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エスプレッソのクレマとは|9気圧抽出が生む泡と濃さの科学

エスプレッソはなぜ濃い?9気圧抽出とクレマの科学

エスプレッソのクレマは、表面に浮かぶ赤褐色の泡の層である。泡の気体は主に、焙煎のときに生じて豆の内部に閉じ込められた二酸化炭素で、高圧の湯で抽出するときに粉から杯へ運ばれる[2]。イタリアのバールで出される1杯について、イタリアエスプレッソ協会(INEI)の認証基準は、泡を含めて25ml±2.5、水圧は9bar±1と定めている[5]。

9気圧と聞くと、高い圧力で成分を多く溶かし出しているように思える。しかし、計算と実験が示す向きは逆で、圧力を上げても成分は多く出ない。この記事では、クレマの正体、9気圧という数字の出どころ、圧力を変えると何が変わるか、エスプレッソが濃い理由、クレマの量を決める要因の順に、出典のある事実だけで整理する。

この記事の結論
  • クレマは、焙煎で豆に閉じ込められた二酸化炭素の泡である。適切にいれた1杯では、体積の1割以上を占める。
  • 9気圧は、SCAの旧来の定義(9〜10気圧)とINEIの認証基準(9bar±1)にある値である。モカポットは約1.5barで働く。
  • 圧力を上げても成分は多く出ない。モデル計算では、圧力を下げたほうが抽出率は上がる。濃さを決めるのは、粉と液の比率と挽き目である。

この記事は「コーヒーの淹れ方は4種類で整理できる|透過・浸漬・加圧・煮出しの原理マップ」の各論です。

目次

エスプレッソのクレマとは|二酸化炭素の泡

クレマは、液体の中に気体の泡が分散した「泡」である。2011年に学術誌 Food Biophysics に載った総説によれば、気体は主に、焙煎で生じて豆の細胞構造に閉じ込められた二酸化炭素である。泡を包む液は、ほとんどが直径10μm未満の微細な油滴が水に分散した乳化液で、糖・酸・カフェインなどが溶けている[2]。量の目安として、クレマは1杯の体積の少なくとも10%を占めるべきだとされる[2]。

なぜ泡になるのか

泡ができる仕組みは、まだ実験で確かめられてはいない。総説が紹介している説明は次のとおりである。粉の中の二酸化炭素は、高温・高圧の湯にいったん溶け込む。液が粉の層を出て杯に落ちると、圧力と温度が下がり、溶けていられる量を超える。溶けきれなくなった二酸化炭素が、液中の微細な粒子を足がかりにして細かな泡になる[2]。著者らは、これは仮説であり、実験による裏づけはまだ無いと断っている[2]。

総説は、エスプレッソの抽出を「焙煎して挽いたコーヒーの二酸化炭素を、圧力をかけた湯で小さなカップへすばやく移す方法」と言い表している[2]。クレマにとっての圧力の役割は、この一文にまとまっている。

油分は泡の味方ではない

クレマは「油分が乳化した泡」と説明されることが多い。乳化しているのは泡を包む液のほうで、泡そのものを作っているのは二酸化炭素である。総説は、脂質はむしろ泡立ちを損なう側に働くとみている[2]。味についても、クレマそのものは味の面ではあまり重要でなく、泡だけを口にすると苦みと渋みを感じると報告されている[2]。

9気圧はどこから来た数字か

9気圧は、業界団体の定義と認証基準に書かれている値である。出どころごとに、圧力とそのほかの条件を並べる。

出どころ圧力湯温粉量液量
SCA(旧SCAA)の定義[4]9〜10気圧90.5〜96.1℃(195〜205°F)7〜9g25〜35mL
INEIの認証基準[5]9bar±1—7g±0.525ml±2.5(泡を含む)
2011年の総説が述べる伝統的な方法[2]9bar±292〜94℃6.0〜8.0g25〜30mL
SCAの2017年調査の平均(回答275)[4]9bar—18〜20g36.5g
WBCの2026年の規則[10]8.5〜9.5bar——約30ml

圧力はどれも9気圧の前後にそろっている。違うのは粉量と液量で、上の3つは粉7g前後の1杯分、2017年の調査は粉18〜20gを使ういまのレシピである。2020年に学術誌 Matter に載った論文は、スペシャルティコーヒー協会(SCA)の旧来の定義は、現在ほとんどのカフェで使われているレシピから大きく離れていると述べている[1]。ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)は、マシンの抽出圧を8.5〜9.5barに設定すると定めている[10]。

モカポットは約1.5bar

直火にかけるモカポットも、圧力で湯を粉に通す器具である。ただし圧力の桁が違う。メーカーのビアレッティは、エスプレッソマシンの標準的な圧力は9bar以上、モカは約1.5barだと説明している[8]。仕組みは「モカポットの仕組みと原理|直火で生まれる「濃いコーヒー」の正体」で扱っている。

圧力を上げると何が変わるか

圧力を上げると何が変わるか エスプレッソの水圧を変えたときの変化を示した図。泡の量は、アラビカ種7.5gから40mLを抽出した実験で、7気圧の5.1mLから11気圧の6.9mLへ増えた。抽出率は、モデル計算では4気圧、6気圧、8気圧、10気圧の順に低くなる。杯に入る成分の量は、先行研究では7気圧から11気圧へ上げると減る傾向がある。 Fig. Pressure 圧力を上げると、泡は増え、成分は減る 水圧を変えたときの、泡の量・抽出率・杯に入る成分の向き 泡の量(アラビカ種7.5g・40mL) 7気圧 5.1mL 11気圧 6.9mL 抽出率(粉から取り出せた割合・モデル計算) 4気圧 6気圧 8気圧 10気圧 ← 抽出率が高い 抽出率が低い → 杯に入る成分の量:7気圧から11気圧へ上げると、減る傾向(先行研究) 9気圧は、成分を多く溶かすための数字ではない。泡と香りがそろうのが9気圧、という報告がある。 出典:Illy & Navarini(2011)/Cameron ほか(2020)/Schmieder ほか(2023)/Andueza ほか(2002)(本文・参考文献に対応) 図解:coffee-pick.com

圧力を上げれば成分がたくさん出る、というわけではない。2020年の論文は、エスプレッソの抽出を数式のモデルで表し、実験と突き合わせた。モデルでは、ポンプの圧力を上げると湯の流れはそれに比例して速くなり、抽出にかかる時間は反比例して短くなる[1]。粉と液の比率を固定して圧力だけを変えると、圧力が低いほど抽出率は高くなった[1]。同論文は、抽出率を上げる方法として、挽き目を細かくする、水圧を下げる、粉を減らす、の3つを挙げている[1]。

実験の報告も同じ向きである。2023年の論文は先行研究をまとめて、圧力を7気圧から11気圧へ上げると、杯に入る成分の量は減る傾向があると述べている[3]。そこで引かれている研究のうち、アラビカ種を7・9・11気圧で比べた2002年の研究は、9気圧でいれたものが泡のしっかりさと、新鮮さや果実のような香りにつながる成分の多さを示したと報告している[6]。2014年の研究は、カフェインなどを最も効率よく抽出できたのは、湯温92℃と7気圧または9気圧の組み合わせだったとしている[7]。

一方、泡は圧力とともに増える。アラビカ種7.5gから40mLを抽出した実験では、水圧を7気圧から11気圧へ上げると、泡の量は5.1mLから6.9mLへ増えた[2]。圧力を上げて増えるのは泡で、杯に入る成分ではない。

2020年の論文の著者らも、9barでは細かい挽き目で粉の層が詰まったため、実験の圧力を6barに下げている[1]。味との関係は抽出率で整理されており、抽出率が23%を超えると苦く、17%を下回ると酸っぱくなることが多い[1]。この2つの状態は「過抽出・未抽出とは|コーヒーが酸っぱい・苦い・薄い原因と直し方」で扱っている。

エスプレッソはなぜ濃いのか

エスプレッソが濃いのは、少ない湯で抽出するからである。SCAの2017年の調査では、粉と液の重さの比率は平均1:2だった[4]。粉20gから40gを抽出した実験では、液に溶けた固形分(TDS)は平均で液100gあたり9.68gだった[3]。SCAがドリップの基準とする濃度は1.15〜1.35%で[9]、エスプレッソはそのおよそ7〜8倍にあたる(当サイトの計算)。30mLを30秒でいれたアラビカ種の1杯では、固形分は1リットルあたり52.5g(約5%)という値が報告されている[2]。

細かい粉と圧力の関係

少ない湯で短い時間に成分を取り出すために、粉は細かく挽く。エスプレッソ用の粉の粒は0.2〜650μmの範囲に広がっており、表面積の大きい微粉が多いことで、溶ける成分と乳化する成分を多く取り出せる[2]。細かい粉を詰めた層は湯を通しにくい。そこに湯を通すために圧力が要る。総説は、水圧のエネルギーは粉の層の中で使われると述べている[2]。

圧力と挽き目は切り離せない。流量を決めて抽出した2023年の実験では、挽き目を細かくするほど、必要な圧力は3.8bar、7.4bar、9.3barと高くなった[3]。圧力は先に決まる数字というより、挽き目と流れの結果として現れる数字でもある。

粉を押し固めるタンピングについて、総説は、手で上から押す場合の力をおよそ20kgfとしている[2]。ただし2020年の論文は、タンピングの強さを変えても抽出時間と抽出率に目立った差は出なかったとして、98N(約10kg重・当サイトの計算)の自動タンパーで条件をそろえている[1]。

クレマの量は何で決まるか

クレマの量を決めるのは、粉に残っている二酸化炭素の量である。粉の二酸化炭素量と泡の量には強い相関があり、粉1gあたり0.25mgでは泡が約2.5mL、4.5mgでは約12mLだった[2]。焙煎度、挽いてからの時間、粉量、水圧は、どれもこの二酸化炭素の量を通して泡に効く。

要因泡の量への影響(2011年の総説[2])
焙煎度深いほど二酸化炭素が多く、泡も増える。ただし極深煎りは深煎りより泡が少なかったという報告がある
挽いてからの時間500μmに挽くと二酸化炭素の70%以上が抜ける。挽いてから抽出までは30分以内がよいとされる
粉量粉が多いほど泡は増える
水圧7気圧から11気圧へ上げると、5.1mLから6.9mLへ増える
湯温88〜98℃の範囲では、泡の量に統計的な差は出なかった
品種ロブスタ種のほうが二酸化炭素は多い(平均6.9mg/g、アラビカ種は4.6mg/g)。ただし泡の量に有意な差が出なかった実験もある

「ロブスタ種を混ぜないとクレマは出ない」という説について、総説は、実験の結果は食い違っており一般化できないとしている[2]。色には違いがあり、アラビカ種だけのクレマは赤褐色で虎の縞のような模様が出る。ロブスタ種だけのクレマは灰色がかった濃い茶色になる[2]。

泡の持ちと色の読み方

泡の持ちについて、総説は、少なくとも2分ほどは液面を覆っているべきだとしている[2]。焙煎度との関係は泡の量とは違い、浅煎りから極深煎りまでを比べた実験では、中煎りで最も長く持った[2]。泡の量が多い条件ほど持ちは短い、という逆の関係も報告されている[2]。

泡の色は、抽出の過不足を知らせる。総説によれば、色が淡いときは抽出不足で、挽き目が粗すぎる、湯温が低すぎる、時間が短すぎる、のいずれかが考えられる。色がとても濃く、中央に白い点が出るときは、挽き目が細かすぎるか、粉が多すぎる。湯が熱すぎると、大きな泡の白っぽいクレマになる[2]。色・厚み・持ちの見方は「クレマの正体と良し悪し|色・厚み・持続が示すもの」に詳しくまとめている。

エスプレッソをベースにしたアレンジの一つカフェモカも、抽出の原理を踏まえると理解しやすくなります。

結論

エスプレッソのクレマは、焙煎で豆に閉じ込められた二酸化炭素の泡である。9気圧は、業界団体の定義と認証基準にある値で、細かく挽いて詰めた粉の層に湯を通し、粉の二酸化炭素を杯へ運ぶための圧力である。圧力を上げても成分は多く出ない。モデル計算では圧力を下げたほうが抽出率は上がり、実験でも圧力を上げると杯の成分は減る傾向がある。エスプレッソの濃さを決めているのは、粉と液の比率と、細かい挽き目である。クレマを増やしたいときは、圧力を上げるより先に、焙煎から日の浅い豆を使い、挽いてすぐに抽出する。

参考文献

  1. Cameron, M.I.; Morisco, D.; Hofstetter, D. ほか (2020)「Systematically Improving Espresso: Insights from Mathematical Modeling and Experiment」, Matter, 2(3), 631-648(SCAの旧来の定義=7〜9g・25〜35mL・20〜30秒・9〜10bar/抽出率17〜23%)
    https://doi.org/10.1016/j.matt.2019.12.019
  2. Illy, E.; Navarini, L. (2011)「Neglected Food Bubbles: The Espresso Coffee Foam」, Food Biophysics, 6(3), 335-348(クレマの気体は二酸化炭素・液は乳化液/粉の二酸化炭素量と泡の量/水圧7〜11気圧と泡の量)
    https://doi.org/10.1007/s11483-011-9220-5
  3. Schmieder, B.K.L.; Pannusch, V.B.; Vannieuwenhuyse, L.; Briesen, H.; Minceva, M. (2023)「Influence of Flow Rate, Particle Size, and Temperature on Espresso Extraction Kinetics」, Foods, 12(15), 2871(粉20g・比率1:1/1:2/1:3 の成分量=Table 2)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10418593/
  4. Specialty Coffee Association「Defining the Ever-Changing Espresso」25 Magazine, Issue 3(2018年。2017年3月の調査・回答275=比率の平均1:2・25〜30秒が51%/旧SCAAの定義/2026-10-04 閲覧)
    https://sca.coffee/sca-news/25-magazine/issue-3/defining-ever-changing-espresso-25-magazine-issue-3-zyx36
  5. Istituto Nazionale Espresso Italiano「The Certified Italian Espresso and Cappuccino」(認証基準=粉7g±0.5・25秒±5秒・25ml±2.5・9bar±1)※公式サイトのPDFは現在取得できないため Internet Archive の保存版
    https://web.archive.org/web/20241223040119/http://www.espressoitaliano.org/files/File/istituzionale_inei_hq_en.pdf
  6. Andueza, S.; Maeztu, L.; Dean, B.; de Peña, M.P.; Bello, J.; Cid, C. (2002)「Influence of Water Pressure on the Final Quality of Arabica Espresso Coffee. Application of Multivariate Analysis」, J. Agric. Food Chem., 50, 7426-7431(7・9・11気圧の比較。抄録で確認)
    https://doi.org/10.1021/jf0206623
  7. Caprioli, G.; Cortese, M.; Maggi, F.; Minnetti, C.; Odello, L.; Sagratini, G.; Vittori, S. (2014)「Quantification of caffeine, trigonelline and nicotinic acid in espresso coffee: the influence of espresso machines and coffee cultivars」, Int. J. Food Sci. Nutr., 65, 465-469(湯温と圧力の組み合わせ。抄録で確認)
    https://doi.org/10.3109/09637486.2013.873890
  8. Bialetti「How the Moka works: lift the lid and discover all its secrets」(モカは約1.5bar・エスプレッソマシンは9bar以上/2026-10-04 閲覧)
    https://www.bialetti.com/it_en/inspiration/post/how-the-moka-works
  9. Specialty Coffee Association「Coffee Standards」Revised 2018(§5.1 Golden Cup Standard=ドリップの濃度 11.5–13.5 g/L・可溶性成分の収率 18–22%)※SCA公式のPDFは現在リンク切れのため Internet Archive の保存版
    https://web.archive.org/web/20230201145358/https://sca.coffee/s/Coffee-Standards-compressed.pdf
  10. World Coffee Championships「2026 World Barista Championship Official Rules and Regulations」(3.1 エスプレッソの定義/14.2.7 抽出時間の数え方/2026-10-04 閲覧)
    https://wcc.coffee/s/2026-World-Barista-Championship-Official-Rules-and-Regulations.pdf

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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