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さび病で収量はどれだけ落ちるのか|「最大35%」「35〜50%」「75%超」はそれぞれ何の値か

さび病で収量はどれだけ落ちるのか|「最大35%」「35〜50%」「75%超」はそれぞれ何の値か

コーヒーさび病(Hemileia vastatrix)による収量への影響は一本の数字では言い切れず、資料によって「最大35%」「35〜50%」「75%超」といった異なる幅が示されている[1][2][3]。近年の中米・コロンビア・ペルー・エクアドルで広がった激しい流行では、減収は最大35%に達したとされる[1]。これらの数字は、どんな状況の値か、当年の損失か翌年以降に及ぶ損失か、さび病単独か複数の病害虫をまとめた値かという前提が同じではない。

この記事の結論
  • 収量減少は一本の数字では示せず、最大35%・10〜40%・35〜50%・75%超と幅が資料ごとに異なる。
  • Cerdaらの1圃場では複数病害虫の一次損失26%より二次損失38%が大きく、翌年以降の損失が上回る場合がある。
  • 数字を比べる際は、状況・当年か翌年以降か・さび病単独か複数病害虫かの3点を確かめたい。

この記事は「コーヒー豆を知る完全ガイド|産地・品種・精製・焙煎でわかる味の地図」の各論です。

目次

総説が示す数字:Talhinhasら(2017)とSilvaら(2006)

さび病で収量は何%落ちるのか、と問われたとき単一の答えは存在しない。研究者ごとに前提となる状況が違うため、示される数字も大きく揺れる。まず、さび病菌の生態と分布を広く整理した総説の記述から見ていく。

Talhinhasらの「最大35%」は近年の流行を指す

Talhinhasらの2017年の論文は、さび病菌Hemileia vastatrixの生態や分布を150年余りの範囲で振り返った総説である。本文では、近年の中米・コロンビア・ペルー・エクアドルにおける激しく広範な流行について、減収が最大35%に達したと述べる[1]。この論文の要約部分でも、さび病は最大35%の減収を起こしうるうえ、その後の年にも及ぶ流行学的な影響(polyetic epidemiological impact)を持つとまとめられている[1]。本文での「最大35%」は、中米などで実際に広がった激しい流行について示された値であり、平常時の被害幅として示された値ではない点に注意が要る。

Silvaらの「10〜40%」という幅

Silvaらの2006年の論文は、さび病とコーヒーベリー病という二大病害への抵抗性を扱った総説である。この論文は、さび病がコーヒー生産国全域に広がっており、最大で10〜40%の損失を起こしうると述べる[6]。Talhinhasらと同様に「最大」「〜しうる」という留保付きの表現が使われている一方、どのような流行を想定した数字かは本文に明記されていない。2006年3月に刊行された総説なので、後述する2008〜2013年のコロンビア・中米の流行より前に書かれた数字である。

深掘りメモ|「最大」の重み

「最大35%」も「最大10〜40%」も、平均値ではなく上限を示す表現である。平均的な年の被害幅を知りたい読者がこの数字だけを見ると、実際より重い印象を持ちやすい。

後続の論文が示す数字:Berny Mier y Teranら(2025)とWorld Coffee Research(2025)

2020年代に入って発表された資料でも、さび病による減収は幅を持った数字で語られている。ここでは数字が更新されたというより、参照する文献や状況の切り出し方の違いが表に出ている。

Berny Mier y Teranらの「35〜50%」

Berny Mier y Teranらの2025年の論文は、世界各地で行われたアラビカ品種の比較試験を通じて、さび病への抵抗性が環境ごとに異なることを検討したものである。この論文の序論は、さび病が大量のオレンジ色の胞子塊を生じさせ早期の落葉や枯死に至ると説明したうえで、収量を35%から50%減らしうるとし、その根拠としてTalhinhasら(2017)とZambolim(2016)の2文献を並べて引用している[2]。Talhinhasら自身の本文が示した数字は「最大35%」であったのに対し、Berny Mier y Teranらの序論では別の文献と並べて「35〜50%」という幅にまとめられている。どちらの文献がこの35〜50%という幅の由来なのかは、この序論からは確かめられない。

激甚な場合の「75%超」

同じ序論は続けて、激甚な場合には収量損失が75%を超えるとし、Bebberら(2016)とKoutouleas(2023)の文献を引用している[2]。この「75%超」は、35〜50%という数字とは別に、激甚な場合に限って示された値である[2]。35〜50%のほうは、どんな状況を想定した値かを序論は書いていない。

World Coffee Researchが報じた「35%から75%超」

World Coffee Researchが2025年6月に公開したニュース記事は、さび病による落葉・品質低下と並べて、減収は35%から、激甚な場合は75%を超える幅に及ぶと述べている[3]。この記述はBerny Mier y Teranらの論文が示した「35〜50%」「75%超」という二つの数字と近い構図を持つが、ニュース記事は研究論文そのものではなく、研究成果を紹介する二次的な記事である。数字の出どころが異なる資料に複数現れているという事実は、それぞれの資料が何を指して数字を示したかを個別に確認する手間を減らすものではない。

深掘りメモ|数字の幅をどう見るか

「最大35%」と「35〜50%」は同じ流行を指しているとは限らない。どちらが正確かを本記事の範囲で判定することはできず、数字を比べるときはまず対象にした年や地域が同じかどうかを確認したい。

当年の損失と翌年の損失:Avelinoら(2015)とCerdaら(2017)

さび病の被害を語る数字には、いつの損失を指しているかという軸も欠かせない。この軸を明確に定義したのがAvelinoらの論文である。

一次損失と二次損失の定義

Avelinoらの2015年の論文は、2008年から2013年にかけて中米とコロンビアで広がった深刻な流行を検討したものである。この論文は、ある年の流行が翌年以降の生産性に及ぼす損失を二次損失と呼び、これはさび病が重度に感染した枝を枯らし、その枝が翌年に結実できなくなることで生じるとしている[4]。一方、その年の収穫そのものに現れる損失は一次損失と呼ばれ、Avelinoらはこれを二次損失より重要度が低いものとして位置づけている[4]。当年の被害よりも翌年以降への影響のほうが大きいというこの整理は、単年の減収率だけでさび病の被害全体を測れない理由の一つになっている。

Cerdaらの実験値とその条件

Cerdaらの2017年の論文は、コスタリカ・トゥリアルバのCATIE(熱帯農業研究高等教育センター)の農場に設けた1つの試験圃場で、2013〜2015年に農薬散布の順序を変えた処理を比べ、病害虫による一次損失と二次損失を測ったものである[5]。損失は毎年防除した区画の収量との比較で算出され、病害虫による一次損失は26%、それより大きい二次損失は38%と示された[5]。構造方程式モデリングは、収量を左右する要因を特定するために使われている[5]。ここで注意したいのは、この26%と38%がさび病だけを取り出した数字ではなく、葉に付く複数の病害虫をまとめた損失である点、そして1つの試験圃場で得られた値である点である[5]。さび病単独の値として引用すると、この数字の意味を取り違えることになる。

数字を読むための3つの物差し

ここまでに出てきた数字は、それぞれ異なる前提の上に立っている。3つの物差しに沿って整理すると、数字同士の関係が見えやすくなる。

3つの物差しとは

数字を比較する前に、次の3点を確認する必要がある。

  • どんな状況の値か(流行時/激甚な場合/状況の記載なし)
  • 当年の損失か、翌年以降に及ぶ二次的な損失か
  • さび病単独の値か、複数の病害虫を合算した値か

この3つがずれたまま数字だけを並べると、単純な比較ができなくなる。特に「状況の記載なし」の数字を「ふつうの被害の幅」として読むのは早計で、記載が無いことは平常時の値であることを意味しない。

本文に出た数字を当てはめる

上に出てきた数字を3つの物差しに沿って整理すると、次の表のようになる。

数値出典どんな状況の値かいつの損失か対象
最大35%Talhinhasら(2017)[1]近年の中米等での流行時当年+後年への影響ありさび病単独
最大10〜40%Silvaら(2006)[6]記載なし記載なしさび病単独
35〜50%Berny Mier y Teranら(2025)[2]記載なし記載なしさび病単独
75%超Berny Mier y Teranら[2]/World Coffee Research[3]激甚な場合記載なしさび病単独
一次損失26%Cerdaら(2017)[5]単一試験圃場当年複数の病害虫
二次損失38%Cerdaら(2017)[5]単一試験圃場翌年以降複数の病害虫

この表から分かるのは、35%という数字ひとつでも「近年の流行時」という条件付きで示された値と、条件が明記されていない値が混在しているということである。原本同士で数字が食い違うときも、どちらかを誤りとするのではなく、どの定義に基づく値かを条件ごとに書き分けるほうが実情に近い。

数字を引用するときの心得と関連トピック

数字の出どころと条件を整理したうえで、実際に引用する際の考え方と、関連する話題への案内をまとめる。

3つの条件を添えて引用する

さび病の被害を数字で語るときは、上で見た3つの条件(状況・当年か翌年以降か・さび病単独か複数の病害虫か)を添えて引用するのが安全である。「さび病で収穫が半減する」という言い方は、本記事で見た資料には見当たらない一般化であり、実際に資料に出てくる数字は最大10〜40%、最大35%、35〜50%、75%超と、書き方も前提もそろっていない。数字を一つだけ切り出して覚えるより、その数字がどの条件に紐づいているかを一緒に持ち帰るほうが、後で別の資料の数字と比べるときに役立つ。

日陰栽培という視点

さび病の発生や被害の出方は栽培環境によっても変わるとされ、日陰栽培(シェードグロウン)がどのように関わるのかという全体像は、日陰栽培についての記事でまとめている。

さび病に強い品種という視点

さび病への耐性を持たせた品種づくりも進められており、その具体例のひとつはカスティージョという品種を扱った記事で紹介している。品種による抵抗性の違いは、Berny Mier y Teranらの比較試験が扱っていた主題そのものでもある[2]。

結論

数字が示すもの

「さび病で収量はどれだけ落ちるのか」という問いに対して、資料は「最大35%」「10〜40%」「35〜50%」「75%超」という異なる幅を示している。これらは互いに矛盾する数字というより、どんな状況の値か、当年か翌年以降か、さび病単独か複数の病害虫をまとめた値かという前提が異なる値だと捉えるほうが正確である。Avelinoらが定義した一次損失・二次損失の区別やCerdaらの実験値が示すように、当年よりも翌年以降の損失のほうが大きくなる場合がある点も、単年の減収率だけでは見えてこない。

次に読むときの視点

さび病の減収率に関する数字を見かけたら、その数字が何年の、どの規模の流行を指しているのか、そしてさび病単独か複数の病害虫の値なのかをまず確認する習慣を持ちたい。品種や栽培環境による違いに関心が向いた読者は、日陰栽培や耐性品種についての各記事も合わせて確認してほしい。

参考文献

  1. The coffee leaf rust pathogen Hemileia vastatrix: one and a half centuries around the tropics
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6638270/
  2. Global Coffea arabica variety trials reveal genotype-by-environment interactions in resistance to coffee leaf rust (Hemileia vastatrix)
    https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2025.1583595/full
  3. Coffee leaf rust knows no borders—neither does coffee science
    https://worldcoffeeresearch.org/news/2025/coffee-leaf-rust-knows-no-borders-neither-does-coffee-science
  4. The coffee rust crises in Colombia and Central America (2008–2013): impacts, plausible causes and proposed solutions
    https://link.springer.com/article/10.1007/s12571-015-0446-9
  5. Primary and Secondary Yield Losses Caused by Pests and Diseases: Assessment and Modeling in Coffee
    https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0169133
  6. Coffee resistance to the main diseases: leaf rust and coffee berry disease
    https://www.scielo.br/j/bjpp/a/dTHqD9SqgdJtq9wHCf9Hp6R/?format=html&lang=en

この記事を書いた人

Coffee Pick Lab は、コーヒー知識メディア Coffee Pick をつくっている編集ラボです。国際コーヒー機関や全日本コーヒー協会の統計、ISO や公正競争規約などの規格・法令、査読論文、生産国の公的資料——一次資料を原典で読むことを出発点にしています。英語や現地語の資料の読み解きと下書きにはAIを使い、数字・年代・固有名詞は人が出典に当たり直して、裏が取れないものは落としてから公開します。編集方針と制作工程は運営者情報にまとめています。

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