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コーヒーの容器に「効く」と書けない理由|規約と法律が重なる場所

コーヒーの容器に「効く」と書けない理由|規約と法律が重なる場所

コーヒーの容器に「効く」と書けないのは、公正競争規約が病気の予防等について効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示を禁じ[1]、健康増進法第65条が著しく事実に相違する表示を禁じているためである[2]。規約は「おそれ」で手前から止め、健康増進法は「著しく」で後ろから止める、高さの違う規制が重なっている。さらに、病気の予防・治療に効くといった医薬品的な効果効能は、明らかに食品と認識される物を除き、原則として医薬品医療機器等法の承認なしには表示できない[4]。

この記事の結論
  • 容器に「効く」と書けないのは、公正競争規約と健康増進法第65条が重なって規制しているためである。
  • 規約は「誤認されるおそれ」で止め、健康増進法第65条は「著しく」で止める、基準の高さが異なる。病気の予防・治療をうたう医薬品的な効果効能は、明らかに食品と認識される物を除き、原則として医薬品医療機器等法の承認がなければ、著しさを問わず表示できない。
  • 効能表示の有無で判断せず、精製方法や焙煎度、産地などの情報を基準に選ぶと判断しやすくなる。
目次

商品の側には、健康の言葉がほとんど書かれていない

パッケージや商品ページを見比べて気づくこと

ハンドドリップを始めて1年から3年ほど経つと、豆袋やオンラインショップの商品ページを見比べる機会が増えてくる。生産国や品種、精製方法(ナチュラル、ウォッシュト、ハニープロセスなど)、焙煎度、想定される香味の説明はどの商品にも書かれているが、「飲むと健康になる」「病気の予防に効く」といった文言はほとんど見当たらない。フルーティーな酸味やナッツを思わせる甘さ、チョコレートのようなコクといった味の輪郭は具体的に語られる一方で、体への効果については驚くほど言葉が少ない。この非対称に気づいた読み手は、企業が健康の話題を単に避けているだけなのか、それとも書けない事情があるのか、という疑問を持つことになる。

「おいしさ」の言葉は多く、「効能」の言葉は少ない

実際には、書けない事情のほうに近い。缶やペットボトルなど容器に密封したコーヒー飲料等の表示については公正競争規約という業界の自主規制があり、そこに医薬品的な効能を思わせる表示を禁じる条項が置かれている[1]。豆や粉のコーヒーはこの規約の対象ではなく、別の「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」の対象になる[5]。加えて、食品全般を対象にした健康増進法や景品表示法という法律も、表示の誇大さについて別の角度から網をかけている。容器やパッケージに効能の言葉が少ないのは、味や香りより健康の話題が軽視されているからではなく、表示できる範囲が規約と法律によって具体的に絞られているからだと考えるほうが実情に近い。次の章では、その絞り方を条文の言葉づかいから確認する。

公正競争規約が禁じる「病気の予防等の効能表示」

全国コーヒー飲料公正取引協議会という枠組み

コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約は、事業者とこの規約に参加する事業者団体で構成される全国コーヒー飲料公正取引協議会を設置し、規約の目的を達成するための運用をこの協議会に委ねている[1]。事業者には製造ロットごとの原材料使用量や製品数量を記録した台帳を工場に備え付ける義務もあり、表示の裏づけを後から確認できる体制が想定されている[1]。この協議会という受け皿があることで、コーヒー飲料の表示ルールは行政とは別に、業界内部での自主的な監視としても機能する仕組みになっている。

規約が挙げる禁止表示の一覧

規約は、コーヒー飲料等の取引において誤認を招く表示を具体的に列挙している。主なものは次のとおりである[1]。

  • 成分又は原材料について、実際のものより優良であると誤認されるおそれがある表示
  • コーヒー飲料等が病気の予防等について、効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示
  • 客観的な根拠に基づかないで、特選、高級等の文言を用いることにより、当該商品が特に優良であるかのように誤認されるおそれがある表示
  • 原産国について誤認されるおそれがある表示
  • 他の事業者のコーヒー飲料等を中傷し、又は誹謗するような表示

このなかの「病気の予防等について、効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示」が、容器に「効く」と書けない直接の根拠になっている条項である[1]。

「誤認されるおそれ」という基準の位置

この条項が使う言葉は「効能又は効果がある」ではなく「効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある」という表現である。実際に病気が予防できるかどうかを規約自体は判定しておらず、読み手が誤解する可能性がある表示そのものを対象にしている。可能性の段階で止める基準であるため、表示する側が「本当に効くとは言っていない」と反論しても、誤認されるおそれがあると判断されれば規約に触れる。この「おそれ」という言葉の位置が、後の章で法律側の「著しく」と対比する軸になる。

深掘りメモ|規約の「おそれ」基準

規約が挙げる禁止表示は、実際に誤認が生じたことを要件とせず、誤認される可能性がある段階で表示を控えるよう求める枠組みである。行政による是正よりも手前の段階で、事業者間の自主規制として機能する位置づけになっている。

施行規則が示す「医薬品的な効能表示」の例

健康・美容・栄養・滋養等の文字が挙げられている理由

施行規則は、規約が定める禁止表示をさらに具体的な文言に落とし込んでいる。その一つが「健康、美容、栄養、滋養等の文字を使用して医薬品的な効能を示す表示」である[1]。病気の治癒を直接うたわなくても、「健康」「美容」「滋養」といった言葉を医薬品のような効能の文脈で使えば、規約が禁じる誤認表示に該当し得るという線引きである。これは、遠回しな表現で効能を示唆する手口をあらかじめ塞ぐための具体化だと理解できる。

隣接する禁止例——ベスト・極上・濃厚・本格・天然・純粋

施行規則には、医薬品的な効能表示のほかにも、客観的な根拠のない優良表示を防ぐための例示が並んでいる[1]。

  • ベスト、極上、最高級等の表示
  • 濃厚等の表示
  • ストロングの表示
  • 本格コーヒー、本格派の味、本場等の表示
  • 客観的根拠に基づかない天然、自然、生、新鮮、フレッシュ等の表示
  • 純、純粋、純良、ピュアー等の表示

これらは効能の話ではなく品質や産地イメージの誇張を対象にしており、健康・美容・栄養・滋養等の文字とは並びながらも狙いが異なる。

「医薬品的な効能」という線引き

品質表現の誇張と医薬品的な効能表示が同じ施行規則に並んでいる事実は、規約が「優良さの誇張」全体を一つの体系で扱っていることを表している。健康・美容・栄養・滋養の文字は、味や品質の誇張よりも一段重く扱われているわけではなく、誤認されるおそれがある表示という同じ土台の上に位置づけられている。容器の言葉選びを考えるときは、味の誇張表現を避ける発想の延長として、効能をにおわせる言葉も同様に扱う必要がある。

規約の外側にある二つの法律——健康増進法と景品表示法

健康増進法が動く順序 健康増進法第65条が禁じる誇大表示から第66条の勧告等に至る順序を4段階で示す。食品の表示が著しく事実に相違するなどし、重大な影響を与えるおそれがあると認めるときに、内閣総理大臣又は都道府県知事が勧告等を行うことができる。 Fig. Flow 健康増進法が動く順序 第65条の禁止から第66条の勧告等へ 表示 1 食品として販売 広告その他の 表示をする際 第65条 2 誇大表示の禁止 著しく事実に相違 又は著しく人を 誤認させる表示 違反の判断 3 認めるとき 健康の保持増進と 正確な情報の伝達に 重大な影響のおそれ 第66条 4 勧告等 内閣総理大臣又は 都道府県知事が 行うことができる 本文「規約の外側にある二つの法律」。コーヒーという商品名は条文に出てこない。 出典: 健康増進法(平成14年法律第103号) 図解:coffee-pick.com

健康増進法第65条の誇大表示禁止

規約が業界の自主規制であるのに対し、健康増進法は食品全般を対象にした法律である。第65条は、食品として販売する物に関して広告その他の表示をする際、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならないと定めている[2]。コーヒーという商品名は条文に出てこないが、食品として販売される以上、この条項の対象から外れるわけではない。

健康増進法第66条の勧告という手当て

第65条に違反する表示があった場合、内閣総理大臣又は都道府県知事は、国民の健康の保持増進及び国民に対する正確な情報の伝達に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときに、表示をした者に対して勧告等を行うことができる[2]。規約の運用が協議会という業界内部の枠組みであるのに対し、この条項は行政が動く場面を想定している。表示の是正を求める主体が事業者団体から行政に移る点が、規約と法律の実質的な違いになる。

景品表示法が禁じる優良誤認表示

健康増進法とは別に、景品表示法(景表法)も表示の適正さに関わる法律であり、消費者庁が所管している[3]。消費者庁は事業者向けの解説資料として、景品表示法と各業界の公正競争規約の関係を整理した資料を公開しており、そのなかに「よくわかる景品表示法と公正競争規約」という資料がある[3]。景表法は商品の内容が実際よりも優れていると示す誇張表示を対象にする法律で、公正競争規約はこの景表法の枠組みのもとで業界が定める自主規制の一種として位置づけられている。

切る位置が違う——規約は手前から、法律は後ろから

「おそれ」が指す手前の基準

ここまでの内容を整理すると、規約と法律は同じ「誇張された表示」を扱っていても、どこで線を引くかが異なる。規約が使う言葉は「誤認されるおそれがある表示」であり、実際に誤認が生じたかどうかを問わず、可能性がある段階で表示自体を対象にする[1]。これは事業者が表示を作る手前の段階で、自分自身を止めるための基準に近い。表示を出す前に立ち止まって考える対象になっている点が、規約側の特徴である。

「著しく」が指す後ろの基準

一方、健康増進法第65条が使う言葉は「著しく事実に相違する表示」「著しく人を誤認させるような表示」である[2]。「著しく」という言葉は、多少の誇張ではなく程度が大きい誇張だけを対象にすることを意味する。行政が動くのは、表示が出たあとに実害の大きさを判断できる段階であり、規約よりも後ろの位置に基準が置かれている。同じ「効能」という言葉であっても、規約側の基準に触れる場面と、法律側の基準に触れる場面は、検討する時点そのものが異なる。ただし、「著しく」の基準で動くのは健康増進法第65条の範囲である。消費者庁の留意事項は、疾病の治療又は予防を目的とする効果のような医薬品的な効果効能を標ぼうするものは医薬品医療機器等法上の医薬品とみなされ、野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物を除き、原則として承認を受けずに効能・効果に関する広告をしてはならない(同法第68条)とし、こうした表示は著しく事実に相違するか、著しく人を誤認させるかを問わず、医薬品としての承認を受けない限り表示できないとしている[4]。

表で並べる

規約と二つの法律を並べると、基準の高さと手当ての主体が次のように整理できる。

枠組み対象にする表示判断の基準となる言葉手当ての主体
コーヒー飲料等の公正競争規約病気の予防等について効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示[1]誤認される「おそれ」があること[1]全国コーヒー飲料公正取引協議会[1]
健康増進法第65条健康の保持増進の効果等について著しく事実に相違する表示、著しく人を誤認させる表示[2]事実との相違又は誤認が「著しい」こと[2]内閣総理大臣又は都道府県知事による勧告等[2]
景品表示法商品の内容が実際のものより優良であると示す誇張表示優良さの誇張が「著しい」こと消費者庁[3]

同じ「効能」という言葉を書くかどうかを迷う場面でも、規約に触れる可能性を検討する段階と、法律に触れる可能性を検討する段階は、実は異なる高さの基準で動いている。

深掘りメモ|二段構えの意味

規約が可能性の段階で止め、健康増進法が実害の大きさで止めるという二段構えは、事業者にとって規約の基準をあらかじめ満たしておけば健康増進法第65条の基準にも触れにくくなる、という実務上の安全余地を生む関係になっている。ただし医薬品的な効果効能の表示には、前述のとおり、明らかに食品と認識される物を除き、著しさを問わず医薬品医療機器等法の規制がかかる[4]。表示を作る側は、まず手前の基準を通ることを目安にできる。

結論

効果があるかどうかと、書いてよいかどうかは別問題

この記事が扱ったのは表示の話だけである

本記事が扱ったのは、容器やパッケージに何を書けるかという表示の制度であり、コーヒーを飲むことが体にどう影響するかという話ではない。規約が禁じているのは「効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示」そのものであって、コーヒーに関する研究の是非を判定するものではない[1]。表示できるかどうかと、効果があるかどうかは、制度上まったく別の問いとして扱われている。

健康影響そのものを知りたいときの行き先

コーヒーの健康影響そのものについて知りたい場合は、コーヒーと健康効果に関する記事の領分になる。本記事はあくまで、容器に書かれる言葉が規約と法律のどちら側の基準に触れるかを整理する立場を取っている。本記事は一般的な知見の整理であり個別の医療アドバイスではないため、体調や既往症について気になる点がある場合は、医師や管理栄養士など専門家に相談することが望ましい。

カフェインの生理作用を知りたいときの行き先

カフェインそのものの生理作用について詳しく知りたい場合は、カフェインの科学を扱う記事の領分になる。本記事で条文を確認した限りでは、規約も法律も特定の成分名を挙げて効能を判定しているわけではなく、表示の言葉づかいそのものを問題にしている。効能を測る話と、表示のルールを読む話は、扱う資料も判断の主体も違う。

読み手にできる次の一歩

容器の言葉に「効く」がほとんど出てこない理由を知ったあとにできることは、商品ページの表現を効能の有無で判断するのではなく、精製方法や焙煎度、産地といった、規約上も表示しやすい情報から選ぶ視点を持つことである。効能を暗示する言葉が少ない商品を「健康に良くない」と受け取る必要はなく、表示のルールが効能表示を狭く絞っているだけだと理解しておくと、パッケージの読み方が変わってくる。「コーヒーと体」カテゴリでは、表示制度以外の観点からコーヒーと健康の関係を扱っている。効能表示に限らず、この規約が表示の何を縛り何を縛らないのかという全体像は、コーヒーの銘柄名は「どこで採れたか」で決まっているで整理している。

参考文献

  1. コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び同施行規則
    https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b03_H_cancoffee.pdf
  2. 健康増進法(平成14年法律第103号)/e-Gov法令検索
    https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103
  3. 消費者庁「景品表示法」(関係法令等・解説資料の一覧)
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/
  4. 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(令和4年12月5日一部改定)
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms213_241001_01.pdf
  5. レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約及び同施行規則(令和6年10月1日施行)
    https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b05_H_coffee.pdf

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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