カスティージョ(Castillo)は、コロンビア国立コーヒー生産者連合会(FNC)傘下のセニカフェ(Cenicafé)が2005年にリリースした、さび病耐性を持つアラビカ品種である。1968年に始まったさび病耐性の育種計画から生まれ、ティモール・ハイブリッド由来の耐性を受け継ぎながら、在来のカトゥーラやティピカに近い品質を保つことを目指した[4]。さび病対策の改植では植え替えの9割超がカスティージョで、2012年にはさび病耐性品種がコロンビアの栽培面積の54%を占めた[5]。小規模農家の収益安定に寄与している一方、スペシャルティ市場では「カトゥーラに比べて風味が平坦」との評価も根強く、品質論争が続いている。
- カスティージョはさび病耐性と在来種の風味を両立させたアラビカ品種である。
- カスティージョはコロンビアの主要品種として普及し、Cenicafé の比較では1樹あたりの収量がバリエダ・コロンビアより多い。
- 産地名と精製方法を手がかりに味わうと、好みの風味プロファイルを見つけやすい。
カスティージョとは
FNCとセニカフェによる開発
カスティージョは、コロンビア国立コーヒー生産者連合会(Federación Nacional de Cafeteros de Colombia, FNC)の研究機関セニカフェ(Cenicafé)が、1968年に始めた品種改良計画のなかから2005年に正式リリースした品種である[4]。開発の主眼は、さび病(Hemileia vastatrix)への耐性獲得と、従来の在来種(カトゥーラ、ティピカ)が持つ風味品質の両立にあった。セニカフェは、ティモール・ハイブリッド由来のさび病耐性遺伝子を導入しつつ、カトゥーラと交配し、その子孫を自殖で世代を進めながら選抜を重ねることで、カティモール特有の「ロブスタ的な苦味・ゴム臭」を薄め、アラビカらしい酸味と甘みを残す設計を目指した。
品種名の由来
カスティージョという名称は、セニカフェの研究者ハイメ・カスティージョ・サパタ(Jaime Castillo Zapata、1928〜2001)に由来する[5]。
遺伝的背景
カスティージョの系統図は複雑だが、主要な祖先は以下の通りである。
| 世代 | 親品種 | 寄与する特性 |
|---|---|---|
| F1 | カトゥーラ(母)×ティモール・ハイブリッド CIFC#1343(父) | さび病耐性遺伝子 |
| F2〜F5 | F1 からの自殖と選抜 | 風味品質 |
| F6以降 | 地域系統選抜 | 地域適応性、収量安定性 |
ティモール・ハイブリッドは、東ティモールで自然交雑によって生まれたアラビカとロブスタの種間雑種であり[1]、ロブスタ由来のさび病耐性遺伝子を持つ。セニカフェはこの耐性をカトゥーラと掛け合わせ、自殖で世代を進めながら選抜を重ねた[4]。結果として、カスティージョはアラビカ種(Coffea arabica)の品種(複数の系統の種子を混ぜた複合品種)であり[5]、ロブスタ(Coffea canephora)[3]とは明確に区別される。
開発背景
さび病が来る前に始まった育種
セニカフェがさび病耐性の育種計画を始めたのは1968年で[4]、最初の耐性品種バリエダ・コロンビアは、さび病がまだ国内に無い1982年に配布された[6]。さび病はカビの一種(Hemileia vastatrix)が葉の裏に寄生し、光合成を阻害する病害で、感染が進むと葉が黄変・落葉し、樹勢が衰える。当時の主力だったティピカ、ブルボン、カトゥーラは、いずれもさび病に感受性の品種だった[4]。
1968年の計画から2005年のカスティージョへ
セニカフェの計画は、まず1982年にバリエダ・コロンビアを出し[6]、その後の選抜を経て2005年にカスティージョを出した[4]。カスティージョは、選び抜いた複数の系統の種子を混ぜた複合品種で、各地で5年間の圃場評価を行って構成する系統を決めている[5]。耐性の親であるティモール・ハイブリッドは、さび病への特異的な抵抗性の因子を少なくとも5つと、不完全抵抗性の多遺伝子的な背景を持つとされる[4]。
栽培特性
さび病耐性のメカニズム
カスティージョは、耐性の親であるティモール・ハイブリッドを、完全抵抗性と不完全抵抗性の両方の供給源として使う方針で育成された[4]。
収量と栽培密度
Cenicafé の比較では、カスティージョの1樹あたりの年間収量(チェリー)はバリエダ・コロンビアの5.75kgに対して7.89kgで、大粒(スプレモ)の割合も52.8%に対して83.0%と高い[5]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収量 | 1樹あたり年7.89kg(バリエダ・コロンビアは5.75kg)[5] |
| 樹形と株間 | 樹高は中くらい(約2.4m)で枝が長く、カトゥーラ(1ヘクタールあたり1万本)より株間を広く取る。推奨は1ヘクタールあたり7,500本以上[5] |
ただし、改植には苗木や肥料の初期投資がかかり、小規模農家にとっては負担が大きい。カルダス県では、県・市町村・県のコーヒー生産者委員会が資金を出し合い、改植した畑の肥料を支える取り組みも組まれている[7]。
栽培適地と地域系統
カスティージョは、標高1,200〜2,000mの広い範囲で栽培可能だが、地域ごとに適応系統が異なる。セニカフェは2005年、カスティージョと同時に、特定の地域に合わせた7つの地域系統(プエブロ・ベージョ、エル・ロサリオ、サンタ・バルバラ、ラ・トリニダード、パラグアイシト、ナランハル、エル・タンボ)を出した[6]。
これらの系統は、それぞれの産地の気候・土壌に最適化されており、一律の「カスティージョ」として扱うと、ポテンシャルを引き出せない場合がある。
風味の品質論争
カトゥーラとの比較
カスティージョの風味評価は、比較対象や精製方法によって大きく変動する。セニカフェの公式データでは、ウォッシュト精製のカスティージョはカトゥーラと「統計的に有意な差がない」とされるが、スペシャルティ市場のカッパーからは「酸味の明瞭さに欠ける」「ボディが薄い」との指摘が多い。
一方、嫌気発酵などの精製を組み合わせたカスティージョのロットも、スペシャルティとして流通している。
ロブスタ的特性の残存
カスティージョの遺伝的背景にはロブスタ(Coffea canephora)[3]由来の遺伝子が残存しており、これが風味に影響を与える可能性が指摘されている。ロブスタは、アラビカ(Coffea arabica)[2]に比べてクロロゲン酸含量が高く、苦味と渋みが強い傾向がある。カスティージョのカップ評価で「後味の苦味が長く残る」「アフターが重い」といったコメントが付く場合、この遺伝的背景が一因と考えられる。
ただし、カスティージョとカトゥーラのクロロゲン酸含量を直接比べた資料は見当たらず、「ロブスタ的」という評価がどこまで成分の差に由来するかは分からない。
精製方法との相互作用
カスティージョの風味特性は、精製方法によって大きく変化する。ウォッシュト精製では、カトゥーラに比べて「クリーンだが平坦」という評価が多いが、ナチュラル精製では「果実味が強く、ボディが厚い」との評価が増える。これは、カスティージョのチェリーが果肉の糖度が高く、乾燥過程で果肉由来の成分が豆に浸透しやすいためと推測される。
コロンビアでの普及
栽培面積の推移
カスティージョは、リリース後に急速に普及した。セニカフェの2012年の資料によると、さび病対策の改植キャンペーン「Colombia sin Roya」で23万4,000ヘクタールが植え替えられ、その9割超がカスティージョで、さび病耐性品種の栽培面積は54%になった(SICA、2012年参照)[5]。
小規模農家への影響
カスティージョの普及は、小規模農家(栽培面積3ヘクタール未満)の収益安定に大きく寄与した。従来、小規模農家はさび病対策として殺菌剤の散布を続ける必要があったが、カスティージョへの改植により、その負担を減らせる。
一方で、スペシャルティ市場を志向する農家の間では、カスティージョへの改植を躊躇する声もある。カトゥーラやティピカは「伝統品種」としてのブランド価値があり、バイヤーが明示的に指定する場合も多い。こうした農家は、カスティージョを低地の圃場に植え、高地にはカトゥーラを残す「ゾーニング戦略」を採る傾向がある。
国際市場での評価
国際市場では、カスティージョは「コロンビア産アラビカ」として取引されるが、品種名が明示されることは少ない。大手ロースターは、カスティージョとカトゥーラを区別せず、産地(ウイラ、ナリーニョ、アンティオキアなど)と精製方法を主な選別基準としている。一方、スペシャルティ市場では、品種情報を重視するバイヤーが増えており、「カトゥーラ100%」や「ティピカ100%」と明記されたロットが選ばれる場合もある。
関連する産地と品種
カスティージョはコロンビア国内で広く栽培されているが、産地ごとの風土(テロワール)によって風味プロファイルは大きく異なる。特にナリーニョ県やウイラ県など、標高1,800m以上の高地で栽培されたカスティージョは、酸味の明瞭さと果実味の複雑さが増す傾向がある。コロンビアの主要産地については、別記事「コロンビア産コーヒー完全ガイド|アンデス山脈と高地栽培の科学」で詳述している。
また、カスティージョと同様にさび病耐性を目的に開発された品種として、コスタリカのサチモール、ブラジルのイカトゥ、エルサルバドルのパカマラ(耐病性は限定的)などがある。これらの品種は、それぞれ異なる遺伝的背景と風味特性を持ち、産地ごとの栽培戦略に影響を与えている。品種間の比較については、カテゴリ「コーヒー品種」の各記事を参照されたい。
コーヒー豆そのものの選び方や産地・品種の全体像は、コーヒー豆を知る完全ガイドで体系的に整理しています。
結論
カスティージョは、コロンビアのコーヒー産業が直面したさび病への備えとして1968年に始まった育種計画から生まれた品種である。耐病性と多収性により小規模農家の経営を安定させた一方、スペシャルティ市場では「カトゥーラに及ばない」との評価も根強く、風味品質をめぐる議論は今も続いている。ただし、近年の精製技術の進化により、カスティージョでも高スコアを獲得する事例が増えており、品種単体の特性よりも、栽培管理・収穫タイミング・精製設計の総合力が風味を左右する時代に入りつつある。
自宅でコロンビア産の豆を選ぶ際、パッケージに「カスティージョ」と明記されている例は少ないが、コロンビアではさび病耐性品種が栽培面積の半分を超えており(2012年に54%)[5]、パッケージに書かれていなくてもカスティージョである可能性は高い。産地名(ウイラ、ナリーニョなど)と精製方法(ウォッシュト、ナチュラルなど)を手がかりに、まずは先入観なく味わってみることをおすすめする。カトゥーラとの違いを探すよりも、自分の好みの風味プロファイル(酸味の質、ボディの厚み、後味の長さ)を基準に選ぶほうが、満足度の高い一杯に出会える確率は高い。
あわせて読みたい
参考文献
- World Coffee Research「Arabica Varieties Catalog — History of Arabica」
https://varieties.worldcoffeeresearch.org/arabica-2/history-of-arabica - Royal Botanic Gardens, Kew「Arabica coffee (Coffea arabica)」
https://www.kew.org/plants/arabica-coffee - 国際コーヒー機関(ICO)「Botanical Aspects」(旧サイトの植物学解説。アラビカ/ロブスタ比較表=カフェイン含量 0.8–1.4%/1.7–4.0%・適地標高 1000–2000 m/0–700 m・年平均気温 15–24℃/24–30℃・さび病 感受性/耐性・コーヒーベリー病 感受性/耐性・収量 1500–3000/2300–4000 kg/ha)※現行サイトから消失のため Internet Archive の 2015-02-21 保存版。旧出典 Kew「Robusta coffee」は 2026年9月時点で 404
https://web.archive.org/web/20150221062245/http://www.ico.org/botanical.asp - Cenicafé「Avances Técnicos 337 — CASTILLO: Nueva variedad de café con resistencia a la roya」(2005年7月)
https://biblioteca.cenicafe.org/bitstream/10778/401/1/avt0337.pdf - Cenicafé「Avances Técnicos 426 — Variedad Castillo」(2012年12月)
https://biblioteca.cenicafe.org/bitstream/10778/410/1/avt0426.pdf - Flórez, C. P., Quiroga-Cardona, J., & Arias, J. C. (2021)「Variedades del Café」Cenicafé『Guía más agronomía, más productividad, más calidad』第3版 pp.11–29(2026年10月19日閲覧)
https://doi.org/10.38141/10791/0014_1 - Comité de Cafeteros de Caldas「Convenio tripartita para apoyo a la renovación daría $1.800 millones adicionales para fertilización」(2026年10月19日閲覧)
https://caldas.federaciondecafeteros.org/listado-noticias/convenio-tripartita-para-apoyo-a-la-renovacion-daria-1-800-millones-adicionales-para-fertilizacion/
