中米のさび病(ロヤ)による2012/13年の被害は、公表時期によって270万袋・17.1%減とも350万袋・19%超とも書かれている[1][3]。発表した機関・時期・対象地域・指標が資料ごとに異なるため、数字だけを並べて比べることはできない。
- 中米のさび病被害は270万袋とも350万袋とも書かれるが、条件が違うため単純比較はできない。
- 数字は発行主体・公表時期・地域の範囲・指標という4つの軸によって異なっている。
- PROMECAFÉかICOか、いつ公表された推計か、メキシコを含む地域か、損失量か前年比かを確かめると読み方が分かれる。
この記事は「コーヒー豆を知る完全ガイド|産地・品種・精製・焙煎でわかる味の地図」の各論です。
「270万袋」と「350万袋」はどちらも公的資料の数字である
ICO月報2013年3月の230万袋
ICOの月報2013年3月号は、PROMECAFÉによる推計として、中米のさび病被害を230万袋、金額にして約US$5億5,000万、直接雇用の喪失を約44万1,000人と紹介している[2]。同じ月報は続けて、世界の2012/13年産の生産量は推計1億4,460万袋のままだとしている[2]。
ED 2157/13の270万袋・17.1%減
2013年5月13日付のICO事務局長報告ED 2157/13は、PROMECAFÉの数値として2012/13年の損失見込みを270万袋、約US$5億と更新した[1]。この報告書の表1は「PROMECAFÉ countries」という表題で、ドミニカ共和国やジャマイカも含めた国々の数字を並べている。同じ報告書は、この損失270万袋を、メキシコを除く中米の2011/12年生産1,580万袋と比べて17.1%減にあたると記している[1]。
「17.1%」は中米全体の減少率と言い切れない
ここで注意が必要なのは、17.1%という比率の作り方である。分子にあたる270万袋はPROMECAFÉ countriesという枠(ドミニカ共和国・ジャマイカを含む集計)から来ており、分母にあたる1,580万袋はメキシコを除く中米という別の枠から来ている[1]。分子と分母が同じ地域区分を指していないため、この17.1%を「中米全体の減少率」とそのまま言い切ることはできない。引用するときは、ICOの報告書が示した比率であることと、損失側と分母側で地域の書き方が違うことを添える必要がある。
17.1%という値は、損失側(表1の題はPROMECAFÉ countries)と分母側(メキシコを除く中米の生産)で地域の書き方が違う比であり[1]、「中米の減少率」と言い切れる値ではない。
6月推計で350万袋に上がった理由は資料に書かれていない
PROMECAFÉ・IICAの共同報告(2013年6月)
2013年6月に公表されたPROMECAFÉとIICAの共同報告は、PROMECAFÉ加盟7か国とニカラグアで2012〜2013年にコーヒー栽培に充てられた面積の55%がさび病の被害を受けたとし、損失を19%超(60kg袋で350万袋)、あるいはUS$4億9,900万(総生産の16%)と推計している[3]。離職した労働者は37万3,584人と見積もられ、これはコーヒー部門の労働力の17.2%にあたるとされる[3]。80%を超えるコーヒー生産者が他の収入源を持たない小規模農家であるという指摘も同じ報告に含まれている[3]。
「19%」と「16%」は同じ物差しではない
この報告の文章を読むと、19%超という数字は袋数(350万袋)に対応し、16%という数字は金額(US$4億9,900万)に対応していることがわかる[3]。同じ一文の中に置かれているため一見同じ「被害率」に見えるが、19%は数量ベース、16%は金額ベースの比率であり、物差しが異なる。数量の減り方と金額の減り方が同じ割合で動くとは限らないため、この2つを混同して「被害は19%」とだけ書くと不正確になる。
袋数は上がり、金額はほぼ変わらなかった
ED 2157/13(2013年5月)の270万袋・約US$5億という数字と、PROMECAFÉ・IICA(2013年6月)の350万袋・US$4億9,900万という数字を並べると、袋数は270万袋から350万袋へ増えている一方、金額は約US$5億とUS$4億9,900万でほとんど変わっていない[1][3]。この並びは資料に記された事実として書けるが、なぜ袋数だけが上振れしたのかは、本記事が参照した資料からは読み取れない。時期の異なる2つの推計が同じ現象を別の断面で捉えた、という以上のことは言えない。
- 損失270万袋・約US$5億(ED 2157/13、2013年5月13日)[1]
- 損失350万袋・US$4億9,900万(PROMECAFÉ・IICA、2013年6月)[3]
袋数の推計は270万袋から350万袋に変わったが、金額は約US$5億とUS$4億9,900万でほぼ同じ水準にある[1][3]。なぜそうなったのかは資料に書かれておらず、この記事でも推測しない。
「7%減」はUSDA報告として紹介された別の指標
メキシコを含む地域区分での前年比
米国務省の経済・ビジネス局が公開していたページは、USDAの報告として、2012/13年のメキシコと中米の生産量が7%減の1,790万袋になると紹介している[5]。2013/14年についてはさらに8%減となり、1,650万袋まで落ち込むという予測も併せて示されている[5]。
「損失見込み」ではなく「生産量の前年比」
この7%という数字は、これまで見た270万袋や350万袋のような「被害の損失量」を表す指標ではない。メキシコを含む地域全体の生産量そのものが、前年と比べてどれだけ減るかという前年比の指標である[5]。地域の範囲にメキシコが含まれる点も、PROMECAFÉ系の資料(メキシコを除く中米、あるいはPROMECAFÉ countries)とは異なる。同じページはICOの見通しとして、さび病による生産減少の結果、この年に37万4,000人のコーヒー部門の労働者が離職すると見込まれていることも紹介している[5]。
- 地域区分:メキシコ+中米(PROMECAFÉ系資料はメキシコを除く中米、またはPROMECAFÉ countries)
- 指標:生産量の前年比(損失見込みではない)
2013年9月の推計では14.7%減とされた
ICO月報2013年9月の暫定値
ICO月報2013年9月号は、メキシコと中米の生産が2011/12年の2,030万袋から2012/13年には推計1,730万袋へ、14.7%減少したと報告している[4]。月報は2012/13年の数値はすべて推計だと断っており、国別の減少率も暫定の見込みとして示している[4]。
国別に見た暫定の減少率
同じ月報は国別の暫定減少率も並べており、ニカラグアが最も大きく39.3%減、続いてグアテマラが18.2%減、ホンジュラスが17%減、メキシコが14.5%減とされている[4]。一方でコスタリカ(+14.5%)とエルサルバドル(+7.9%)では増産が推計されており、地域全体が一様に減少したわけではないことがわかる[4]。
- ニカラグア:−39.3%(暫定)[4]
- グアテマラ:−18.2%(暫定)[4]
- ホンジュラス:−17%(暫定)[4]
- メキシコ:−14.5%(暫定)[4]
- コスタリカ:+14.5%(推計)[4]
- エルサルバドル:+7.9%(推計)[4]
これらの数値はいずれも暫定の推計値であり、確定した最終統計として扱うべきではない[4]。ホンジュラスやグアテマラの産地事情については、ホンジュラスのコーヒーやグアテマラの産地ガイドでより詳しく扱っている。
5つの数字を1つの表で並べる
これまで見た数字は、発行主体・公表時期・地域の範囲・指標のいずれかが異なっている。足し引きして新しい比率を作ることはせず、それぞれの資料に書かれている値をそのまま並べる。
| 発行主体 | 公表時期 | 地域の範囲 | 指標 | 値 |
|---|---|---|---|---|
| ICO(PROMECAFÉ推計を紹介)[2] | 2013年3月 | 中米 | 損失見込み・金額・雇用 | 230万袋/約US$5億5,000万/約44万1,000人 |
| ICO事務局長報告 ED 2157/13(PROMECAFÉ数値)[1] | 2013年5月13日 | メキシコを除く中米(分子はPROMECAFÉ countries) | 損失見込み・前年比 | 270万袋/17.1%減 |
| PROMECAFÉ・IICA[3] | 2013年6月 | 中米(面積はPROMECAFÉ加盟7か国とニカラグア) | 数量比・金額・金額比・雇用 | 350万袋(19%超)/US$4億9,900万(総生産の16%)/37万3,584人 |
| 米国務省アーカイブ(USDA報告として紹介)[5] | 記載なし | メキシコ+中米 | 生産の前年比 | 2012/13年7%減(1,790万袋)/2013/14年さらに8%減(1,650万袋) |
| ICO月報2013年9月[4] | 2013年9月 | メキシコと中米 | 生産の前年比(暫定) | 14.7%減(2,030万袋→推計1,730万袋) |
表を横に見ると、同じ「中米」という言葉が資料ごとにメキシコを含むか除くかで違うこと、「損失」と「生産の前年比」という異なる指標が混在していることがわかる。ニュースや解説記事で「中米のさび病被害は270万袋」「7%減」とだけ書かれているとき、実際にはこの表のどの行を指しているのかを確かめる必要がある。
なぜ2012年に流行が広がったのか
気温の日較差の縮小という共通要因
Avelinoらの2015年の論文は、コロンビアと中米で近年起きたさび病の流行に共通する要因の1つとして、昼夜の気温差(日較差)の縮小を挙げている[6]。具体的には、最低気温が上昇し最高気温が低下するという変化であり、コロンビアのチンチナでは1991〜1994年の低発生期と比べて2008〜2011年平均で最低気温+0.1°C・最高気温−0.5°Cの変化が見られたとされる[6]。
2012年はより大きな振れを示した
同じ論文は、グアテマラの1,224農園について、2012年は平年の気候と比べて最低気温が平均+0.9°C、最高気温が平均−1.2°C変化したと報告している[6]。同じ論文は、これらの流行の主な要因を経済と気象の両面に置き、2012〜13年の中米の流行はコーヒー価格の下落による低収益期と重なっていたこと、低収益が不十分な栽培管理を招き、病害虫に弱い状態をつくったことも挙げている[6]。
Avelinoらは、日較差の縮小がさび病の潜伏期間を短くした可能性が高いとしつつ、流行の主な要因としては経済と気象の両方を挙げている[6]。
結論:数字を見るときに確認すべき4つの軸
中米のさび病被害を表す数字は、270万袋・350万袋・7%・14.7%のいずれも、それぞれの資料に書かれている値である。問題が起きるのは、これらを「発行主体」「公表時期」「地域の範囲」「指標」という条件を外して並べたときである。ED 2157/13の17.1%も、損失をまとめた表1の題(PROMECAFÉ countries)と分母の書き方(メキシコを除く中米)が違う比なので、条件付きで読む必要がある[1]。
読者としてできることは、記事やニュースで中米のさび病の数字を見かけたときに、「それはPROMECAFÉの推計か、ICOの月報か」「いつ公表された推計か」「メキシコを含む地域か」「損失量か、生産量の前年比か」の4点をまず確認することである。産地ごとの被害の受け止め方はさらに個別性が強く、ホンジュラスのコーヒーやグアテマラの産地ガイド、コスタリカ・タラスの産地情報で扱う内容と合わせて読むと、被害の実相と数字の関係がより見えやすくなる。コーヒー価格そのものの決まり方に関心がある場合は、コーヒーのC市場価格の仕組みも手がかりになる。
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参考文献
- Report on the outbreak of coffee leaf rust in Central America and Action Plan to combat the pest(ICO 事務局長報告 ED 2157/13・2013年5月13日)
https://www.ico.org/documents/cy2012-13/ed-2157e-report-clr.pdf - Monthly Coffee Market Report March 2013(ICO・2013年3月)
https://www.ico.org/documents/cy2012-13/cmr-0313-e.pdf - La crisis del café en Mesoamérica: Causas y respuesta apropiadas(PROMECAFÉ・IICA・2013年6月)
http://promecafe.net/documents/Publicaciones/la%20roya%20en%20centroamerica.pdf - Monthly Coffee Market Report September 2013(ICO・2013年9月)
https://www.ico.org/documents/cy2012-13/cmr-0913-e.pdf - Coffee Rust Outbreak in Central America, Southern Mexico, and the Caribbean(米国務省 経済・ビジネス局アーカイブ)
https://2009-2017.state.gov/e/eb/tpp/agp/coffee/index.htm - The coffee rust crises in Colombia and Central America (2008–2013): impacts, plausible causes and proposed solutions(Avelino ほか・Food Security 7:303–321・2015)
https://link.springer.com/article/10.1007/s12571-015-0446-9
