コーヒーのTDSとは|適正濃度1.15〜1.45%の測り方と収率計算式

TDS(総溶解固形分)とは|濃度を測ってコーヒーを科学する

コーヒーの抽出を語る上で、TDS(Total Dissolved Solids)という指標は避けて通れない。湯がコーヒー粉から成分を溶かし出す過程[2]において、液体中にどれだけの固形分が溶け込んでいるかを数値化したものがTDSである。この指標を理解することで、抽出の再現性は飛躍的に高まる。

目次

TDS(総溶解固形分)の定義と意味

総溶解固形分とは何か

TDSは Total Dissolved Solids の略称であり、日本語では総溶解固形分と訳される[4]。液体中に溶解している無機物・有機物のすべてを分子・イオン・微粒子の形で合算した指標であり、通常はppm(parts per million)またはパーセント(%)で表記される[4]。コーヒーにおいては、カフェイン、糖類、脂質、メラノイジン、酸類といった成分が抽出された総量を示す[2]

コーヒー液のTDSが1.2%であれば、100gの液体中に1.2gの固形分が溶け込んでいることを意味する。水を基準とした場合、純水のTDSは限りなくゼロに近く、硬水のように鉱物質を多く含む水[5]では数百ppmに達する。コーヒー抽出液のTDSは通常1万〜1万5千ppm、つまり1.0〜1.5%の範囲に収まる。

なぜTDSを測定するのか

抽出の良し悪しを感覚だけで判断すると、日ごとの体調や気温、湿度によって評価がぶれる。TDSという客観指標を導入することで、レシピの再現性が担保され、他者との情報共有も可能になる。スペシャルティコーヒーカッピングにおいても、SCAスコアと並行してTDSを記録する習慣が広がっている。

深掘りメモ|TDS(総溶解固形分)の定義と意味

焙煎度合いが深くなるほど豆の細胞壁は脆くなり、同じ挽き目・同じ湯量でも抽出速度が速まる。結果としてTDSは高めに出やすい。浅煎りと深煎りで同じ濃度を狙う場合、粉量や湯温を調整する必要がある。この調整を数値で管理できる点が、TDSを測る最大の利点である。

濃度(Strength)と収率(Extraction Yield)の違い

濃度はあくまで液体の「濃さ」

TDSが示すのは、あくまでコーヒー液の濃度(Strength)であり、豆からどれだけ成分を取り出せたかを示す収率(Extraction Yield)とは別の概念である。濃度が高くても、使用した粉量が多ければ収率は低い場合がある。逆に少量の粉で高収率を達成しても、湯量が多ければ濃度は薄まる。

指標定義単位測定方法
TDS(濃度)液体中の溶解固形分% または ppm屈折計で直接測定
収率豆重量に対する抽出成分の割合%TDS・液量・粉量から計算

収率の計算式

収率は次の式で求められる。

収率(%) = (抽出液量 × TDS) ÷ 使用粉量 × 100

例えば、15gの粉で240gの液体を抽出し、TDSが1.2%だった場合、収率は `(240 × 0.012) ÷ 15 × 100 = 19.2%` となる。SCAが推奨する収率の範囲は18〜22%であり、この帯域に収めることで過抽出・未抽出を回避できる。詳細は別記事「抽出収率とは」で扱う。

測定原理:屈折計とBrix換算

屈折計の測定原理:光の屈折からTDSへ 屈折計は、液体に溶けた固形分が多いほど光の屈折が大きくなる性質を利用する。プリズム上の試料に光を当て、屈折の境界を読み取ってBrix値を得る。コーヒーは糖以外の成分も含むため補正係数を掛けてTDS(%)へ換算し、屈折率は温度で変わるため自動温度補正(ATC)で20〜25℃を基準にする。 屈折計はこうしてTDSを測る 溶けた成分が多いほど光は強く曲がる。その屈折のズレをBrix→補正→TDS%へ変換する ① 光の屈折で濃度を読む 光源 プリズム 試料(コーヒー1滴) 薄い:屈折小 濃い:屈折大 溶解固形分が多い → 屈折率が大きい → 光が大きく曲がる ② 屈折を数値へ変換する 屈折の境界角を読み取る Brix値(ショ糖基準の目盛り) そのままでは砂糖水の濃度 ×コーヒー用 補正係数 糖以外(酸・脂質・メラノイジン)を補正 TDS(%)として表示 ドリップ 1.0〜1.5% 温度補正:屈折率は温度で変わるため、自動温度補正(ATC)で20〜25℃を基準にする。 抽出直後の高温サンプルは、ビーカーで2〜3分待って常温に近づけてから測る。 機器はBrixを内部でTDSへ自動換算する(VST等)。汎用機は補正係数を手動入力するため、コーヒー用の係数設定が要る。 出典:J-STAGE 掲載のコーヒー抽出・化学に関する査読論文/VST・Atago 製品仕様(本文の測定原理に対応) 図解:coffee-pick.com

光の屈折を利用した濃度測定

TDSの測定には、リフラクトメーター(屈折計)が用いられる。液体中の溶解物質が多いほど光の屈折率は大きくなる性質を利用し、デジタルセンサーで屈折角を読み取る仕組みである[4]。コーヒー業界では、VST社やAtago社の専用機器が標準的に使われる。

測定結果はBrix(ブリックス)という単位で表示されることが多い。Brixは本来、ショ糖溶液の濃度を示す指標だが、コーヒーの場合は糖以外の成分も含まれるため、Brix値に補正係数を掛けてTDSに換算する[3]。VST機器では自動的にコーヒー用の係数が適用され、画面に直接TDS(%)が表示される。

温度補正の重要性

屈折率は温度によって変動するため、測定時の液温を一定に保つか、機器側で温度補正を行う必要がある。多くのデジタル屈折計には自動温度補正(ATC: Automatic Temperature Compensation)機能が搭載されており、20〜25℃の範囲であれば誤差を最小化できる。抽出直後の高温サンプルは、常温まで冷ましてから測定するのが基本である。

深掘りメモ|測定原理:屈折計とBrix換算

国内で普及している円錐ドリッパー(ハリオV60など)は、抽出速度が速く湯温が下がりにくい。そのため、サンプルを採取してすぐ測定すると液温が高すぎて誤差が出やすい。ガラスビーカーに移して2〜3分待つだけで、測定精度は格段に上がる。

適正TDS帯とBrewing Control Chart

適正TDS帯と抽出方法別のTDS比較 ドリップコーヒーの適正TDSは1.15〜1.45%で、1.0%未満は水っぽく、1.5%超は重く感じられる。抽出方法でTDSは大きく変わり、ドリップやフレンチプレス・水出しが約1.2〜1.5%なのに対し、エスプレッソは8〜12%に達する。 TDSの目盛り:ドリップの「ちょうどいい」は1.15〜1.45% 1.0%未満は水っぽく、1.5%超は重い。狙うTDSは抽出方法でまるで違う ① ドリップの適正TDS帯 水っぽい 適正 1.15〜1.45% 重い 1.0% 1.15% 1.45% 1.5% TDS(%)→ 濃い ② 抽出方法でTDSはこれだけ違う 0 2 4 6 8 10 12% ドリップ 1.15〜1.45% フレンチ/水出し 1.2〜1.5% エスプレッソ 8〜12% 抽出方式が違えば、狙う濃度はドリップの約7倍にもなる 適正帯は基準であって正解の一点ではない。焙煎度・品種・好み・器具で最適なTDSは前後する。 出典:Specialty Coffee Association「Coffee Standards」(ドリップ適正TDS 1.15〜1.45%)/本文の数値に対応 図解:coffee-pick.com

ドリップコーヒーの推奨範囲

SCA(Specialty Coffee Association)が示すBrewing Control Chartでは、ドリップコーヒーの適正TDSを1.15〜1.45%としている[1]。この範囲内であれば、多くの人が「バランスが取れている」と感じる濃度になる。1.0%を下回ると水っぽく、1.5%を超えると重たく感じられることが多い。

エスプレッソの場合、抽出方法の性質上TDSは8〜12%に達する。フレンチプレスやコールドブリュー(水出し)は1.2〜1.5%程度であり、抽出時間が長いほど濃度は高まる傾向にある。

Brewing Control Chartとの関係

Brewing Control Chartは、横軸に収率、縦軸にTDSを取り、両者の組み合わせで「理想ゾーン」を可視化したグラフである。詳細は別記事「Brewing Control Chartの読み方」で解説するが、TDSと収率を同時に管理することで、抽出の全体像を把握できる点が重要である。

状態TDS・収率主な原因
未抽出どちらも低い湯温不足、粉が粗すぎる、時間不足
過抽出どちらも高い湯温過多、粉が細かすぎる、時間過多
薄いTDS低・収率高湯量が多すぎる。成分は十分に出ている
濃いTDS高・収率低粉量が多すぎる。豆のポテンシャルを引き出せていない

測定手順:サンプリングからキャリブレーションまで

サンプルの採取とフィルタリング

正確なTDSを得るには、サンプルの取り扱いが鍵となる。抽出液をよく撹拌し、均一な状態で数mLをスポイトまたはピペットで採取する。微粉や油分が混入すると屈折計のプリズム面が汚れ、誤差が生じるため、ペーパーフィルターで再濾過するか、シリンジフィルター(0.45μm程度)を通すとよい。

キャリブレーション(校正)

測定前には必ず蒸留水またはゼロ校正液でキャリブレーションを行う。VST機器の場合、電源投入後に自動校正モードが起動するため、指示に従って蒸留水を滴下すればよい。Atago機器では手動校正ボタンを押し、ゼロ点を合わせる。校正を怠ると、すべての測定値にオフセット誤差が乗るため注意が必要である。

主要機器の特徴

機器名測定範囲精度価格帯備考
VST LAB Coffee III0〜25%±0.03%業界標準、自動温度補正
Atago PAL-COFFEE0〜22%±0.05%コンパクト、Brix/TDS切替
汎用デジタル屈折計0〜30%±0.1%補正係数を手動入力
深掘りメモ|測定手順:サンプリングからキャリブレーションまで

焙煎直後の豆はCO₂を多く含み、抽出時に泡が立ちやすい。この泡が測定サンプルに混入すると、見かけ上TDSが低く出る。焙煎から3〜7日ほど休ませた豆を使うと、測定の安定性が増す。

実践活用:数値と味覚の補完関係

レシピの再現性を高める

同じ豆・同じ挽き目・同じ湯温で淹れても、注湯速度や蒸らし時間が変われば抽出結果は変わる。TDSを記録しておけば、「前回は1.25%、今日は1.10%だった」という差分が見え、どの工程を直すべきかがはっきりする。デジタルスケールとタイマーを併用し、粉量・湯量・時間・TDSの4要素を毎回記録する習慣をつけると、レシピのブラッシュアップが加速する。

味覚との対応関係

TDSが適正範囲内でも、酸味や苦味のバランスは豆の品種や焙煎度、精製方法によって大きく変わる。ゲイシャ種のナチュラル精製であれば、TDS 1.2%でもフルーティな甘さが際立つ。ロブスタ種のウォッシュト精製なら、同じ1.2%でも苦味が前面に出る。数値はあくまで濃度の指標であり、風味の質を保証するものではない。

カッピングとの併用

スペシャルティコーヒーのカッピングでは、粉量と湯量を固定し(例: 8.25gの粉に150mLの湯)、4分間浸漬後にスプーンでテイスティングする。このとき抽出液のTDSを測定しておけば、SCAスコアとの相関が見えてくる。高得点の豆ほど、TDS 1.3〜1.4%付近でクリーンカップ(雑味のなさ)が際立つ傾向がある。

深掘りメモ|実践活用:数値と味覚の補完関係

国内では「湯を細く長く注ぐ」スタイルが好まれるが、この方法は抽出時間が延びるため収率が高くなりやすい。TDSを測ると、意外にも1.4%を超えているケースが多い。過抽出を避けたければ、注湯速度を上げるか粉を粗くする調整が有効である。

測ったTDSを、味の調整につなげる

TDS抽出シミュレーター — 粉量・湯量・実測TDSを入れると抽出収率を自動計算し、SCA管理チャート上の座標(Ideal Zoneに入っているか)まで表示する。本記事の数値を自分の一杯で確かめられる。

挽き目と抽出の科学 — TDSが目標から外れたとき、最も効く調整レバーが挽き目。粒度と収率・濃度の関係を原理から整理する。

コールドブリュー(水出し)」「メラノイジン」など、本文に出てきた専門用語の定義はコーヒー用語事典でまとめて確認できます。

結論:計測と感覚の両輪で抽出を磨く

TDS測定は、コーヒー抽出を科学的に管理するための強力なツールである[2][4]。液体中の総溶解固形分を数値化することで、レシピの再現性が高まり、他者との情報共有も容易になる。一方で、TDSはあくまで濃度を示す指標であり、風味の質や好みを数値化するものではない。

適正TDS帯(1.15〜1.45%)を基準としつつ、豆の品種、精製方法、焙煎度、抽出方法に応じて柔軟に調整する姿勢が求められる。屈折計によるTDS測定と、カッピングや日常の味覚トレーニングを両輪で回すことで、抽出技術は着実に向上していく。

計測はあくまで手段で、目的は一杯のコーヒーを最良の状態で出すことだ。数値に振り回されるのではなく、数値を道具として使いこなす。これこそ、サードウェーブ以降のコーヒー文化が向かっている方向だと私は思っている。

参考文献

  1. Specialty Coffee Association「Coffee Standards」(抽出基準: 比率・収率18–22%・TDS1.15–1.45%)
    https://sca.coffee/research/coffee-standards
  2. National Coffee Association USA「How to Brew Coffee」(ゴールデンレシオ・湯温の基準)
    https://www.ncausa.org/About-Coffee/How-to-Brew-Coffee
  3. J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)コーヒーの化学・抽出に関する査読論文
    https://www.jstage.jst.go.jp/
  4. Specialty Coffee Association「Research(カッピング・官能評価プロトコル)」
    https://sca.coffee/research
  5. 全日本コーヒー協会(コーヒーの基礎知識・統計)
    https://coffee.ajca.or.jp/

この記事を書いた人

コーヒーを「なんとなく美味しい」で済ませない、Coffee Pick Lab。豆の品種から抽出収率まで、つい数字で語ってしまうコーヒーメディアです。一杯の裏にある歴史と科学を、一次資料と再現性を頼りに、できるだけ正確に、たまに脱線しながらお届けします。

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