缶コーヒーの「ブラック」は、乳製品や乳化された食用油脂を使用していない場合に限って名乗れる[1]。糖類を使っていても、施行規則第3条第3号に基づいて(糖類などの量を強調する表示は食品表示基準第7条の規定により表示する)糖類の含有量を低減した旨(低糖、微糖等)の表示をした場合には、「加糖」の併記を省略できる[1]。棚に並ぶこれらの言葉は感覚的な呼び名ではなく、公正競争規約が定める表示基準に基づいて選ばれている。
- 「ブラック」「微糖」「カフェオレ」は感覚ではなく公正競争規約と食品表示基準の条件で決まる。
- カフェ・オレ等は乳脂肪3パーセント以上・無脂乳固形分8パーセント以上の乳を内容重量5パーセント以上使うことが条件になる。
- ブラックは乳製品・乳化油脂不使用が条件で、糖類を使えば加糖の併記が要るが、食品表示基準に沿って低糖・微糖等の表示をした場合は省略できる。
この記事は「コーヒーの淹れ方は4種類で整理できる|透過・浸漬・加圧・煮出しの原理マップ」の各論です。
棚に並ぶ「ブラック」「微糖」「カフェオレ」は感覚の言葉ではない
表示のルールはどこにあるのか
コーヒーの味を「ブラック」「ミルク入り」といった言葉で区別する感覚は、日常の飲用のなかで自然に身につく。しかし缶コーヒーや紙パック飲料のパッケージに書かれた同じ言葉は、味の印象で選ばれているわけではない。コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び同施行規則は、事業者がコーヒー飲料等の取引に関して特定の用語を表示する場合の基準を定めている[1]。対象となる用語は「ブラック」、「ミルク入り」「カフェ・オレ」「カフェ・ラッテ」またはこれらに類する用語、そして「スーパー」「スペシャル」「プレミアム」またはこれらに類する用語の3系統である[1]。
誰が対象になるのか
この規約が対象にしているのは、コーヒー飲料等を取引する事業者である[1]。棚に並ぶ缶コーヒーのラベルに「ブラック」や「カフェ・オレ」の文字を印刷するかどうかは、味の設計だけでなく、この施行規則が定める条件を満たしているかどうかの判断を経ている。ハンドドリップで淹れたコーヒーに牛乳を注ぐかどうかは個人の自由だが、パッケージに文字として印刷する段階では、乳製品の有無や糖類の扱いが条件として固定される。この違いを知っておくと、缶コーヒーの表示を「なんとなくの分類」ではなく「満たすべき条件の結果」として読めるようになる。
公正競争規約は業界団体が自主的に運用する仕組みであり、施行規則で用語ごとの表示基準を具体化している[1]。家庭で淹れる一杯とパッケージの文言は、同じ「ブラック」でも成り立ちが異なる。
「ブラック」を名乗れる条件
乳製品・乳化された食用油脂を使わないこと
「ブラック」の用語は、乳製品または乳化された食用油脂を使用しない場合に限り表示できる[1]。これは味の濃さや苦みの強さとは無関係の条件であり、あくまで乳成分・乳化油脂の有無だけで判定される。ハンドドリップで抽出したコーヒーに何も加えずに飲む状態を思い浮かべれば分かりやすいが、缶コーヒーの「ブラック」表示もこの発想を成分の有無というかたちで固定したものといえる。逆にいえば、乳製品や乳化油脂を使っていない限り、糖類を加えていても「ブラック」の表示自体は可能になる。
糖類を使えば「加糖」の表示が必要になる
ただし糖類を使用したものについては、「ブラック」の文字と同一視野に「加糖」と表示しなければならない[1]。つまり「ブラック」は乳成分の有無だけを示す言葉であり、甘みの有無までは自動的には示していない。パッケージを手に取ったときに「ブラック」の文字のすぐ近くに「加糖」という文字が並んでいたら、それは乳製品を使っていないが糖類は使っている、という組み合わせを意味する。この2つの文字が同じ視野に置かれる決まりになっている点が、表示のルールとしての細かさを物語っている。
食品表示基準に沿った「低糖」「微糖」等の表示があれば「加糖」は省略できる
もっとも、この「加糖」の表示には省略できる条件が定められている。前条第3号(施行規則第3条第3号=糖類などの量を強調する表示は食品表示基準第7条の規定により表示する)に基づく糖類の含有量を低減した旨(低糖、微糖等)の表示をした場合には、「加糖」の表示を省略することができる[1]。この条件節は独立した例外ではなく、「加糖の原則表示」に対する「ただし書き」として読む必要がある。糖類を使っているのに「加糖」の文字が見当たらない缶コーヒーがあるとすれば、それは表示漏れではなく、別の場所に「低糖」や「微糖」の表示があるために「加糖」の併記が省略されている、という状態を指していることになる。
「ミルク入り」「カフェ・オレ」「カフェ・ラッテ」の条件
乳脂肪と無脂乳固形分の基準
「ミルク入り」「カフェ・オレ」「カフェ・ラッテ」またはこれらに類するミルク入りを示す用語は、乳脂肪3パーセント以上及び無脂乳固形分8パーセント以上の成分を有する乳の製品を使っている場合に限り表示できる[1]。ここでいう「乳」は成分の基準を満たすものであって、コーヒーに白い色がついていれば足りるという話ではない。乳脂肪分と無脂乳固形分という2つの数値がそろって初めて、規約が想定する「乳の製品」として扱われる。
内容重量に対する使用量
さらにこの乳の製品は、コーヒー飲料等の内容重量に対して5パーセント以上使用されていることが条件になる[1]。成分基準を満たす乳を使っていても、使用量がこの割合に届かなければ「カフェ・オレ」等の表示はできない。つまり条件は「成分基準」と「使用量」の2段階で構成されており、どちらか一方だけを満たしても表示は成立しない。
| 用語 | 表示できる条件 |
|---|---|
| ブラック | 乳製品または乳化された食用油脂を使用しないこと[1] |
| ブラック+加糖表示 | 糖類使用時は「加糖」を同一視野に表示。ただし施行規則第3条第3号に基づく低糖・微糖等の表示をした場合は省略可[1] |
| ミルク入り/カフェ・オレ/カフェ・ラッテ | 乳脂肪3%以上・無脂乳固形分8%以上の乳の製品を、内容重量の5%以上使用[1] |
- 乳脂肪分と無脂乳固形分は、どちらも規約上の別々の基準値として定められている[1]
- 使用量の基準は「重量に対する割合」で定められており、味の濃さの印象とは別の指標である[1]
乳脂肪3%以上・無脂乳固形分8%以上という成分基準と、内容重量5%以上という使用量基準は、いずれも規約上は独立した条件として並んでいる[1]。片方だけを満たす製品は、規約が定める「カフェ・オレ」等の表示対象にはならない。
「微糖」だけ根拠が違う
含まない旨・低い旨・低減された旨
ここまでの「ブラック」「カフェ・オレ」等は公正競争規約が定める用語だが、「微糖」の表示が成立する根拠は少し違う場所にある。食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)は、栄養成分または熱量の適切な摂取ができる旨の表示について、含まない旨・低い旨・低減された旨という3つの区分を定めている[2]。含まない旨の表示は、対象となる栄養成分または熱量の量が基準値に満たない場合にすることができる[2]。低い旨の表示は基準値以下である場合、低減された旨の表示は他の同種の食品に比べて低減された量が基準値以上であり、かつ低減された割合が25パーセント以上である場合にすることができる[2]。
表示基準の系統は2つある
つまりこの記事で扱っている表示には、根拠となる法令・規約が2系統存在する。「ブラック」「ミルク入り」「カフェ・オレ」「カフェ・ラッテ」といった用語は、コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び同施行規則が定める特定用語の表示基準に基づく[1]。一方で「微糖」「低糖」のように糖類の量に関わる表示は、食品表示基準が定める含まない旨・低い旨・低減された旨の基準に基づいている[2]。同じパッケージの上で隣り合って印刷されているこれらの文字は、実は根拠となる規定が異なる2つの体系から来ている、という点がこのテーマの芯になる。
- 公正競争規約及び同施行規則: 「ブラック」「ミルク入り」「カフェ・オレ」「カフェ・ラッテ」の表示基準を定める[1]
- 食品表示基準: 「含まない旨」「低い旨」「低減された旨」の表示基準を定め、「微糖」「低糖」等の表示の根拠になる[2]
「ブラック」の表示条件の中に「低糖、微糖等の表示をした場合」という一節が出てくること自体が、2つの規定がパッケージの上でつながっている証拠である[1]。片方だけを読んでも、缶コーヒーの表示全体は説明できない。
絵や写真にも基準がある
表示に関する考え方は、文字として印刷された用語だけを対象にしているわけではない。コーヒー飲料等の公正競争規約の施行規則は、規約第6条が禁じる不当表示の類型の例として、「使用したコーヒー豆の量を誤認させるような絵及び写真等の表示」を挙げている[1]。消費者庁は景品表示法に関して、事例集や解説資料を継続的に公表しており、商品の表示が実際の内容と食い違う場合の考え方を広く扱っている[3]。缶コーヒーのパッケージを見るときも、「ブラック」「微糖」といった文字表示の条件だけでなく、パッケージに描かれた豆や液体の写真・イラストが実際の中身の印象と大きく異なっていないか、という観点自体は表示の適正性という枠組みの中に含まれている。表示の適正性は、文言だけを見れば足りるわけではない。
- 文字表示の基準(乳製品の有無、成分比率、使用量など)は公正競争規約及び食品表示基準に具体的な数値として定められている[1][2]
- 表示全体の適正性という観点は、消費者庁が公表する景品表示法関連の資料が扱う範囲でもある[3]
外国風の表示がある国内製造品の「国産」表示
外国らしく見える表示にも決まりがある。コーヒー飲料等の公正競争規約の施行規則は、国内で製造されたコーヒー飲料等であって、外国の国名・地名・国旗・紋章その他これらに類するものの表示、外国の事業者又はデザイナーの氏名・名称又は商標の表示、文字による表示の全部又は主要部分が外国の文字で示されている表示、のいずれかがなされているものについては、「国産」「日本製」又は「日本産」等と明瞭に表示するとしている[1]。これは国内で製造したすべての缶に「国産」と書く決まりではなく、外国風の表示があるときにだけかかる決まりである。さらに、国内の「製造者」の表示がある場合や、国内の製造所の所在地と製造者の氏名又は名称が表示されている場合は、「国産」等の表示を省略できるとされている。ただし、事業者の氏名又は名称が「○○カンパニー」「○○CO.LTD」等、外国の事業者の氏名又は名称と紛らわしい場合は除かれる[1]。英語のロゴの缶でも、裏面の製造者の欄が国内の事業者であれば、それで国内製造であることが示されている形になる。
表示の条件と、飲み物としての違いは別
表示はラベルの話、味の違いは別の話
ここまで見てきた条件は、あくまでパッケージにどの用語を印刷できるかという表示のルールである。「カフェ・オレ」と「カフェ・ラッテ」の味や抽出方法としての違い、あるいは「アメリカーノ」と「ロングブラック」の抽出手順の違いは、この規約が定める表示条件とは別の話になる。缶コーヒーの表示条件を理解したうえで、飲み物そのものの成り立ちの違いを知りたい場合は、カフェオレとカフェラテの違いやアメリカーノとロングブラックの違いで扱われている内容の方が参考になる。
この記事の位置づけ
この記事で扱ったのは、缶コーヒーや紙パック飲料のラベルに印刷される用語が、どのような条件を満たして初めて成立するかという一点に絞った内容である。淹れ方やレシピの話には触れておらず、あくまで表示の条件だけを一次資料に基づいて確認してきた。表示に関する規約がどのような枠組みの中にあるのかについては、前段にあたる整理をコーヒーの銘柄名は「どこで採れたか」で決まっているで扱っている。
結論
缶コーヒーのラベルに並ぶ「ブラック」「微糖」「カフェオレ」は、それぞれ異なる条件をくぐり抜けて初めて印刷される言葉である。「ブラック」は乳製品・乳化された食用油脂を使わないことが条件で、糖類を使えば原則「加糖」の併記が必要になるが、食品表示基準に沿って低糖・微糖等の表示をした場合はその併記は省略できる[1]。「ミルク入り」「カフェ・オレ」「カフェ・ラッテ」は乳脂肪3パーセント以上・無脂乳固形分8パーセント以上の乳の製品を内容重量の5パーセント以上使うことが条件であり[1]、「微糖」はこれらとは別に食品表示基準の含まない旨・低い旨・低減された旨という区分に根拠を持つ[2]。次に缶コーヒーの棚の前に立ったときは、ラベルの文字を味の予告として読むだけでなく、どちらの規定に基づいて印刷された言葉なのかを一度分けて眺めてみると、パッケージの見え方が少し変わってくる。
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参考文献
- コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び同施行規則
https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b03_H_cancoffee.pdf - 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)/e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010 - 消費者庁「景品表示法」(関係法令等・解説資料の一覧)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/
