Qグレーダーの資格は、2025年10月1日からSCA(Specialty Coffee Association)が運営し、評価の様式も2004年のカッピングフォームからCVA(Coffee Value Assessment)に替わった[3][5]。それまで認定を担ってきたCQI(Coffee Quality Institute)は、SCAの発表によれば、同日以降このプログラムの運営に関わらない[3]。
この記事は「コーヒーの味は何で決まる?酸味・苦味・甘味・コク・香りの成分科学」の各論です。
年表で見る変遷の全体像
①〜⑤、起きた順に並べる
Qグレーダーという名前の資格は、2024年から2025年にかけて次の5つの出来事を経て、運営する団体と評価の様式の両方が入れ替わった。それぞれは発表された時点の内容を記録したものであり、後の出来事の原因や結果として書かれているわけではない。
- ①2024年11月:SCAが、CVAの3つの構成要素を公式のカッピング規格として採用すると発表した[1]。
- ②2024年12月12日:CQIがFAQを公開し、Qグレーダー認定への影響はないと説明した[2]。
- ③2025年4月:SCAが共同の発表で運営移行を告知し、CQIも産地支援のための助成合意を発表した[3][4]。
- ④2025年10月1日:SCAが、更新されたプログラムとしてQグレーダーのコースを開講したと発表した[5]。
- ⑤いまのSCAの案内ページ:Qグレーダーのライセンスは「Issued by the Specialty Coffee Association (SCA)」と記されている[6]。
ここで並べたのは、起きた順である。
10月1日に移ったのは「運営」という主語
2025年4月のSCAの発表には、「The partnership will evolve the content of the Q Grader Program and transition its management.」(訳:このパートナーシップは、Qグレーダー・プログラムの内容を発展させ、その運営を移行させる)とある[3]。続けて「As of October 1, 2025, the SCA will be operating an evolved Q Grader program based on the Coffee Value Assessment (CVA), and CQI will no longer be involved in the operations of the Q Grader Program.」(訳:2025年10月1日時点で、SCAはCVAに基づく発展したQグレーダー・プログラムを運営し、CQIはQグレーダー・プログラムの運営にはもう関わらない)と記されている[3]。ここで主語になっているのは「運営(operations/management)」であって、資格そのものが丸ごと引っ越したとは書かれていない。「資格がCQIからSCAへ移った」「発行元が10月1日に替わった」と運営という主語を落として書くと、原文が示す範囲を超えることになる。
SCAの発表文が2025年10月1日付の変更として書いているのは、プログラムの「management」の移行と、CQIが「operations」に関わらなくなることである[3]。この違いは、同じ「Qグレーダー」という名前が指すものを時期によって読み分けるときの手がかりになる。
2024年:CVAの採用とCQIの説明
①2024年11月、SCAがCVAを公式のカッピング規格に採用
SCAは2024年11月の発表で、CVA(Coffee Value Assessment、コーヒーの価値評価)を構成する3つの要素、SCA-102 Sample Preparation and Cupping Mechanics、SCA-103 Descriptive Assessment、SCA-104 Affective Assessmentを公式のカッピング規格として採用したと述べた[1]。原文は「the Specialty Coffee Association (SCA) is proud to announce the adoption of three Coffee Value Assessment components as its official cupping standards: SCA-102 Sample Preparation and Cupping Mechanics, SCA-103 Descriptive Assessment, and SCA-104 Affective Assessment.」である[1](訳:SCAは、CVAを構成する3つの要素であるSCA-102 試料調製とカッピングの手順、SCA-103 記述による評価、SCA-104 感性による評価を、公式のカッピング規格として採用したことを発表する)。
この発表はさらに、これらの規格が「the 2004 Cupping Protocol and Form」(2004年のカッピング・プロトコルとフォーム)に取って代わる(supersede)と述べている[1]。CVA自体は2023年に導入されたとSCAは2025年4月の発表で述べており[3]、2024年11月の発表は、CVAの3つの構成要素を公式のカッピング規格として採用した時点を指す。2024年はCVAができた年ではなく、規格として採用された年である。
②2024年12月12日、CQIのFAQが示した当時の説明
CVAが公式カッピング規格として採用された直後の2024年12月12日、CQIは「FAQs Regarding Q Grader Certification」という文書を公開した[2]。この文書の時点でのCQIの説明は次のとおりである。
- 項目2:「This has no impact on your Q Grader Certification … Coffee Quality Institute (CQI) will continue to train, test, and certify Q Graders as it has done for the past 20 years.」(訳:これはあなたのQグレーダー認定に影響しない。CQIは過去20年間続けてきたのと同様に、Qグレーダーの訓練・試験・認定を続ける)[2]
- 項目3:「CQI will continue to use the 2004 cupping form … for the foreseeable future.」(訳:CQIは当面のあいだ2004年のカッピングフォームを使い続ける)[2]
- 項目4:「We are not planning to change forms at this time.」(訳:現時点でフォームを変更する予定はない)[2]
この3項目は、2024年12月12日というその時点でのCQIの説明である。2025年4月にSCAが発表した運営移行の内容とは、同じ資格についての、時点の違う説明である。どちらかが誤りだったということではなく、それぞれの発表の時点での状態を記録したものとして読む必要がある。
CQIのFAQは2024年12月時点の見通しを述べたものであり、その後の2025年4月の発表内容を否定するものでも予告するものでもない。時点の異なる2つの発表を並べて読むときは、どちらが後に出たかだけを基準にするのが安全である。
2025年:運営移行の発表と開講
③2025年4月、SCAの発表と移行の条件
2025年4月、SCAはCQIとの共同の取り組みを発表し、「The partnership will evolve the content of the Q Grader Program and transition its management. As of October 1, 2025, the SCA will be operating an evolved Q Grader program based on the Coffee Value Assessment (CVA), and CQI will no longer be involved in the operations of the Q Grader Program.」と述べた[3]。この一文が、本記事の冒頭で示した結論の根拠になっている。
この発表には、すでにQグレーダーなどの資格を持っている人の扱いも記されている。SCA Sensory Skills Professionalの修了者と、現役または失効したQグレーダーなどの保有者は、2025年12月31日までにSCAの「CVA for Cuppers」コースを修了すれば、新しいライセンスへの移行が早くなるとされる[3]。この期限より後にどう扱われるかは、この発表の範囲では書かれていない。
CQI側の助成合意の発表
同じ2025年4月、CQIは別の発表で、SCAが教育事業の年間収入の一定割合をCQIの産地での事業に拠出する助成の合意を結んだと述べた[4]。原文は「Under the agreement, SCA will contribute a percentage of its annual education revenues to CQI to support its development work and advance its mission to improve the quality of coffee and the lives of the people who produce it.」である[4](訳:この合意のもとで、SCAは教育事業の年間収入の一定割合をCQIに拠出し、コーヒーの品質と生産者の暮らしを向上させるというCQIの取り組みを支援する)。CQIのこの発表は2025年4月26日付である[4]。
④2025年10月1日、SCAによる開講
2025年10月1日、SCAは「Today, Q Grader courses launch as part of the updated program with the Specialty Coffee Association (SCA) for the first time.」と発表した[5](訳:本日、更新されたプログラムの一部として、SCAによるQグレーダー・コースが初めて開講する)。2025年4月に予告された移行が、この日付をもって実際の開講に至ったことが示されている。
⑤いまのSCA案内ページが示す内容
現在のSCAの案内ページでは、Qグレーダーのライセンスについて次のように説明されている。「The Q Grader License is an internationally recognized credential for coffee professionals with experience in cupping and sensory analysis. Issued by the Specialty Coffee Association (SCA), the license is awarded to individuals who successfully complete the Q Grader course and all required assessments.」(訳:Qグレーダー・ライセンスは、カッピングと官能分析の経験を持つコーヒー専門家のための国際的に認知された資格である。SCAによって発行され、Qグレーダー・コースと必要な評価をすべて修了した人に授与される)[6]。
このページによれば、ライセンスは3年ごとに更新でき、更新には継続的な専門能力の開発(continued professional development)が必要とされる[6]。コースの期間は6日間で、評価は実技8つと筆記1つの合わせて9つ、ライセンスの有効期間は3年とされている[6]。なお、この案内ページは資格を「license」という語で呼んでいる[6]。
比較表|替わる前と替わった後
表|替わる前と替わった後
本文で見てきた内容を、「替わる前」と「替わった後」の2列に整理すると次のようになる。
| 項目 | 替わる前 | 替わった後 |
|---|---|---|
| 運営する団体 | CQI(2024年12月時点、過去20年間の認定実績[2]) | SCA(2025年10月1日以降、運営を担う[3][5]) |
| 評価の様式 | 2004年のカッピングフォーム(CQIが当面使用すると説明[2]) | CVA(SCA-102〜104、2024年11月に公式規格として採用[1]) |
| 発行のことば | certification(認定、CQIのFAQの表現[2]) | license(ライセンス、現在のSCA案内ページの表現[6]) |
| 根拠にした文書と日付 | CQIのFAQ、2024年12月12日[2] | SCAの案内ページ(現在)および2025年4月・10月1日の発表[3][5][6] |
表から読み取れること
この表に並べたのは、ここまでに引いた発表と案内ページに書かれている内容である。表の右列「替わった後」は、2025年10月1日以降にSCAが公表した内容を指しており、それ以前の制度が誤りだったという意味ではない。表の左列も、2024年12月というその時点でCQIが説明していた内容をそのまま記録したものである。
読み方|「いつの説明か」を確かめる
古い記事・古いプロフィールの扱い
同じ「Qグレーダー」という名前を使っていても、いつの時点の説明かによって、運営する団体と評価の様式は異なる。2025年10月1日より前に書かれたプロフィールや記事に「CQI認定」とあっても、その記述はその時点では正しい説明だったことになる[3]。CQIの公式サイトに当時の制度の説明が残っている可能性もあるので、読むときは掲載日を確かめたい。
いまの発行元を確かめる方法
現在の発行元を知りたいときに最も確実なのは、SCAの案内ページを直接確認することである[6]。このページには「Issued by the Specialty Coffee Association (SCA)」という一文があり、現時点での発行元を直接示している[6]。資格名だけで判断せず、その情報がいつ時点のものかという前提をまず確認する姿勢が、この種の制度変更を追うときには役に立つ。
同じ資格名を扱う記事やプロフィールを比較するときは、発表の日付そのものを見出しや注記として残しておくと、後から読んだ人がどちらの時点の説明かを取り違えにくくなる。発表の日付が明記されていない情報は、それだけで参照する優先度を下げてよい材料になる。
結論
変わったのは運営と様式の2つ
ここまでの出典をたどると、Qグレーダーをめぐって変わったのは、運営する団体(CQIからSCAへ)と評価の様式(2004年のカッピングフォームからCVAへ)の2点である[1][3][5][6]。資格の名前自体は「Qグレーダー」のまま続いているため、名前だけを見て制度の中身まで変わっていないと判断すると、実際の運営元や評価方法を取り違える可能性がある。
次に確認すること
Qグレーダーという名前を記事やプロフィールで見かけたときは、その情報がいつ時点のものかをまず確かめるのが確実である。受講を検討する場合は、SCAの案内ページで日程と条件を直接確認する必要がある。SCAの案内ページは、コーヒーを学び始めて間もない人に向けて、Sensory SkillsやIntroduction to Coffeeなどのコースで基礎を作ることを案内している[6]。カッピングの具体的な手順を知りたい場合はカッピングの基本的な手順を扱った記事、スペシャルティコーヒーの定義とCVAの中身についてはスペシャルティコーヒーの定義を扱った記事、香りを表す言葉についてはコーヒーのフレーバーホイールを扱った記事を参照してほしい。評価そのもののやり方には立ち入らず、運営する団体と様式がいつ切り替わったかという事実関係にとどめている。
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参考文献
- The SCA Officially Adopts CVA Descriptive and Affective Assessments as New Cupping Standards
https://sca.coffee/sca-news/sca-new-cva-cupping-standards-7ga28 - FAQs Regarding Q Grader Certification
https://www.coffeeinstitute.org/post/faqs-regarding-q-grader-certification - The Specialty Coffee Association and the Coffee Quality Institute Announce Historic Partnership to Provide Better Support and Education to the Coffee Industry
https://web.archive.org/web/20250424230933/https://sca.coffee/sca-news/2025/4/22/the-specialty-coffee-association-and-the-coffee-quality-institute-announce-historic-partnership-to-provide-better-support-and-education-to-the-coffee-industrynbsp - Coffee Quality Institute and Specialty Coffee Association announce grant agreement to support CQI projects
https://www.coffeeinstitute.org/post/coffee-quality-institute-and-specialty-coffee-association-announce-grant-agreement-to-support-cqi-projects - Q Grader Courses Now Available Across Various Regions and Languages
https://sca.coffee/sca-news/2025/10/1/q-grader-courses-now-available-across-various-regions-and-languages-zakzc - Education – Q Grader
https://sca.coffee/education/q-grader
