「喫茶店営業の許可施設数」と「喫茶店の事業所数」は、同じ喫茶店という言葉を使っていても数えているものが違い、片方をもう片方の代わりに読むことはできない。厚生労働省の衛生行政報告例では喫茶店営業の許可施設数が209,604(平成28年度末現在)[2]、総務省統計局の経済センサスを資料とする全日本コーヒー協会の表では喫茶店の事業所数が67,198(2016年)とされている[3]。この2つの数字がなぜ一致しないのかを、数える主体・数える単位・時点の3点から確認する。
許可の統計が数えるもの
喫茶店営業という区分の定義
食品衛生法施行規則は、喫茶店営業を「喫茶店、サロンその他設備を設けて酒類以外の飲物又は茶菓を客に飲食させる営業をいう」と定義している[6]。この括弧書きはいまの施行規則の第66条の3にある[6]。平成28年度の衛生行政報告例では、喫茶店営業は飲食店営業とは別の営業許可種別として数えられている[2]。ここで数えられるのは、喫茶店営業の許可を受けた施設の数であって、街にある店の数そのものではない。
厚生労働省の統計が示す数字
厚生労働省「平成28年度衛生行政報告例の概況」は、許可を要する食品関係営業施設を営業許可種別にみると、「飲食店営業」の1,420,492施設、「乳類販売業」の230,480施設、「喫茶店営業」の209,604施設が上位を占めている、と記している[2]。これらはいずれも各年度末現在の数字であり、前年度に比べて減少しているとも述べられている[2]。ここで目を向けたいのは、飲食店営業と喫茶店営業が別の許可区分として並んで集計されている点である。喫茶店という言葉を店の看板や業態の呼び名として使う場面と、法令上の許可区分として使う場面とは、同じ語でも指している対象が異なる。
衛生行政報告例の概況では飲食店営業・乳類販売業・喫茶店営業が別の営業許可種別として並記される[2]。喫茶店という名の店が実際にどの区分の許可を得ているかは、この並びだけからは判別できない。
許可の中身にあるもの
自動販売機という許可取得施設
厚生労働省の検討会のとりまとめは、調理機能を有する自動販売機による販売業の現状として、コップ販売式自動販売機を含む食品に直接触れる構造を有する自動販売機による食品の販売業は要許可業種(飲食店営業、喫茶店営業、乳類販売業)であるとしたうえで、「許可取得施設数は喫茶店営業209,604のうち自動販売機182,032」と記している[1]。この記述から分かるのは、喫茶店営業という許可区分の施設数の大半が、店舗ではなく自動販売機に対して出されたものだという事実である。とりまとめは、この2つの数字を、自動販売機による食品の販売業が要許可業種であるという現状の説明に続けて示しており、冒頭で、許可件数は「平成28年度衛生行政報告例」によると注記している[1]。
この事実から読み取れる範囲
209,604という許可施設数は、カウンターのある喫茶店の数を直接表す数字ではない。むしろ、その大半を占めるのが自動販売機による許可取得施設だったという点に、この統計の性質が表れている[1]。ここで注意したいのは、209,604から182,032を引いた残りが「本当の喫茶店」の数だと解釈することはできないという点である。とりまとめのこの箇所は喫茶店営業の許可取得施設数と、そのうち自動販売機である施設数の2つしか示しておらず、残りの施設がどのような業態であったかには触れていない[1]。許可区分の内側にどのような店舗・施設が含まれるかは、この資料の範囲では特定できない。
喫茶店営業という許可区分の大半が自動販売機だったという事実は、許可件数という統計量が業態の実数を直接表すとは限らないことを示す一例である[1]。許可区分の名称から店舗数を逆算する読み方には注意が要る。
事業所の統計が数えるもの
現行の産業分類における喫茶店
現行の分類では、日本標準産業分類(令和5年7月改定)の細分類7671「喫茶店」は「主としてコーヒー、紅茶、清涼飲料などの飲料や簡易な食事などをその場所で飲食させる事業所をいう」と説明されており、事例としてフルーツパーラー、音楽喫茶、珈琲店、カフェが挙げられている[5]。この説明は現行の版(2023年7月改定)のものである。2016年の調査は2023年の改定より前に行われているので、この文言を2016年の調査が数えた定義としては読まない。ここで分かるのは、現行の分類において「喫茶店」という細分類がどのような事業所を指す言葉として使われているかという点である[5]。
全日本コーヒー協会が再掲した数字
全日本コーヒー協会の表は、資料を総務省統計局の調査とし、2016年(平成28年)の喫茶店の事業所数を67,198、従業者数を328,893としている[3]。この表の資料注記には、2016年の数字の出所として「平成28年経済センサス活動調査結果」が記されている[3]。つまり67,198という数字は、協会が独自に調べて算出したものではなく、総務省統計局の平成28年経済センサス‐活動調査の結果を、協会が表の形で再掲したものである[3][4]。数字の出どころをたどるときは、この再掲という経路を踏まえておく必要がある。
- 許可の統計:厚生労働省の衛生行政報告例が、許可を受けた営業施設の数を年度末現在で集計する
- 事業所の統計:総務省統計局の経済センサス‐活動調査の結果を、全日本コーヒー協会が資料として再掲する
事業所の統計の対象と時点
調査対象から除かれるもの
総務省統計局の「平成28年経済センサス‐活動調査の概要」は、調査の対象を「以下に掲げる事業所を除く全国全ての事業所及び企業」としており、除かれるものの1つに「国・地方公共団体の事業所」が挙げられている[4]。このほか農業・林業や漁業に属する個人経営の事業所など、いくつかの類型が除外対象として列挙されている[4]。許可の統計が許可を受けた営業施設を数えるのに対し、事業所の統計は、これらを除く全国全ての事業所及び企業を対象にしている[4]。この対象範囲の違いも、2つの数字を単純に比較できない理由の1つになる。
調査の期日という切り口
平成28年経済センサス‐活動調査の調査の期日は平成28年6月1日である[4]。一方、衛生行政報告例が示す許可施設数は各年度末現在の数字である[2]。年度末と6月1日という2つの時点は、同じ「2016年」や「平成28年」という年の呼び方で語られることがあっても、暦の上では異なる日付を指している。統計を読むときには、同じ年に属する数字であっても、どの日付時点の数字かを個別に確認する姿勢が要る。
- 許可の統計の時点:各年度末現在[2]
- 事業所の統計の時点:平成28年6月1日[4]
経済センサス‐活動調査は国・地方公共団体の事業所などを除外して集計している[4]。除外の範囲自体が許可の統計とは異なる設計であり、この違いも2つの数字の性質を分ける要因の1つである。
2つの統計を並べる条件
ここまでに確認した内容を整理すると、次の表のようになる。
| 項目 | ①許可の統計(衛生行政報告例) | ②事業所の統計(経済センサス‐活動調査) |
|---|---|---|
| だれの統計か | 厚生労働省の衛生行政報告例[2] | 総務省統計局の経済センサス‐活動調査。全日本コーヒー協会が資料として再掲[3][4] |
| 何を1と数えるか | 喫茶店営業の許可を受けた施設[2] | 事業所。現行の分類は喫茶店を「その場所で飲食させる事業所」と説明している[5] |
| 自動販売機は入るか | 入る(喫茶店営業の許可のうち大半が自動販売機)[1] | 現行の分類の説明は「その場所で飲食させる事業所」である[5] |
| いつの時点か | 各年度末現在[2] | 平成28年6月1日[4] |
| 数字 | 209,604(平成28年度末現在)[2] | 67,198(2016年、協会の表による再掲)[3] |
この表を並べる条件は、①の許可施設数と②の事業所数を、同じ対象を別の角度から測った数字として扱わないことにある。数える主体も、数える単位も、時点も異なる以上、両者の差や比から新しい意味を導くことはできない。表はあくまで、それぞれの統計が何を前提に作られているかを並記したものである。
言えることと言えないこと
2つの統計から言えること
ここまでの資料から言えるのは、次の2点である。第一に、喫茶店営業という許可区分の施設数209,604のうち、大半が自動販売機による許可取得施設だったという事実である[1]。第二に、許可の統計と事業所の統計は、数える主体・単位・対象・時点のいずれにおいても異なる設計で作られているという事実である[1][2][3][4][5][6]。この2点は、それぞれの出典が明文で述べている範囲にとどまる。
言えないこと
一方で、ここから先を推測で埋めることはできない。自動販売機を除いた残りの施設数が「街の喫茶店」の数だと読み替えることはできない。とりまとめのこの箇所は、喫茶店営業の許可取得施設数と自動販売機の施設数の2つしか示しておらず、残りの施設がどのような業態だったかには触れていない[1]。また、看板に喫茶店と掲げる店がどの許可区分(喫茶店営業か飲食店営業か)を得ていたかについても、本記事で参照した資料からは分からない。衛生行政報告例には飲食店営業という別の区分が1,420,492施設あることが示されているが[2]、喫茶店という業態の店舗がこの2つの区分のどちらに分類されていたかは、この2つの統計からは分からない。
結論
喫茶店営業の許可施設数209,604と、喫茶店の事業所数67,198は、どちらも「喫茶店」という言葉を含む統計でありながら、数える主体・単位・対象・時点が異なる。前者は厚生労働省の衛生行政報告例が数えた、許可を受けた営業施設の数であり、その大半を自動販売機が占めていたことが分かっている[1][2]。後者は総務省統計局の経済センサス‐活動調査を元に全日本コーヒー協会が再掲した事業所数であり、現行の産業分類は喫茶店を「その場所で飲食させる事業所」と説明している[3][4][5]。統計の数字を目にしたときは、だれが・何を1と数え・いつの時点のものかを先に確かめる姿勢が、こうした読み違いを防ぐ具体的な一歩になる。喫茶店の軒数がどのように推移してきたかは日本のコーヒー統計のページに、喫茶店という場そのものの文化史は喫茶店文化の歴史を扱う記事に委ねる。
あわせて読みたい
参考文献
- 食品の営業規制に関する検討会 とりまとめ(政省令関係事項)/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000562272.pdf - 平成28年度衛生行政報告例の概況/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/16/dl/gaikyo.pdf - 喫茶店の事業所数及び従業員数〔産業(小分類)別-全国〕/全日本コーヒー協会
https://ajca.or.jp/pdf/data-jigyosho-jyugyoin2021.pdf - 平成28年経済センサス‐活動調査の概要/総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/e-census/2016/gaiyo.html - 日本標準産業分類(令和5年[2023年]7月改定)細分類 7671 喫茶店/総務省(e-Stat)
https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10/04/7671 - 食品衛生法施行規則 第66条の3/e-Gov 法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100023
