとブレーメン/ハンブルク市場の平均)である[4]。この2つの単位・指標を換算して1つの数字に混ぜることはしない。

実質化の物差し

MUVで割った「Constant prices」

世界銀行は同じファイルの注記で、実質価格(Constant prices)を、名目価格をMUV(Manufacturers Unit Value Index)で割った価格だと説明している[4]。MUVは、15か国が輸出する工業製品の単価を米ドル建てで指数にしたものである[4]。年次のPink Sheetで示される実質値は、この計算を経た数字である。

世界銀行の名目値はICOの指標価格

世界銀行のPink Sheetが示すコーヒーの名目価格そのものは、系列の説明(Descriptionシート)に「International Coffee Organization indicator price」と記されており、ICOの指標価格をそのまま採用している[4]。したがって名目値がICOの値と一致しているのは当然の結果であり、世界銀行が独自に行っているのは、その名目値をMUVで割って実質化する工程のほうである。

2025年4月報告のCPI基準との違い

世界銀行は2025年4月のCommodity Markets Outlook特集記事で、Pink Sheetの月次の価格を米国の消費者物価指数(CPI)で実質化している[5]。この特集の図の最終観測は2024年12月である[5]。年次のPink SheetがMUVという物差しを使うのに対して、2025年4月の特集記事は米国CPIという別の物差しを使っており、同じ「実質価格」という言葉でも、どちらの資料を参照しているかで基準が変わる。

  • 年次のPink Sheet:MUV(工業製品を輸出する国々の輸出単価指数)で実質化した年平均[4]
  • 2025年4月の特集記事:米国の消費者物価指数(CPI)で実質化した月次(最終観測2024年12月)[5]
深掘りメモ|物差しの違い

年次のPink SheetはMUVで実質化し、2025年4月の特集は米国CPIで月次を実質化する[4][5]。同じ「実質」という言葉でも基準が異なるため、年次の実質値と月次の実質値を直接比べることはできない。

1975年の霜害から1977年4月の頂点まで

ブラジルの霜害と実質価格の上昇

世界銀行は2025年4月の特集記事で、最も顕著な急騰は1975年から1977年のあいだに起きたとし、ブラジルの深刻な霜害が実質のコーヒー価格を3倍に押し上げ、1977年4月に歴史的な頂点に達したと記している[5]。この記述は、米国CPIを基準に月次を実質化した系列に基づくものであり、前の章で見た年次のPink Sheetの実質値とは別の集計である点を踏まえて読む必要がある。

Other Milds指標とICO複合指標

Akiyama and Varangis(1990年)は、1975年にブラジルで深刻な霜害が発生し、ICA(国際コーヒー協定)のOther Milds指標が1977年4月に317.68米セント/ポンドの頂点に達したと報告している[6]。この指標は、中央アメリカの主要な水洗式アラビカの、ニューヨーク(75%)とブレーメン・ハンブルク(25%)での加重平均である[6]。一方、ICOの2025年1月号が挙げる複合指標の1977年4月の月平均は314.96米セント/ポンドで、Other Milds指標が頂点を付けたのと同じ月にあたる[2][6]。

霜害から頂点までの時間差

霜害が起きたのは1975年、Other Milds指標と世界銀行の実質の月次系列が頂点を付けたのは1977年4月で、同じ年ではない[5][6]。霜害から頂点までに、年をまたぐ間があったことになる。価格を動かしてきた出来事の年表は、世界のコーヒー統計にまとめている。

結論

名目と実質で並べる2025年と1977年 2025年と1977年の比較を、名目・実質の年次・実質の月次の3行に分けた表。名目はICO複合指標の月平均(米セント/ポンド)で2025年2月と1977年3月・4月・5月を比べる。実質の年次はMUV基準のアラビカで2025年7.29ドル/kg、1977年11.30ドル/kg。実質の月次は米国CPI基準で2024年12月までの系列で、2025年2月と比べた値は得られない。 Fig. Table 名目と実質で並べる2025年と1977年 「史上最高値」は、何と何を比べているかを4点で確認する。 価格の種類 指標・物差し 単位・集計 2025年と1977年 名目 ICO複合指標(I-CIP) 米セント/ポンド・月平均 2025年2月と 1977年(3月・4月・5月) 実質・年次 MUV基準、アラビカ (年次のPink Sheet) ドル/kg・年平均 7.29ドル/kg(2025年) 11.30ドル/kg(1977年) 実質・月次 米国CPI基準 (特集の月次系列) 2024年12月まで 歴史的な頂点=1977年4月 2025年2月と比べた値は得られない 本文「結論」。名目は月平均、実質・年次は年平均で、単位も物差しも行ごとに違う。 出典: ICO月報/World Bank Pink Sheet/World Bank Commodity Markets Outlook, April 2025 図解:coffee-pick.com

「史上最高値」を読むときの確認点

「史上最高値」という表現に出会ったときは、何と何を比べているかを以下の4点で確認する必要がある。いずれも、本記事で見た2025年と1977年の違いがそのまま当てはまる論点である。

  • 名目価格か、実質価格か
  • 月平均か、年平均か
  • ICOの複合指標か、Other Milds指標か
  • 実質化の物差しはMUVか、米国CPIか
確認点2025年の記録1977年の比較値
価格の種類名目(月平均)名目(月平均)
指標ICO複合指標(I-CIP)ICO複合指標/Other Milds指標
単位米セント/ポンド米セント/ポンド
実質・年次(MUV基準、アラビカ)7.29ドル/kg(2025年)11.30ドル/kg(1977年)

比較の射程

本記事で比べたのは、2025年2月の名目月平均と1977年(3月・4月・5月)の名目月平均、そして2025年と1977年という2つの年の実質年平均の2点だけである。世界銀行が歴史的な頂点を1977年4月と書くのは、2024年12月までの月次・米国CPI基準の系列における記述であり、その条件とセットで読む必要がある[5]。年次のPink Sheetは年平均、特集の月次系列は2024年12月までなので、2025年2月という月を実質で1977年4月と比べた値は、この2つの資料からは得られない[4][5]。価格の急騰を生んだ要因の一覧や、1975年以降の年表は別記事に譲り、本記事は名目と実質という2つの軸で2025年と1977年を並べる作業にとどめている。読者がこの先コーヒーの価格に関する「史上最高値」という見出しに出会ったときは、名目か実質か、月平均か年平均か、どの指標か、実質なら何で物価を調整したかの4点を確かめたい。

参考文献

  1. ICO|Coffee Market Report – February 2025
    https://www.ico.org/documents/cy2024-25/cmr-0225-e.pdf
  2. ICO|Coffee Market Report – January 2025
    https://www.ico.org/documents/cy2024-25/cmr-0125-e.pdf
  3. ICO|Coffee Market Report – November 2024
    https://www.ico.org/documents/cy2024-25/cmr-1124-e.pdf
  4. World Bank|Commodity Price Data (The Pink Sheet) annual prices, 1960 to present
    https://thedocs.worldbank.org/en/doc/74e8be41ceb20fa0da750cda2f6b9e4e-0050012026/related/CMO-Historical-Data-Annual.xlsx
  5. World Bank|Commodity Markets Outlook, April 2025
    https://thedocs.worldbank.org/en/doc/1b388949805c9a0ae3736bdacb32ea94-0050012025/original/CMO-April-2025.pdf
  6. Akiyama, T. & Varangis, P. N.「The Impact of the International Coffee Agreement on Producing Countries」The World Bank Economic Review 4(2):157–173, 1990
    https://doi.org/10.1093/wber/4.2.157

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

目次