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コーヒーの抽出収率とは|計算式と最適レンジ18〜22%の根拠

抽出収率(Extraction Yield)の計算と最適レンジ|18-22%の科学

同じ豆、同じ器具で淹れたのに、今日は酸っぱくて昨日は苦い。その「なぜ」を数字で説明できるのが抽出収率(Extraction Yield, EY)だ。豆から液体へ移った成分の割合を百分率で表したもので、湯を注いだ瞬間からカフェイン、糖類、脂質、メラノイジン、有機酸といった可溶性成分が粉から溶け出し、最終的に粉の何%が液に移ったかを示す。ハンドドリップでもエスプレッソでも、味の設計図として同じように使える。

焙煎士の感覚で言うと、収率が1%変わるだけで香味は大きく動く。浅煎りのゲイシャを18%で淹れればフローラルな酸が際立つが、22%まで上げると苦味と甘味が前に出る。収率のコントロールは、焙煎度と同じか、それ以上に効く変数だ。

つまり収率を読めれば、「なぜか酸っぱい」「どうも苦い」を勘ではなく数字で詰められる。まずは定義と計算式から見ていく。

この記事の結論
  • 抽出収率は豆の可溶性成分が液に移った割合で、味を数字で説明する指標になる。
  • SCA推奨は18-22%で、18%未満は酸味と塩味が突出し、22%超は苦味と渋味が支配する。
  • 粒度・湯温・時間・比率を組み合わせて調整し、粉量・湯量・TDSを記録すると再現性が安定する。

この記事は「SCA Brewing Control Chart完全解説|美味しさを座標で示す」の各論です。

目次

抽出収率の定義と可溶性成分

成分が溶け出す順序:酸→甘味→苦味 抽出収率が上がるにつれ、溶け出す成分は順番に変わる。早い段階では有機酸(酸味)、中盤は糖類・メラノイジン(甘味)、後半はカフェイン・タンニン(苦味・渋味)が中心になる。収率18〜22%の帯域は三者が釣り合う適正ゾーンで、18%未満は酸が突出した未抽出、22%超は苦味が支配する過抽出になる。 Fig. Scale 成分は順番に溶け出す:酸 → 甘味 → 苦味 抽出が進むほど主役の成分が変わる。18〜22%で三者が釣り合う 適正 18〜22%(三者が釣り合う) ① 早い ② 中盤 ③ 遅い 有機酸(酸味) 糖類・メラノイジン(甘味) カフェイン・タンニン(苦味・渋味) 14 16 18 20 22 24 26 未抽出(酸が突出) 適正 過抽出(苦が支配) 抽出収率 Extraction Yield(%) 低い ← → 高い バーの位置は各成分が主役になる収率帯の目安。実際の溶出は連続的で、焙煎度・品種で前後する。 出典:J-STAGE 掲載のコーヒー抽出・化学に関する査読論文/本文「可溶性成分」の記述に対応 図解:coffee-pick.com

豆の何%が液中に溶け出したか

抽出収率とは、焙煎後の粉に含まれる可溶性成分のうち、実際に抽出液へ移った割合を百分率にしたものだ。焙煎豆の約28-30%が水溶性成分で、残りは溶けないセルロースや炭化物。EYが20%なら、粉の総質量の20%が液に溶け出したことになる。

可溶性成分には、カフェイン、糖類(ショ糖やフルクトース)、脂質、メラノイジン(焙煎由来の褐色色素)、クロロゲン酸などの有機酸が含まれる。これらは時間とともに順番に溶け出し、初期は酸味成分、中期は甘味成分、後期は苦味・渋味成分が中心になる。

可溶性成分の内訳

焙煎度によって可溶性成分の組成は変わる。浅煎りはクロロゲン酸が多く残り、深煎りはメラノイジンやカフェインの比率が高くなる。おおよその比率は下の通り。

成分カテゴリ浅煎り (%)中煎り (%)深煎り (%)
有機酸10-128-105-7
糖類8-106-84-6
カフェイン1.5-2.01.5-2.01.5-2.0
メラノイジン5-78-1012-15
脂質2-32-32-3

日本のドリッパー文化では、浅煎りを低収率(17-19%)で淹れて酸味を強調する傾向がある。逆にイタリアのエスプレッソ文化は深煎りを高収率(20-24%)で淹れ、ボディと苦味を重視する。同じ豆でも収率で味を設計できる、ここがこの指標の実用的な価値だ。

計算式と具体例

EY% = TDS(%) × 抽出液量 / 粉量

抽出収率は、総溶解固形分(TDS)、抽出液量、粉量の3つから算出する。式はこうだ。

EY (%) = (TDS (%) × 抽出液量 (g)) / 粉量 (g)

TDSは抽出液中に溶けている固形分の質量を%またはppm(parts per million)で表したもので[2]、専用の屈折計やデジタルメーターで測る。TDSが1.30%なら、100gの抽出液に1.30gの固形分が溶けている計算になる。

計算例:ハンドドリップ

粉量20g、抽出液量300g(300ml)、TDS 1.25%でドリップしたとする。

EY = (1.25 × 300) / 20 = 18.75%

この18.75%は、後で触れるSCA(Specialty Coffee Association)推奨の18-22%の下限付近で、酸味がやや前に出た仕上がりになる。

計算例:エスプレッソ

エスプレッソの典型は、粉量18g、抽出液量36g(1:2レシピ)、TDS 8.5%。

EY = (8.5 × 36) / 18 = 17.0%

エスプレッソはTDSが高い一方で液量が少ないので、収率は17-20%に収まることが多い。この範囲だと酸味と甘味のバランスがよく、クレマも安定する。

日本のハンドドリップ派には、粉量15g・抽出液量200g・TDS 1.40%で収率18.67%を狙う層も増えてきた。こうした微調整は、品種やテロワール(産地固有の風土)の個性を引き出すのに効く。

18-22%の根拠とSCA基準

Specialty Coffee Associationの推奨帯域

SCAは、カッピングプロトコルや抽出基準を通じてスペシャルティ業界の標準化を引っ張ってきた。同協会の定める理想収率は18-22%で、この範囲で淹れた液は酸味・甘味・苦味のバランスがいいとされる[1]。

この基準のもとは、1950年代のE.E. Lockhartらの研究にある。全米コーヒー協会(NCA)がMIT(マサチューセッツ工科大学)のLockhart博士へ研究を委託し、NCAの主導で1952年頃に設立された Coffee Brewing Institute(CBI・博士が初代所長)の試験によって、最も好まれる収率が18〜22%、濃度が1.15〜1.35%だと定められた[3]。この知見がSCAの前身SCAA(米国スペシャルティコーヒー協会)に引き継がれ、いまも業界標準として生きている。

TDSとの組み合わせ:コントロールチャート

SCAは収率単体ではなく、TDSとの組み合わせでも理想帯域を定義している。一般的なコントロールチャートでは、TDS 1.15-1.35%、EY 18-22%の矩形が「理想ゾーン」だ。

TDS (%)EY 18%EY 20%EY 22%
1.15弱い良好良好
1.25良好最適良好
1.35良好良好強い

表を見ると、TDS 1.25%・EY 20%の組み合わせが一番バランスがいい。ただし浅煎りのエチオピア産ナチュラルなら、EY 19%・TDS 1.20%でフルーティさが際立つといった例外もある。

焙煎の側でも、Lockhart研究の流れを踏まえつつ、産地や品種ごとに最適な収率を探る余地がある。ブルボン種とティピカ種では糖類の量が違うので、同じ収率でも甘さの出方は変わる。

未抽出のメカニズム

未抽出(Under-extraction):酸味・塩味・物足りなさ

収率が18%を下回ると未抽出(Under-extraction)になる。初期に溶け出す有機酸(クエン酸、リンゴ酸、クロロゲン酸)が支配的で、甘味も苦味もまだ十分に出ていないため、酸味だけが突出する。

味で言うと、まずクロロゲン酸由来の鋭い酸が舌の両側を刺激する。ナトリウムやカリウムといったミネラルの塩味も相対的に目立つ。糖類やメラノイジンが足りないので液体は薄く感じられ、苦味成分も少ないため飲み込んだあとの余韻が短い。

未抽出を引き起こす要因

未抽出は、次のような条件で起きる。

要因なぜ収率が上がらないか
粒度が粗すぎる粉の表面積が小さく、溶出が遅い
湯温が低い(60-70°C)可溶性成分の溶解度が下がる
抽出時間が短い(30秒以下)初期の酸味成分しか出ない
湯量が少ない(1:10以下)液量不足で収率が伸びない

日本の喫茶店文化には、ネルドリップで粗挽き・低温抽出し、わざと未抽出気味に仕上げる手法がある。酸味を立てて軽い口当たりを狙ったものだが、豆の質が低いと単に「薄い」「物足りない」だけになる。

過抽出のメカニズム

過抽出(Over-extraction):苦味・渋み・収斂性

収率が22%を超えると過抽出(Over-extraction)になる。後期に溶け出す苦味成分(カフェイン、タンニン、キナ酸)や渋味成分(ポリフェノール)が出すぎて、味のバランスが崩れる。

口の中では、カフェインとキナ酸由来の重い苦味が舌の奥を覆う。タンニンが口の粘膜を縮ませてザラついた渋味(収斂性)を生み、メラノイジンが出すぎると炭化したような焦げ臭が混じる。苦味が長く残って、次の一口を邪魔する。

過抽出を引き起こす要因

過抽出は、次のような条件で起きる。

要因なぜ収率が上がりすぎるか
粒度が細かすぎる粉の表面積が大きく、溶けすぎる
湯温が高い(95°C以上)苦味成分の溶解度が急に上がる
抽出時間が長い(5分以上)後期成分が出すぎる
湯量が多い(1:20以上)液量過多で収率が上がりすぎる

フレンチプレスは粉が湯に浸かり続けるので、4分を超えると過抽出のリスクが高まる。抽出後すぐ別容器へ移せば、収率の上がりすぎを抑えられる。深煎りのイタリアンローストを過抽出すると、焦げ臭と苦味だけが残って豆本来の甘味や香りが消える。深煎りは可溶性成分の総量が少ないので、収率20%前後で止めるのが定石だ。

収率の調整手法

抽出収率を動かす4つのレバー 抽出収率は、粒度・湯温・時間・比率の4つで調整する。粒度は表面積、湯温は溶解度、時間は溶出量、比率は液量を動かす。各レバーを左に振ると収率が下がって酸味寄り、右に振ると収率が上がって苦味寄りになり、中央の18〜22%が適正帯。粒度は粗挽きから極細挽き、湯温は85℃から96℃、時間は30秒から5分、比率は1:10から1:20の範囲で効く。 Fig. Structure 収率を動かす4つのレバー 粒度・湯温・時間・比率。どれを動かすと収率がどちらへ向かうか ← 収率を下げる(酸味寄り) 収率を上げる(苦味寄り) → 粒度 表面積 粗挽き 極細挽き 湯温 溶解度 85℃ 96℃ 時間 溶出量 30秒 5分 比率 液量 1:10 1:20 適正帯 18〜22% 1つ動かしたら他は固定して検証する。4つは独立ではなく互いに影響し合う。中央寄りが出発点。 出典:Specialty Coffee Association「Coffee Standards」(収率18〜22%)/本文「収率の調整手法」に対応 図解:coffee-pick.com

粒度による制御

粒度(グラインドサイズ)は収率に最も直接効く変数だ。細かいほど表面積が増え、成分の溶出が速くなる。

挽き目用途収率抽出時間
極細挽きエスプレッソ17-20%20-30秒
中細挽きハンドドリップ18-22%2-3分
中挽きフレンチプレス19-22%4分
粗挽きコールドブリュー15-18%12-24時間

粒度はグラインダーのバリ(刃)設定で変える。コニカルバリ(円錐刃)は粒度分布が広く、フラットバリ(平刃)は均一性が高い。均一なほど狙った収率に届きやすい。

湯温による制御

湯温は可溶性成分の溶解度と溶出速度を左右する。高温ほど苦味成分が溶けやすく、低温ほど酸味成分が優位になる。

湯温味の傾向収率
85-88°C酸味強調17-19%
90-93°Cバランス型19-21%
94-96°C苦味強調21-23%

浅煎りは高温(92〜96℃)で甘味を引き出し、深煎りは低温(85〜90℃)で苦味を抑えるのが一般的だ。

時間と比率による制御

抽出時間と、粉量に対する湯量の比率(ブリューレシオ)も収率に効く。

ブリューレシオ時間収率味の傾向
1:152分30秒19%酸味と甘味のバランス
1:163分00秒20%甘味と苦味のバランス
1:173分30秒21%苦味と甘味のバランス

時間が長いほど後期成分が出て収率は上がる。ただし5分を超えると過抽出のリスクが急増するので、3分30秒を上限にする人が多い。日本のハンドドリップ派には、粉量15g・湯量240g(1:16)・時間2分45秒で収率20%を狙う設定が定着しつつある。浅煎りのウォッシュトで酸味と甘味を両立させるのに向いている。

収率を、狙って動かす

TDS抽出シミュレーター — 粉量・湯量・TDSを入れると抽出収率(EY)を自動計算し、SCA管理チャート上の座標まで表示する。本記事の計算式をそのまま自分のレシピで回せる。

ゴールデンレシオ(黄金比) — 収率を動かす「比率」のレバー。1:15〜1:18で濃度と収率の出発点を決める。

「TDS(総溶解固形分)」「ネルドリップ」など、本文に出てきた専門用語の定義はコーヒー用語事典でまとめて確認できます。

収率を左右するもう一つの変数である水質はコーヒーと水の科学にまとめています。

結論

抽出収率は、淹れたコーヒーの味を数字で語れるようにする物差しだ。SCAの18-22%はLockhartの官能評価に裏打ちされた帯域で、18%を切れば酸味と塩味が突出し、22%を超えれば苦味と渋味が支配する。調整は粒度・湯温・時間・比率の4つを組み合わせて行う。粒度は表面積、湯温は溶解度、時間は溶出量、比率は液量を動かす、と整理しておくと迷わない。

TDS計を導入して変わるのは、「なんとなく美味い」という感覚が「EY20%・TDS1.25%で美味い」という再現可能な基準に置き換わることだ。再現できる味は、狙って育てられる。次の一杯から、粉量・湯量・TDSをメモするところを始めてみてほしい。18-22%はあくまで出発点で、最後は自分の舌と豆に合わせて動かしていけばいい。

参考文献

  1. Specialty Coffee Association「Coffee Standards」Revised 2018(§3 カッピング=粉8.25g・湯 200°F±2°F〈92.2–94.4℃〉/§4.1 Water for Brewing=塩素なし・カルシウム硬度 50–175 ppm CaCO3・アルカリ度 40–70 ppm・pH 6–8/§5.1 Golden Cup Standard=濃度 11.5–13.5 g/L〈SCA Brewing Control Chart 上の 1.15–1.35%〉・可溶性成分の収率 18–22%)※SCA公式のPDFは現在リンク切れのため Internet Archive の保存版
    https://web.archive.org/web/20230201145358/https://sca.coffee/s/Coffee-Standards-compressed.pdf
  2. Specialty Coffee Association「Research(カッピング・官能評価プロトコル)」
    https://sca.coffee/research
  3. Specialty Coffee Association News「The Coffee Brewing Institute: Setting the Stage for Specialty Coffee」(2013年10月4日・Emma Sage/SCA Coffee Science Manager。NCA が MIT の Earl E. Lockhart 教授に研究を委託し、NCA の主導・Pan American Coffee Bureau との提携で 1952年頃に Coffee Brewing Institute が設立され Lockhart が初代所長。CBI の試験で濃度 1.15–1.35%・収率 18–22% が定まり、gold cup ratio は CBI がそのゾーンに合わせて設計した)※SCA公式サイトへ到達できないため Internet Archive の保存版
    https://web.archive.org/web/20180426192455/https://scanews.coffee/2013/10/04/the-coffee-brewing-institute/

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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