スペシャルティコーヒーショップで豆袋を手に取ると、「ケニアAA」「エチオピアG1」「コロンビア・スプレモ」といった表記が並んでいる。これらは生豆の格付けを示す等級だが、国ごとに基準が異なり、同じ「AA」でも国が変われば意味が変わる。生豆格付けの仕組みを分類軸ごとに整理し、各国の表記を正確に読み解く方法を示す。
格付けの3つの軸
生豆の等級は、大きく分けて標高、豆のサイズ(スクリーンサイズ)、欠点数の3つの基準で決まる。国によって重視する軸が異なり、中米諸国は標高を、アフリカ東部はサイズと欠点数を、インドネシアは欠点数を主軸に据える傾向がある。
標高による格付け
グアテマラ、コスタリカ、ホンジュラスなど中米諸国では、栽培標高が高いほど上位等級とする。標高が高いほど昼夜の寒暖差が大きくなり、豆の成熟が緩やかに進むため、密度が高く酸味の明瞭なコーヒーになりやすい。グアテマラでは1350メートル以上を「SHB(Strictly Hard Bean)」、1200〜1350メートルを「HB(Hard Bean)」と呼ぶ。コスタリカでは1200メートル以上が「SHB」、1050〜1200メートルが「GHB(Good Hard Bean)」となる。
スクリーンサイズによる格付け
ケニア、タンザニア、コロンビアなどは、豆の大きさを基準に等級を定める。スクリーンサイズとは、豆を篩(ふるい)にかけて選別する際の目の大きさを示す数値で、1/64インチ刻みで表記される。たとえばスクリーン18は18/64インチ(約7.1ミリ)の目を通過しない豆を指す。ケニアでは大きい順にAA(スクリーン18以上)、AB(スクリーン15〜17)、C(スクリーン14以下)と分類し、コロンビアでは17以上を「スプレモ」、14〜16.5を「エクセルソ」と呼ぶ。
欠点数による格付け
エチオピア、インドネシア、ブラジルでは、生豆300グラム中の欠点豆の数を基準にする。欠点豆には、虫食い、カビ、未熟豆、貝殻豆(内部が空洞)などが含まれ、種類ごとに欠点数が定められている。エチオピアでは欠点数が0〜3個を「G1(Grade 1)」、4〜12個を「G2」とし、数字が小さいほど高品質とされる。ブラジルでは欠点数とカップ評価を組み合わせ、「No.2」が最高等級となる(No.1は存在しない)。
同じ産地でも等級が異なると焙煎中の膨らみ方や色づきの均一性が変わる。欠点豆が多いロットは焙煎後のハンドピックに時間がかかり、最終的なコストにも影響する。等級表記は生産者の選別努力を可視化する指標でもある。
スクリーンサイズの仕組み
スクリーンサイズは、生豆を円形または長方形の穴が開いた金属製の篩にかけ、通過しない豆のサイズを数値で表す[1]。数値は1/64インチ単位で、スクリーン14は14/64インチ(約5.6ミリ)、スクリーン18は18/64インチ(約7.1ミリ)を意味する。
サイズ分布と選別工程
生豆は同一ロット内でもサイズにばらつきがあり、収穫後の精製工程で複数回篩にかけられる。一般的な選別工程では、まず大きな異物を除去し、次にスクリーン18、17、16…と段階的に篩を通して豆を分ける。各サイズごとに袋詰めされ、大きいものほど高値で取引される傾向がある。
| スクリーンサイズ | インチ(1/64) | ミリメートル | 該当等級例 |
|---|---|---|---|
| 20 | 20/64 | 約7.9 | ケニアAA(一部) |
| 18 | 18/64 | 約7.1 | ケニアAA、タンザニアAA |
| 17 | 17/64 | 約6.7 | コロンビア・スプレモ |
| 16 | 16/64 | 約6.3 | コロンビア・エクセルソ |
| 15 | 15/64 | 約5.9 | ケニアAB |
| 14 | 14/64 | 約5.6 | ケニアC、ブラジルNo.2 |
サイズと密度の関係
大きな豆ほど密度が高く品質が良いとは限らない。品種によって豆の形状は異なり、ゲイシャ種は細長く、ティピカ種は丸みを帯びる。同じスクリーン17でも、品種や精製方法によって密度や水分含有率は変わる。ナチュラル精製(果肉を残したまま乾燥)した豆は、ウォッシュト精製(果肉を除去してから乾燥)より若干大きくなる傾向がある。
豆のサイズが揃っていると、抽出時の粉の粒度分布も均一になり、安定した味を引き出しやすい。逆にサイズがばらつくと、微粉が多く出たり、抽出ムラが生じたりする。ハンドドリップでは、等級表記を参考に粒度の揃ったロットを選ぶことが再現性向上につながる。
国別の等級表記
生豆の格付けは国ごとに独自の基準を持ち、同じアルファベットでも意味が異なる。ここでは主要産地の表記を整理する。
ケニア
ケニアはスクリーンサイズと欠点数を組み合わせて格付けする。最上位はAAで、スクリーン18以上かつ欠点数が少ないロットが該当する。ABはスクリーン15〜17、Cは14以下、PB(ピーベリー)は丸豆(通常は2粒入りのところ1粒だけ成長した豆)を指す。さらに欠点数による細分化があり、「AA Top」「AA Plus」といった表記も存在する。
エチオピア
エチオピアは欠点数のみで等級を決める。G1は欠点数0〜3個、G2は4〜12個、G3は13〜25個となる。エチオピアは在来種(エアルーム品種)が多く、品種名を特定せず「エチオピア在来種」と表記されることが多い。近年はスペシャルティコーヒー市場の拡大により、G1表記のロットが増加している。
コロンビア
コロンビアはスクリーンサイズで格付けし、スプレモ(Supremo)がスクリーン17以上、エクセルソ(Excelso)が14〜16.5となる。コロンビアでは標高による等級は公式には存在しないが、輸出業者が独自に「High Grown」などの表記を追加することがある。
グアテマラ
グアテマラは標高を主軸とし、以下の7段階に分かれる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| SHB(Strictly Hard Bean) | 1350メートル以上 |
| HB(Hard Bean) | 1200〜1350メートル |
| SH(Semi Hard Bean) | 1050〜1200メートル |
| EPW(Extra Prime Washed) | 900〜1050メートル |
| PW(Prime Washed) | 750〜900メートル |
| EGW(Extra Good Washed) | 600〜750メートル |
| GW(Good Washed) | 600メートル以下 |
スペシャルティコーヒー市場ではSHBが主流だが、地域によっては1200メートル以下でも優れたテロワール(産地固有の風土)を持つロットが存在する。
ブラジル
ブラジルは欠点数とカップ評価を組み合わせ、No.2が最高等級となる。No.1は規定上存在せず、No.2の欠点数は300グラム中4個以下、カップ評価で「Soft」(柔らかく滑らかな味)を満たす必要がある。No.3以降は欠点数が増え、風味も粗くなる傾向がある。
ブラジルNo.2は安定供給が可能で、ブレンドのベースに使いやすい。一方、ケニアAAやエチオピアG1は個性が強く、シングルオリジンとして提供する際に選ばれる。等級表記は仕入れ時の品質予測に役立つが、最終的にはカッピング(風味評価)で確認する。
等級と品質の関係
等級が高いほど高品質とは限らない。等級は物理的な基準(サイズ、欠点数、標高)で決まるが、味の良さは品種、精製方法、収穫時期、保管状態など複数の要素に左右される。
サイズと味の相関
大粒の豆は見栄えが良く、市場で高値がつきやすいが、味の優劣とは直接結びつかない。ケニアではABよりAAの方が高価だが、カッピングスコアではABが上回ることもある。ピーベリー(PB)は丸い形状から均一に焙煎しやすいとされるが、風味の複雑さではAAに劣る場合もある。
欠点数と風味
欠点豆が多いと、焙煎後に焦げ臭や土臭が混じり、クリーンカップ(雑味のない透明感)が損なわれる。エチオピアG1とG2を飲み比べると、G1の方が明るい酸味と花のような香りが際立つことが多い。ただし、欠点数が少なくても保管中にカビが発生したり、精製時の発酵が過度に進んだりすれば風味は劣化する。
標高と密度
高地栽培の豆は密度が高く、焙煎時に熱が内部まで伝わりやすいため、酸味の立体感や甘みの持続性が生まれやすい。しかし、標高が低くても火山性土壌や適切な日照条件があれば、優れたテロワールを持つロットが生まれる。グアテマラのアンティグア地域は標高1500メートル前後だが、火山灰土壌と朝霧の影響で複雑な風味を持つ。
等級表記は品質の下限を保証する指標として有効だが、上限を示すものではない。スペシャルティコーヒーではSCAスコア(80点以上)やカッピングノートの方が味の予測に役立つ。等級はあくまで選別の結果であり、味の良さは別の情報源で補完する必要がある。
表記の限界と補完情報
等級表記だけでは、コーヒーの味や個性を完全に予測できない。実際の購入判断には、以下の情報を組み合わせる。
カッピングスコアとフレーバーノート
スペシャルティコーヒー協会(SCA)は、香り、酸味、甘み、ボディ、後味など10項目を100点満点で評価する[1]。80点以上がスペシャルティコーヒーの基準とされ、85点以上は「エクセレント」、90点以上は「アウトスタンディング」と呼ばれる。カッピングノートには「ベリー系の酸味」「キャラメルの甘み」「紅茶のような後味」など具体的な風味が記載され、等級表記より味の予測に直結する。
精製方法と品種
同じケニアAAでも、ウォッシュト精製とナチュラル精製では風味が大きく異なる[2]。ウォッシュトは明るい酸味とクリーンな後味、ナチュラルは果実感と甘みが強調される。品種も重要で、ゲイシャ種はジャスミンのような香りと柑橘系の酸味、ティピカ種は穏やかな甘みとナッツ感が特徴となる。
ロット情報とトレーサビリティ
スペシャルティコーヒーでは、農園名、区画、収穫年月、精製所まで追跡可能なロット情報が提供される。同じ農園でも区画ごとに標高や日照条件が異なり、味に差が出る。エチオピアのイルガチェフェ地域では、ウォッシングステーション(精製所)ごとに風味プロファイルが異なり、「コチェレ」「アリーチャ」など固有名詞で呼ばれる。
| 補完情報 | 記載例 | 予測できる要素 |
|---|---|---|
| SCAスコア | 86点 | 総合品質、欠点の有無 |
| カッピングノート | ブラックベリー、ダークチョコレート | 風味の方向性 |
| 精製方法 | ウォッシュト | 酸味の明瞭さ、クリーンカップ |
| 品種 | ゲイシャ | 香りの特徴、ボディの軽さ |
| 農園名・区画 | ファンカ・エル・インヘルト、ラ・ボルサ区画 | テロワール、生産者の技術 |
等級表記は仕入れ時の第一次フィルターとして機能するが、最終的には自社でカッピングして採用を決める。同じエチオピアG1でも、精製所や収穫時期が違えば全く別の味になる。等級は必要条件であり、十分条件ではない。
原理を踏まえた選び方
等級表記の仕組みを理解すれば、豆袋の情報から品質の傾向を推測し、自分の好みに合ったコーヒーを選びやすくなる。
等級表記つき生豆の選び方
自家焙煎に挑戦する場合、等級表記は豆の均一性を判断する手がかりとなる。ケニアAAやコロンビア・スプレモは粒が揃っているため、焙煎初心者でも火の通りムラが少なく、失敗しにくい。エチオピアG1は欠点豆が少なく、焙煎後のハンドピック作業が軽減される。逆に、ブラジルNo.3以下やエチオピアG3は欠点豆が混じりやすく、焙煎後に手作業で取り除く手間が増える。
等級表記つき焙煎豆の選び方
ロースターが提供する焙煎豆には、等級表記に加えて焙煎度合い(浅煎り、中煎り、深煎り)や抽出推奨方法が記載されることが多い。ケニアAAやエチオピアG1は浅煎り〜中煎りでハンドドリップすると、酸味と香りが際立つ。コロンビア・スプレモは中煎り〜中深煎りでバランスが取れ、エスプレッソにも向く。グアテマラSHBは深煎りにするとチョコレートやナッツの風味が強調され、フレンチプレスで抽出すると重厚なボディが楽しめる。
等級表記を過信せず、ロースターのカッピングコメントや焙煎日を併せて確認する。鮮度が落ちれば、どれだけ高等級でも風味は劣化する。等級は品質の出発点であり、最終的な味は焙煎と抽出で決まる。
コーヒー豆そのものの選び方や産地・品種の全体像は、コーヒー豆を知る完全ガイドで体系的に整理しています。
本文で触れた「ピーベリー」「フレーバーノート」といった用語の意味は、コーヒー用語事典で引き直せます。
結論
生豆の格付けは、標高・スクリーンサイズ・欠点数という3つの軸を国ごとに組み合わせて決まる。ケニアAAはスクリーン18以上、エチオピアG1は欠点数0〜3個、グアテマラSHBは標高1350メートル以上を意味するが、これらはあくまで物理的な選別基準であり、味の良さを直接保証するものではない。サイズが大きくても風味が平坦なロットは存在し、欠点数が少なくても保管状態が悪ければ品質は劣化する。等級表記は品質の下限を示す指標として有効だが、実際の購入判断にはSCAスコア、カッピングノート、精製方法、品種、ロット情報を組み合わせる必要がある。
私自身、焙煎を始めた当初は等級表記を過信し、ケニアAAを選べば間違いないと考えていた。しかし、同じAAでも収穫年や精製所が違えば全く別の味になることを知り、等級はあくまで選別の結果であると理解した。読者には、等級表記を手がかりに豆を絞り込み、最終的にはロースターのカッピングコメントや自分の抽出経験で判断することを勧める。次のステップとして、産地別の精製方法や品種の違いを学べば、等級表記を超えた深い選択が可能になる。
参考文献
- Specialty Coffee Association「Coffee Standards」(生豆等級・欠点分類・カッピングプロトコル)
https://sca.coffee/research/coffee-standards - Várády, M.; Boržíková, J.; Popelka, P. (2024)「Effect of processing method (natural, washed, honey, fermentation, maceration) on the availability of heavy metals in specialty coffee」, Heliyon, 10(3), e25563
https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e25563
