コーヒー豆の袋に並ぶ言葉には、日本の公正競争規約が意味を決めている言葉と、生産国の規格に中身を預けている言葉がある[1]。ブルーマウンテンは規約の別表2で「ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆」と地区まで定められているが、コロンビアスプレモは「コロンビアにて生産された同国輸出規格に基づくアラビカコーヒー豆」とされ、中身の基準は生産国の規格に預けられている[1]。袋の言葉を4つの表に分けると、それぞれが何を約束していて何を約束していないかを一覧で引ける。
この記事は「コーヒー豆を知る完全ガイド|産地・品種・精製・焙煎でわかる味の地図」の各論です。
表示は二つの系統に分かれる
コーヒーの袋に印刷された言葉は、見た目では同じ「産地や製法を示す言葉」に見えても、誰がその意味を決めているかで二種類に分かれる。一つは「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約及び同施行規則」が範囲や条件を書いている言葉であり、もう一つは規約が「同国輸出規格に基づく」とだけ書くか、そもそも規約に定めが無く、中身の基準が生産国の側にある言葉である[1][2]。この記事の四つの表は、いずれもこの二分類のどちらに属するかが分かる構成になっている。
日本の公正競争規約が意味を定める言葉
規約の別表2は、ブルーマウンテンやハイマウンテンのように、産地の範囲を地区名で例示している[1]。施行規則は、一括表示の枠内に何を書くべきかや、炭焼き・炭火焼といった熱源名の冠表示ができる条件、カフェインレスと表示できる除去量の条件を定めている[1]。これらは、袋を見た消費者が規約の定義に沿って中身を推測できる言葉である。
生産国の規格に基準を委ねる言葉
一方で、クリスタルマウンテンやコロンビアスプレモのように、規約が「同国輸出規格に基づく」と書くだけで、粒の大きさや品質の基準そのものは書いていない言葉もある[1]。等級を示すAA・AB・PBなども、規約の中には定めが無く、ケニアではコーヒーの一般規則が等級の定義を表で定めている[2]。これらの言葉を読むには、規約の定義だけでは足りず、生産国側の資料に基準があることを踏まえる必要がある。
表1 銘柄名が指す産地の範囲
規約の別表2は、産地・品種・銘柄の区分及び範囲を14件例示している[1]。
| 銘柄名 | 指す地域 | 品種の限定 |
|---|---|---|
| ブルーマウンテン | ジャマイカ・ブルーマウンテン地区 | アラビカ[1] |
| ハイマウンテン | ジャマイカ・ハイマウンテン地区 | アラビカ[1] |
| ジャマイカ | ジャマイカ(ブルーマウンテン・ハイマウンテンを除く) | アラビカ[1] |
| クリスタルマウンテン | キューバ(同国輸出規格に基づく) | アラビカ[1] |
| グアテマラアンテイグア | グアテマラ・アンテイグア地区 | アラビカ[1] |
| コロンビアスプレモ | コロンビア(同国輸出規格に基づく) | アラビカ[1] |
| モカハラー | エチオピア・ハラー地区 | アラビカ[1] |
| モカマタリ | イエメン | アラビカ[1] |
| キリマンジャロ | タンザニア(ブコバ地区でとれるものは含まない) | アラビカ[1] |
| トラジャ | インドネシア・スラウェシ島トラジャ地区 | アラビカ[1] |
| カロシ | インドネシア・スラウェシ島カロシ地区 | アラビカ[1] |
| ガヨマウンテン | インドネシア・スマトラ島タケンゴン地区 | アラビカ[1] |
| マンデリン | インドネシアの北スマトラ州及びアチェ州(タケンゴン周辺のガヨマウンテン生産地区を除く) | アラビカ[1] |
| ハワイコナ | アメリカ・ハワイ州の南コナ地区及び北コナ地区 | アラビカ[1] |
表を縦に見ると、産地を「地区」まで絞る銘柄(ブルーマウンテン、グアテマラアンテイグア、トラジャ、ハワイコナなど)と、「国」や「州」までしか絞らない銘柄(ジャマイカ、モカマタリ、キリマンジャロ、マンデリン)、そして「同国輸出規格に基づく」として基準そのものを生産国へ預ける銘柄(クリスタルマウンテン、コロンビアスプレモ)の三種類が並んでいる。品種の限定は14件すべてがアラビカである。
別表2の例示に見る産地限定の型
銘柄名がどこまで地域を絞っているかは、銘柄ごとに規約が個別に定めている範囲であり、一律の規則があるわけではない。キリマンジャロやマンデリンのように、同じ国や州の中で特定の地区を名指しで外している銘柄もある[1]。銘柄名がなぜ地理で定められているのか、その仕組みについては、産地・銘柄名の定義を扱う記事で詳しく確認できる。
「○○ブレンド」と書くための使用割合の条件
銘柄名は、袋の上で「○○ブレンド」の形で使われることも多い。施行規則は、産地・品種・銘柄等を冠して「○○○ブレンド」と表示する場合は、その生豆を30パーセント以上使用しているものに限るとし、特定の産地・品種・銘柄等の生豆だけを使っている旨を表示する場合は、それ以外の生豆を使ってはならないとしている[1]。袋と缶で割合の基準がどう違うかは、ブレンド表示の使用割合を扱う記事に委ねる。
「○○ブレンド」という表示が約束しているのは、その豆が30パーセント以上入っていることまでである[1]。袋の前面に銘柄名が大きく書かれていても、実際に何割入っているかは、この表示の言葉からは読み取れない。
表2 一括表示の欄でわかること
規約は、見やすい場所に邦文で一般消費者に分かりやすい用語を用い、明瞭に一括して枠内に表示するよう求めている[1]。枠内に書くべき項目として規約が挙げるのは次の11項目で、施行規則は、規約の各号の順に一括して枠内に表示するとしている[1]。
| 表示欄 | 分かること |
|---|---|
| 品名又は名称 | レギュラーコーヒーかインスタントコーヒーか(混ぜたものは「レギュラーコーヒー(インスタントコーヒー入り)」等と書く)[1] |
| 原材料名 | 原材料と、生豆の生産国名[1] |
| 内容量 | 袋に入っている量[1] |
| 賞味期限 | 期限の日付[1] |
| 保存方法 | 「直射日光を避ける」など保存のしかた[1] |
| 使用上の注意 | 「開封後はできるだけ早く使用する」など(一括して書くのが難しい場合は近接した他の箇所に書ける)[1] |
| 挽き方 | レギュラーコーヒー粉製品に限り「粗(荒)挽き」「細挽き」等(豆製品とインスタントコーヒーには書かない)[1] |
| 原産国名 | 輸入品に限り、原産国名[1] |
| 食品関連事業者の氏名又は名称及び住所又は所在地 | 表示内容に責任を持つ事業者[1] |
| 製造所又は加工所の所在地及び製造者又は加工者の氏名又は名称 | 製造・加工をした所と者(輸入品は輸入業者の営業所の所在地と輸入業者の名前)[1] |
| 栄養成分の量及び熱量 | たんぱく質・脂質・炭水化物・ナトリウムの量と熱量(規約に定めるコーヒーは省略できる)[1] |
一括表示の枠は、銘柄名や等級のような産地の背景情報とは別に、その袋が何であるかを最低限保証する項目の集合である。原材料名の欄には生豆生産国名が含まれるため、袋の表側に銘柄名が大きく書かれていなくても、この欄を確認すれば生豆の生産国を読み取れる。ただしブレンドでは主要な国が原則として重量の多い順に書かれ、3か国以上使っている場合は重量の割合の高いものから順に2か国以上が書かれて、残りは「その他」又は「他」とまとめられるので、すべての国が分かるとは限らない[1]。
枠内表示が求める項目
品名又は名称の欄は、レギュラーコーヒーとインスタントコーヒーのどちらであるか、あるいは一方に他方を混ぜたものであるかを区別するための欄である[1]。内容量と賞味期限は、産地や製法とは無関係に、どの袋にも共通して求められる項目である。一括表示の枠に書かれる各項目の詳しい書き方や、省略してよい項目については、一括表示の項目を扱う記事にまとめられている。
原材料名に生豆生産国名が入る意味
原材料名の欄に生豆生産国名が含まれることは、銘柄名という任意の表示とは別に、原材料の出所を確認できる手段が用意されていることを意味する。銘柄名を冠していない袋であっても、この欄を見れば生豆の生産国を確認できる(3か国以上のブレンドでは、重量の割合の高い2か国以上まで)。
表3 製法・焙煎の言葉と条件
製法や熱源を冠した言葉は、規約上、名乗るための条件が個別に定められている。
| 表示できる言葉 | 名乗れる条件 |
|---|---|
| 炭焼き・炭火焼 | 生豆の焙煎開始時から終了までの一貫工程で、同一の熱源を用いた場合に限る[1] |
| 炭火焼〇〇ブレンド | ブレンドを構成する全てのコーヒーが、冠表示される熱源のみによって焙煎されたものに限る[1] |
| スプレードライ・フリーズドライ・アグロメレーション | 別表3に定める製法により製造されたものに限る[1] |
| カフェインレスコーヒー・デカフェネィテッドコーヒー | カフェインを90パーセント以上除去したコーヒー[1] |
熱源を冠した表示とカフェインレスの表示は、どちらも「一部だけ条件を満たしていればよい」という言葉ではなく、工程全体または除去量が条件を満たしている場合に使える言葉である。別表3の三つの製法(スプレードライ、フリーズドライ、アグロメレーション)は、それぞれ製造方法として個別に定義されている。
炭焼き・炭火焼という熱源の冠表示
炭焼き・炭火焼という言葉を製法上の特性として冠表示できるのは、生豆の焙煎開始時から焙煎終了までの一貫工程において、同一の熱源を用いた場合に限られる[1]。ブレンド製品に熱源名を冠する場合も、ブレンドを構成するすべてのコーヒーがその熱源のみで焙煎されている必要があり、一部の豆だけが炭火焼きであれば冠表示はできない[1]。この条件のより詳しい解説は、炭焼き・炭火焼の表示条件を扱う記事にまとめられている。
スプレードライ・フリーズドライ・アグロメレーションという別表3の製法
スプレードライ法は、抽出されたコーヒー液の水分を瞬間的に蒸発乾燥させ、粉状のコーヒーを製造する方法をいう[1]。アグロメレーションは、スプレードライで製造されたコーヒーを顆粒状に造粒する方法をいう[1]。フリーズドライ法は、コーヒー抽出液を凍結し、真空状態で水分を昇華させて顆粒状のコーヒーを製造する方法をいう[1]。これらの製法名を表示する場合は、別表3に定める当該製法により製造されたものに限られる[1]。
カフェインレスという言葉の条件
カフェインを90パーセント以上除去したコーヒーは、「カフェインレスコーヒー」「デカフェネィテッドコーヒー」等と表示する[1]。除去の方法そのものについては、カフェインレスの加工方法を扱う記事で詳しく確認できる。
スプレードライ・フリーズドライ・アグロメレーションといった製法名は、別表3に定める方法で製造された場合に限って表示できる[1]。袋にこれらの言葉があれば、それは別表3の定義に沿った製法で作られたことを意味する。
表4 等級の言葉と根拠
等級を示す言葉は、表1〜表3と違い、日本の規約の中には定めが無い。表4は、生産国の規格の原文で定義を確かめられた等級に限っている。ケニアの作物(コーヒー)一般規則(2019年)は、附則の「標準コーヒー等級」で、等級ごとの豆の形とふるいの目を次のように定めている[2]。
| 等級 | 規則の説明 | ふるい(スクリーン番号) |
|---|---|---|
| AA | 平豆 | 21を通り18に残る(7.2 mm)[2] |
| AB | 平豆 | 18を通り16に残る(6.35 mm)[2] |
| PB(ピーベリー) | 本来2つある胚珠のうち1つだけが育った豆 | 17を通り12に残る(4.76 mm)[2] |
| C | 小さい平豆 | 16を通り10に残る(3.96 mm)[2] |
| E(エレファント) | 2粒がくっついた遺伝的な欠点豆で、非常に大きな AA を含む | 21に残る(8.3 mm)[2] |
| TT | AA・AB・E から送風で選り分けた密度の低い豆 | 送風により密度で分ける[2] |
| T | 最も小さい豆(欠けた豆や小さい C) | 2.9 mm のふるいを通る[2] |
規則は、等級を名乗る場合は豆の95パーセント以上がその等級に入っていなければならないとしている[2]。同じ規則は、この表の外の等級として MH(重いムブニ)と ML(軽いムブニ)も挙げ、密度で分けるとしている[2]。
ナイロビ・コーヒー取引所も、AA をスクリーン18、AB をスクリーン16〜17とする同じ対応を格付け表に載せている[3]。そのうえで取引所は、格付けを決める要素として、粒の大きさ(スクリーンサイズ)に加えて、豆の重さと密度、欠点豆の少なさ、カップ品質(味と香り)を挙げている[3]。AA・AB という記号そのものは粒の大きさで決まる分類であり、カップ品質はそれとは別に評価され、大きさとは別に価値に影響しうるとされている[3]。
ケニアの規則と取引所の格付け表に基づく言葉
AA・AB・PBという表示は、粒の大きさや形という物理的な基準に基づく分類であり、その基準はケニアの規則と取引所の資料で確認できる[2][3]。AAという記号の意味とその範囲については、ケニアコーヒーのAA等級を扱う記事で詳しく確認できる。
生産国の輸出規格に委ねられた言葉
コロンビアスプレモやクリスタルマウンテンは、規約が「同国輸出規格に基づく」と書くだけで、粒の大きさや品質の基準自体は書いていない言葉である[1]。生豆の等級づけがどのような視点でなされるかという一般的な考え方については、生豆の等級を扱う記事にまとめられている。
AAという記号は、21のふるいを通り18に残る平豆という、粒の大きさによって決まる分類である[2]。ナイロビ・コーヒー取引所は、味と香り(カップ品質)は粒の大きさとは別に評価され、それが価値に影響しうると説明している[3]。袋に AA とあれば、まず「大粒の平豆である」ことが分かる。
結論|選ぶときの使い方
四つの表を通して見えるのは、袋の言葉が「規約が中身を保証する言葉」と「生産国の規格を知らないと読めない言葉」の二層に分かれているという構図である。この構図を一覧にすると、次のようになる。
| 言葉の種類 | 中身を決めるもの | 例 |
|---|---|---|
| 日本の規約が意味を決める言葉 | 公正競争規約・施行規則とその別表 | ブルーマウンテン、○○ブレンド、炭火焼、カフェインレス[1] |
| 生産国の規格に委ねられた言葉 | 生産国の規則・輸出規格・取引所の格付け表 | クリスタルマウンテン、コロンビアスプレモ、AA・AB[1][2] |
銘柄名を見たときは、まず表1でその言葉が地区まで絞っているか、国や州までか、それとも「同国輸出規格に基づく」という委任型の言葉かを確認する。等級を見たときは、その記号の基準がどの国のどの規格にあるかを確かめる。ケニアの AA・AB は、同国の規則でふるいの目、つまり粒の大きさとして定義されている[2]。一括表示の枠は銘柄名や等級とは独立して、品名・原材料名・内容量・賞味期限をはじめとする規約第3条の項目を示しており、袋のどこを見ればどの情報が得られるかを分けて考えることが、表示を読むうえでの実用的な出発点になる。
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参考文献
- レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約及び同施行規則(令和6年10月1日施行)
https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/b05_H_coffee.pdf - Kenya|The Crops (Coffee) (General) Regulations, 2019(Legal Notice No. 102)
https://infotradekenya.go.ke/media/Legal Notice 102 – Coffee General Regulations.PDF - Nairobi Coffee Exchange|Understanding Kenya Coffee Grades
https://www.nairobicoffeeexchange.co.ke/kenya-coffee-origin/coffee-grades
